006 母の愛、そしてギャングとのケンカ
「美味しいね」
さすが金持ちの飯だと感じる。母の属す『スターリング銀行』は、世界でも有数の資産を持つ。いくら僻地のピースランド支部とはいえ、その銀行は市民の生活に根付いている。それに、近いうちにアンゲルス連邦共和国の本島へ戻る話があるくらいだから、母・リナはよほど有能だ。
「子どもは食べないと身長伸びないからね~。お母さんみたいに、ナイススタイルになりたいのならなおさらだよ」
中身が男なので、少なくとも今はナイススタイルに憧れていないが、まぁそのうち憧れるときが来るかもしれない。10年間、完全に女子として過ごした事実は揺るがないからだ。
「そうだね。お母さん、スタイル良いもん。それだけ顔良くてスタイル良いなら、なんで再婚しなかったのか不思議なくらいだよ」
「セラちゃん、お母さんみたいに仕事のできる女のヒトはモテないのよ」
「そうかな」
「それに、お母さんにはセラちゃんがいるからね。仕事とセラちゃんの顔を見られれば、もう男のヒトと付き合おうなんて思わないんだよ」
なんて良い母親だろう。会う度にカネをせびってきた母と、資産目当てで自称父親が5人現れたことを思えば、リナは親として最高だ。
「ふーん。まぁ、新しいお父さんができても嬉しくはないね」
「でしょ?」リナのスマートフォンが鳴る。「あ、仕事みたい。セラちゃん、ちょっと席外すよ。本当はもう少しセラちゃんの顔を見ていたかったけど……」
「大丈夫。ありがとうね。美味しいご飯を作ってくれて」
「あいさー!」
リナはスーツのまま、家から出ていく。ステーキをもぐもぐと食べながら、すでに姿を現しているマーズにスズキは声をかける。
「家族団らんを見物とは、良い趣味してるな」
「私はスズキさんについて回らないとならないので」
「あぁ、そう……」ポトフのじゃがいもにフォークを差し、食べる。「ひとつ聞きたいことがある。さっき、おれがぶっ飛ばしたギャングの組織名は?」
「グランド・スラムです」
「グランド・スラム……テニスか野球か?」
「元はテニスサークルだったようですが、犯罪しているほうが稼げることに気がついたのでしょうね。ピースランドでの構成員は2000人を数えます」
「ピースランドの人口は700万人くらいだよな? 結構な大所帯だねぇ」
2025年日本最大の暴力団と同じくらいの構成員。もちろん、ヤクザとギャングを一重に比較できないが、数は正義だ。
「グランド・スラムは、有力な幹部が皆逮捕されているため、構成員はスマホを使って横のつながりを強めています。そして──ホーミーがやられたら、必ず報復する」
「だろうな……」ポトフを飲み切る。「お母さんに迷惑かけたくないし、深夜のピースランド〝ラズベリー地区〟でもさまようか」
「随分情があるようで」
「当たり前だろ。おれみてぇなヤツは、飯を与えてくれるヒトに一生頭が上がらないのさ」
スズキの住むマンションは、セキュリティがしっかりしているとはいえ、グランド・スラムはそれすらも超えてくるかもしれない。だから先に叩いてしまおう、という算段。
「さて、ゴミをゴミ収集車に捨てる時間だ」
ステーキとポトフを食べきり、スズキはコートを羽織って外へ出る。
「どうせ待ち伏せしてるはずだ。だろ?」
「そうですね。10人くらいの構成員が、武器を持って待ち構えています」
エントランスから見える外界には、なぜ逮捕されないのか不思議なほど武器を持った連中がいた。アサルトライフル、ロケット・ランチャー、手りゅう弾、ハンドガン、その他諸々。
スズキは薄い溜め息を吐き、目を細める。
「コンビニにピザ買いに行って、ギャングとケンカすることってあり得るのかね?」




