015 賢さ故のルール、そして最後まで味方でいてくれるヒト
「そうかもね。きっと、そうに違いない」
「そういう動作が疲れてるんだって! とりあえず笑ってみたら? 笑うと幸せになれるらしーよ!」
無邪気な11歳少女からの提案に、スズキは力なく笑みを浮かべる。その表情は、自分でも分かるくらい、苦笑いだった。
「あらら……。めちゃ疲れてるみたい」
「誰だって、疲れることのひとつやふたつあるさ。特に今は」
記憶を取り戻してから、ろくな目に遭っていない。ギャングと戦争寸前まで行き、テロリストを殲滅し、自ら留置所に入り……どうせあしたも面倒な日々が待っている。諦観はスズキの特技だが、ピースランドの寒さも相まって心がおかしくなりそうだ。
「でもさ、なんでセラちゃんはこんなところに?」
「知らされていないの? ニュースとか見た?」
「ニュース嫌いだもん。テレビもそんなに見ないし」
「なら、時間を10時間くらい前に戻して。私はリヴに、テロリストがいるから通報するように言ったよね。ソイツらをぶっ飛ばしたから、ここに自首したわけ」
オリビアは、首を傾げる。
「悪いヒトを倒して、なんで留置所に入るの?」
「それが法だからだよ。ヒトを縛るために必要なのさ」
「だったら、法のほうが間違ってるよ」
「リヴ、それは危険思想だと思うよ。人間なんて、ルールに縛られて初めてまともな振りができるんだから」
「そうかな。人間って動物と比べて賢いじゃん。なら、わざわざルールなんて儲けなくても──」
「賢いからこそ、それが必要なんだよ。もう少し愚かだったら、不必要だったかもね」
平行をたどる会話を終わらせるように、一台の銀色のセダンが停まった。なかなかの高級車。ただ、運転手の正体は知っている。
「セラちゃん! 良かった……釈放されて。もしも渋るようだったら、スターリング銀行の権力を使って自治政府へ圧力を──」
「お母さん、私が間違ったことをしていないとでも?」
「自分の子を最後まで味方できるのは、親だけだからね」サラッと言い放つ。「リヴちゃんも来てくれたんだ。ごめんね~。お家まで連れて行くよ」
「はい! セラちゃんのお母さん!」
母・リナはセラに抱きつくようジェスチャーしてくる。後ろめたい気持ちしかないセラだが、とりあえず彼女と抱き合う。
「さぁ、きょうこそ仕事を終わらせたから、良いもの食べるよー!!」
リナはそう宣言する。それは良いことだ、と思いつつ、セラとオリビアは後部座席に座った。
「それにしても、リヴ。良く外出の許可出たね」
「逃げてきたんだよ。大丈夫、怒られれば終わるからさ」
「大物になれそうなメンタルだよ……」
オリビアの親は彼女を常に束縛しているが、それに馬鹿正直に従うほどオリビアも良い子ちゃんではない。彼女の言う通り、怒られれば終わる話なのだろう。
車のエンジンがかかる。スズキ、オリビア、リナの3人は、それぞれの家路につくのだった。
*
「KOM学園ピースランド分校? 総生徒500人くらいだと聞いていたが」
「でも、8億メニーはマジだぞ。母親も最盛期は4億超えの大物。血統ってヤツだな」
「やはり親は重大だな。しかし、こっちはパークまで派遣したのにしくじったんだぞ。あのパークを、だ。アイツ、今どうしてる?」
「うちの息がかかってる病院へ送った。一命はとりとめたらしい。タフさは人外だね」
「ふーむ。困るねェ。あの分校には、〝サテライト・キャノン〟の発射装置がある。しかし、一度しくったが故、学校側もセキュリティを固めてくるだろうな」
「なら、あの装置を試すときじゃないか?」
「〝電極装置〟か。まぁ良いや。当分、アイツらには安心させておく。警備が手薄になったとき、すぐ電極装置を使えるようにしておけ。なぁ……」
アンゲルス連邦共和国本島、通称〝自由島〟のオフィスの一角。インターネットが生み出した陰謀論を巧みに操る者たちは、そう決定を下した。




