026 どちらが幸せだったか分からないが故、未来を創っていこう
「はぁ。女子小学生ね」
ルーシがいない分気楽だけれども、結局エバに対する問題は消えない。スズキは、エバの〝それらしい〟行動を脳内で振り返る。
「やたらと家に来たがって、母がいると言ったら断ってきたことくらいか? そういう知識があるのなら、まぁ不思議でもない。うーん、どう断ろうかな。……いや、そういう知識があるのなら、逆に自分の部屋へ入れてしまえば良いのでは? 誘える理由なんて、いくらでもあるだろう」
記憶を保持しているメリットが、ここで出てくる。ボディータッチなどの露骨な行動は、むしろオリビアのほうが多かった。だが、ここで気になるのは、なぜエバは自分の家にスズキを入れなかったか、だ。
「なんか、それとなくヒントを言われていたような気がしないでもない。なにか、あのクソ露助の言っていたことが大ヒントだったような……」
スマホが鳴る。独り言を言いながら考え込んでいたスズキは、すでに終わっている荷造りを目に電話へ出た。
「やぁ。すぐ出るよ」
スズキは端的に返事し、スクールバッグにラフな格好で外へ出てしまう。
(いっそのこと、記憶を取り戻さなければ、エバにリードされるがままだったのかね。そっちのほうが幸せだったような)
先ほど、ルーシがいた場所に、黒髪碧眼の少女が立っていた。あどけない顔立ちだが、やはり整っている。ある程度オーバーサイズの小学生用学生服も、ジャストサイズになってぴったりだ。身長も同年代だと考えれば、だいぶ高い。155センチはある。セラ・スズキとしての背丈が140センチ前半なので、目を合わせようとしたら、先ほどのルーシのように見上げる羽目になる。
「久しぶり」
「あの馬鹿は?」
「リヴといっしょに登校したかったの? なんなら呼ぶけど」
「いや……貴方たち、いつもいっしょにいるじゃない。きょうもてっきり、いっしょに登校してくるものだと」
言われてみれば、嫉妬心から出てくる言葉とも取れなくはない。それが友だちとしてか、それとも恋愛的なものか。あのロシア人いわく、後者の可能性が極めて高いだろう。
「たまにはそういう日もあるよ。どうせ学校へ行ったら、リヴとも会うしね」
「まぁ良いわ」エバは髪の毛を揺らす。「私、あの子嫌いなのよ。貴方にふさわしくないもの。セラは頭が良いし、今じゃ標的金額も8億メニー超え。対してあの子は、成績も悪ければ魔術の腕も──」
「悪いけど、他人の悪口で時間は消費できないよ。そんなんじゃ、楽しくないし」
ぎょっと、エバは目を細める。スズキはそんな態度を意に介すこともない。所詮、小学生の悪口だと思えば可愛いものだが、いちいち同調を求められても困る。
「まー、良いや。エバ、この前はありがとう。私が襲撃されて意識不明になったとき、ずっとそばにいてくれたんでしょ?」
「えぇ。感謝してほしいわね」
「そうしておくよ」
スズキは、コートに手を突っ込みながら歩き始める。
「にしても、寒いよね。ここ。本島だったら、もっと暖かいらしいけど」
「これでも暖かくなったほうよ。今、5月だもの」
「5月でこれじゃ、夢も希望もない。地球温暖化がウソに思えてくる」スズキはなんてことのない話から、突如顔をあげてエバの碧い目を見る。「ところでさ、エバ。私になにか隠し事していない? 私も例の事件には感謝してるから、ここで言ってくれたら受け入れるよ。そう、なんでも」
ちょっと意地悪な笑みを交え、スズキはエバを問い詰め始める。




