023 クソ野郎でも蘇る街が故、ソイツも女になっちまう
(弱ぇのは、罪でもなんでもねぇはずなんだけどな……)
強がってなければ死んでいた前世。弱くても守ってもらえる今世。ただ、弱さをさらけ出せる強さは持っていない。
「セラちゃん?」
「あ、うん。ハンバーグとかで良いや」
「分かった!」
セラはリナのセダンの後部座席に乗り、バックミラー越しに自分の表情が見えないよう位置を調整する。今、どんな表情をしているのか。自分でも知るのが怖いからだ。
(スマホがうるさいな)
気を紛らせる方法が、現状スマホしかない。スズキはスマホのメッセージ欄を見る。
「は?」
スズキは、呆気にとられたように口を開ける。
「どうしたの? セラちゃん」
「いや、なんでもない。メッセージがたくさん来てて、びっくりしただけ」
「セラちゃんの退院を待ってる子たち?」
「うん、まぁ、そんなところ」
リナを躱し、スズキはメッセージをすべて目に通す。
『よう、ショウ。オマエがこの国に来ていたのには、正直驚いたぜ。今は楽しく女子小学生かい? 小学生だったら、夜家から出るのは難しいよな。あしたの下校時、それか登校時を指定しろ。そうすれば、家の前で待っていてやる。貴女の親愛なる友、ルーシより』
スズキは、思わず叫ぶところだった。なぜあの露助が? どうやって知った? リナへ危害をくわえるつもりか? それとも友だちに?
(クソッ……。吐き気がしてきたぜ。あの野郎、やはり死んだくらいじゃ死なねぇのか?)
胃が痛み、表情も蒼くなる。しかし、〝ルーシ〟という人間の異常性を良く知っているスズキは、せめてリナやオリビア、エバを守るため、こう返事する。
『なにが目的だ? 母を傷つけるなら、容赦しないぞ』
すぐメッセージが返ってくる。
『母親か、そりゃあ結構。オマエのような〝化け物〟でも、母の愛を知れたか。大丈夫、親や今のお友だちに危害を加えないと約束する。だいたい、そんなことをしてなんの意味がある? 分かったら、登校時か下校時を選べ。二者択一だ』
スズキは、思わず頭を抱え込む。
(コイツ、カマかけやがった。ヤサは割れてても、まさか〝おれ〟が母親と暮らしてるとは知らなかったみてぇだ……。クソッ)
緊迫し、軽く歯ぎしりしつつ、スズキは返事した。
『登校時だ。悪党のクソ野郎を友だちに見せたくない』
案の定、即座にメッセージが戻ってくる。まるで会話しているように。
『そんなこというなよ。〝怪物〟と〝化け物〟らしく、仲良くやろうぜ。昔のように』
『くたばれ、露助』
メッセージ・ルームから、謎の人物は消える。スズキは薄く溜め息をつき、遠くを見始めるのだった。
*
「……母がいねぇのが、唯一の救いか。クソッ。あの野郎、どこまでも見透かしてきやがる」
現世での母・リナは、すでに出勤している。これで、いつでもケンカができる状態だ。できればケンカなどしたくないが、いざというときは実力行使以外に道しるべがない。
スズキはエレベーターで一気に下まで降り、予定通り8時前後にエントランスへたどり着く。
すると、
「……なんでいねぇんだ?」
金髪碧眼で、前世のスズキと同じくらいの身長。性別は当然男で、多少姿が変わっていても目つきを見れば分かる。
ところが、エントランスの前にいたのは、銀髪碧眼の20代くらいの女だけ。この国では銀髪なんて珍しくないが……いや、遅刻してくるわけがない。こういう場面で必ず時間を守っていたあの男が……、
「……は?」
銀髪の女が手招きしてくる。というか、手を振っていた。スズキは怪訝に感じながらも、誰かの親かもしれない、と彼女へ近づいていく。
外へ出たら、彼女の柔和な声が聞こえてくる。
「よォ、ショウ。アンゲルスは素晴らしい国だよな。死者が蘇るし……その死人は女になっちまう。
こんな転生先、他にねェぞ」
旧友は、いつも通りの軽口を叩いてきた。




