014 アンゲルスの番犬、そして疲弊した〝大人〟
「母ですか?」
「いや、自治政府〝魔法科学部〟のお偉方だよ。おそらく、君は釈放されるようだ」
「は?」
スズキは頭に疑問符を浮かべているも、警官は淡泊だった。
「だいたい、君は誰ひとり殺していないしね。魔術師ライセンスがあれば、なんとか正当防衛で出られる」
「ライセンス、ねぇ」
そんなことをきのうも言われたな、と考えつつ、スズキは面会室へとたどり着く。彼女は自治政府の高官と、窓越しに出会う。
「セラ・スズキだな。自治政府首相は、君の釈放とライセンス発行を決定した。そして、評定金額は8億メニーとなる。なにか質問は?」
役人特有の高圧的な態度に、スズキは少しだけ腹を立てながらも、
「私の力は、そもそも魔術じゃないです」
と反論? する。スズキは続けた。
「魔術は魔力を犠牲に使える異能力……。対して私のは、集中力が肝ですから」
スズキもこの世界で11年間暮らしているため、魔力は多少たりともある。だが、記憶と能力が蘇ったときより使っている異能力は、あくまでも前世からの付属品。魔術師ライセンスを取るにしては、魔力が足りなさ過ぎる。
しかし、政府高官は興味なさげに言う。
「この際、君の力の源はなんだって良い。必要なのは、圧倒的な強さだ。他者を確実に蹴散らし、無慈悲に踏み潰すゾウのようなパワー。それがあれば良い。それを元に、評定金額だって算出しているのだから」
「でも、そんな裏打ちしたら、また誰かを傷つけるかもしれない」
「そんなこと、知っているよ」ひどく淡々としている。「自治政府がある程度管理できたほうが良いんだよ、君みたいなイレギュラーは。更にいえば、中央政府も同じことを考えるだろうな。まぁ、子どもに言っても分からんだろうが」
要するに、アンゲルス連邦共和国の番犬になれ、という意味らしい。スズキは眉間にシワを寄せるも、言いたい文句を呑み込む。
「さて、釈放だ。お母様によろしく伝えてくれ」
「……えぇ」
スズキは釈然としないまま、留置所から10時間振りに出た。空はすっかり夕暮れ。たった10時間程度なので、特に感銘深いものはない。
「……おれを飼い慣らせると思ったら、大間違いだよ。イヌどもが」
そもそも、体制側のヤツらは嫌いだ。まともなヤツがいた覚えがないから。
スズキはダメ人間だし、怠惰でやる気もない。普通そういうヤツは、いわゆる自然淘汰で消え去る運命なのかもしれないが、なにかの嫌がらせで途方もない異能力を手にしてしまった。そんな11歳の少女……中身20代後半の青年は、溜め息まじりに、留置所近くで、母親が来るのを待つ。
そんな最中、
スズキは背後から肩を叩かれる。
振り向くと、頬に人差し指を差された。
「リヴ」
赤髪で目がぱっちりした少女・オリビアは、親が自治政府役人でもある。だから、スズキが釈然されたこと、更に8億メニーの評定をかけられたことも知っているのだろう。
「8億メニーとしゃくほー、おめでと! いやー、親友として鼻が高いね」
「そりゃ良かった。エバは?」
「まだ病院だよ。多分助かるけど、当分登校できないらしい」
「そうか……、悪いことをした」
「助けてあげたのは事実だから、良いんじゃない?」
「まぁ、そうかもしれないけど」
「っていうか、いつものセラちゃんじゃないみたい。頭でもぶつけた?」
「あー、そうだな。なんとなく、性格を変えてみたくなった」
オリビアはこうでも言えば、信じてくれる。その目論見通り、彼女は満面の笑みを浮かべて、
「良いじゃん! 大人っぽくて。でも、あれだね。大人っぽいっていうより、疲れた大人だね」
「なんだよ、それ」
「世の中にひへーしたヒトみたいな、そういうオーラを感じるんだ」
スズキは、うつむいて手を広げる。




