8 掴みたい幸せ
医務室にあまり長居しすぎると、いつ人が来るか分からないし、この話はあまり他の人に聞かれたくない。
一度医師を呼び、帰っても良いと許可をもらった私たちは、一旦私の部屋に移動することにした。
「それにしても……階段から落ちてよくその怪我で済んだわね」
「慣れてますからね。もっとも突き落とされたのは油断しましたけど」
リリアは生まれ変わる前、幼い頃からアイドルとして芸能活動をしていたそうだ。幅広く活動していて、音楽関係だけでなく、舞台やドラマといった女優業もこなし、運動も得意だったらしい。
先程の「慣れている」というのは、柔道の有段者だったため受け身が得意なのと、舞台で階段落ちをやっていたためであるようだ。
流石にリリアとして生きている中で、誰かから手を出されたことはないらしく、思わず安堵した。
「リコリス様は、リゲル殿下のことが好きなのですか?」
「……そうね。わたくしは殿下のことが好きですわ。昔からずっと……」
前世を思い出す前の自分も、もちろん私の中にあって、当時の気持ちが消えたわけではない。それにゲームでも、リゲル殿下が一番の推しだった。
リゲル殿下のルートが一番私にとって救いがないため、避ける方向に動いていたが、今でも好きな気持ちに変わりはなかった。
「でしたら、そこを目標にしましょうよ! 断罪を避けるという後ろ向きな目標じゃなくて、殿下と結ばれる未来を目指す……生き残るだけじゃなくて、リコリス様が一番幸せになる選択で良いではないですか?」
「でも、リリアさんが好きな相手と結ばれないと、この世界が救われない……」
王族や高位の貴族家は、精霊との繋がりが強い。けれど、光の精霊との繋がりを持つ人だけが、今この国にはいなかった。
すべての精霊のバランスが崩れると、この国は滅びを迎えてしまう。光の精霊は人の想いに共感する精霊だと聞いた。だからこそ、精霊に愛されているリリアが強い想いである愛を見つけることで、繋がりを得ることができるはずだ。
「リコリス様。私は、今までリゲル殿下が好きだと言った覚えは一度もありません……正直なところ誰かに恋をしているわけではないですけど、今のところ気になる方は、カストル様だけです」
「そうなのね……ってお兄様!?」
「はい。今まで恋愛をしたことはないので、はっきりとは言えないですけど、他の異性とは別の意味で気になってます」
リリアは顔を赤くしながら口にする。その表情を見て、思わずキュンとしてしまった。
顔を赤くして恥じらう姿は庇護欲を掻き立てられるほど可愛らしい。さすがヒロインだ。私も危うく一目惚れしかけたくらいだ。
「なるほどね……それは良いとして、リリアさんの嫌がらせをなんとかしないといけないわね」
「リゲル殿下やカストル様にも何度か、リコリス様は関係ないと伝えているんですけど……まったく聞き入れてくれないのですよね」
リリアはため息を吐きつつ、困った様子で頬に手を当てる。
二人とも今までの私をよく知っているから、私のことを一切信頼していないはずだ。実際、過去の私の心情のまま学園にいたら、リリアのことを虐めていただろう。
あるいは、ゲームのストーリーへの強制力でもあるのかもしれない。
その後、これから先のことを相談して、今日はお開きとなった。




