18 舞踏会での断罪-後編-
私のそばにいたリゲル殿下が、リリアを庇うように立つ。
「カノープス、君の言う通り、貴族とは誇り高いものだ。だからこそ、一度口にした言葉を取り消すことはできない。そう思わないかい?」
リゲル殿下の言葉に、カノープスは言葉に詰まった。
「ロベリア嬢、ピンク色の髪の子がリリア嬢だけだったから犯人だと思った。けれど、もう一人いたようだね。リリア嬢の髪を模したカツラを被る……なんとも怪しい。そして、カルミア嬢とサフラン嬢。君たちは同室で、このカツラをよく知っているようだけど……状況証拠的には、君たちの方が怪しいと思うけどどうかな?」
ロベリア、カルミア、サフランの三人は必死に反論を考えているようだった。けれど言葉が出てこないのか、口をぱくぱくと動かすばかりだった。
周囲の反応も、先ほどまでとは百八十度変わっている。今度は三人へ向けて、鋭い視線が集まっていた。
「いや失礼。自白は正式な証拠だったよ……衛兵たち、三人を連行してくれ。それから彼女たちの寮も念入りに調べておいて」
リゲル殿下の命を受け、衛兵たちが三人を連れて行く。
「さて皆さん。長い間悪い噂になっていた、リコリス嬢とリリア嬢については冤罪だということが判明したわけで、解決したも同然だ。舞踏会を楽しんでくれ」
その言葉を合図にするように、舞踏会は再び動き出した。
私は踊ることができないため、少し端の方から会場を眺める。すると、リゲル殿下が隣にやって来た。
「全て知っていた上だったんですね……」
「いや、正確には少し違うな。細かいことはリリア嬢から聞くといい。いい友人を持ったものだな」
「そうですね……少し前では想像もできませんでした」
幼い頃の私は、家族以外の貴族を家格でしか見ていなかった。平民にいたっては、私の命令を聞いて当然の存在だとすら考えていた。
そんな私が、身分や立場を超えて誰かと友人になる。
過去の私に話したところで、きっと信じてはくれないだろう。
「昔は何を考えているのか分からなかった。使用人たちに当たり散らして……他の令嬢と同じで、王太子という立場だけを狙っているのかと思っていた。だけど、今のリコリスの笑顔は素敵だと思う。君と婚約できてよかった」
「わたくしもリゲル殿下の婚約者になれて良かったです。とても今、幸せですわ」
リゲル殿下から褒められ、婚約できてよかったと言われたことで、胸の奥が温かくなる。
それからは、お互いに言葉を交わさない時間が続いた。
けれど、その沈黙は気まずいものではない。ただ近くにいてくれるだけで安心できる、穏やかで心地よい時間だった。
しばらくすると、お兄様とリリアが踊り終え、こちらへ向かってくるのが見えた。
リゲル殿下は周囲へ挨拶をしてくるとのことで、入れ替わるようにその場を離れていく。
「リコリス、よかったな。これでもう、学園でリコリスを傷つける者はいないと思う。リリアと積もる話もあるだろうし、じっくり話すといい」
「お兄様もありがとうございました」
私がお礼を伝えると、お兄様は私の頭を軽く撫でるようにしてから、少し離れた場所へ移動した。
私とリリアの話には加わらない。
けれど、何かあった時にはすぐ割って入れる、絶妙な距離だった。
「リリアも無事でよかった……断罪されたらどうしようかと」
「私も確証はなかったの。上手くいってよかったわ」
そうして私は、リリアから今回の顛末について聞くのだった。




