2 ヒロインとの邂逅
入学式の前日、私は専属メイドのシーナを伴って学園に来ていた。
学園の寮へ引っ越しをするための準備である。
この学園は、表向きは身分を気にしない平等を謳っている。けれど実際には、寮の部屋割りからして階級の差が表れていた。
公爵家の私は広めの一人部屋だが、子爵家以下の生徒は二人部屋以上の共同生活になる。部屋の内装も、家格や寄付金の額が高いほど華美なものとなる。
こうしたところに、身分の違いは割と如実に現れていた。
学園での生活も、実際には王族や高位の貴族が幅を利かせている。学校のルールとは別に、社交界のマナーにも縛られているのだ。
実際のところ、この学園は貴族社会の縮図と言えるだろう。
「シーナ。部屋の準備をお願いね。わたくしは少し周りを見てくるわ」
「承知いたしました」
荷物を運び終えると、私はシーナに部屋のことを任せて寮の入り口へ向かった。
私の知識が正しければ、ヒロインも今日ここへやって来るはずだからだ。
この世界を終わらせないためには、ヒロインに攻略対象の誰かと結ばれてもらわなければならない。
もし私の婚約者であるリゲル殿下をヒロインが選んだ時は、二人には結ばれてもらう必要がある。
私たちの婚約は両家が決めた義務的なものであってリゲル殿下は私のことを好いてない。ヒロインとリゲル殿下が結ばれて全員が幸せになるのなら、それに越したことはないだろう。
今の私にとってもっとも大切なのは断罪だけは必ず避けて、この世界も存続させることだ。
今度こそ長生きするためにも、そのための準備はしておかなければならなかった。
入り口のエントランスで少し待っていると、ヒロインがやって来た。
少し長めの薄いピンク色の髪をした、愛嬌のある可愛らしい少女。
平民として過ごしてきた彼女には裏表がなく、優しそうな雰囲気がある。高圧的な女性と接することの多い貴族令息たちにとっては、きっとそういうところが刺さるのかもしれない。
「はじめまして。今日からここに住むリリアです。入寮する場合ってどのようにするか教えてもらえませんか?」
「エントランスの正面の扉の先に案内人がいますわ……それから目上の人にいきなり声をかけるのは、相手によっては咎められますのよ」
「そうなのですね……すみませんでした。気をつけます」
少し言葉を交わしたあと、リリアはエントランスの奥へと進んでいった。
その背中を見送りながら、最初の掴みとしてはまずまずだろうと頷く。
断罪されないためにも、ヒロインであるリリアとは仲良くなりたい。
ただ、もし彼女へのいじめが起きた場合、私がやっていなくても私のせいにされる気がしていた。
だからこそ、他の貴族令嬢から目をつけられない程度に。そして高圧的にならないよう気をつけながら、少しずつ所作を教えていこうと思っていた。
——ヒロインはゲームのままなのね……
リリアというのは、ゲームを始める時のデフォルトネームだ。ゲームではプレイヤーが好きな名前に変更することができた。
ゲームでは、私がリリアを強く叱責する。けれど先ほどの彼女は特に変わった反応を見せなかった。そう考えると、リリアには前世の記憶などはないのだろう。
性格も話し方も、私の知るヒロインそのものだった。
私という前例があるから警戒していたが、杞憂に終わりそうでなによりだ。
リリアとの出会いイベントを終えた私は、そのまま男子寮へ向かう。
異性である私は寮内に入れないため、寮の外にいる職員にお願いして、リゲル殿下に手紙を渡してもらうことにした。
婚約者でいる間は、きちんと務めを果たさなければならないからだ。




