013 逮捕、そして8億メニーの少女
「どうも」
警察と軍人は、呆気にとられたような面持ちになっていた。スズキは気にすることなく、今にも手錠をはめてください、と言わんばかりに腕を差し出す。
「いや、あの、テロリストが学校を占拠してるって通報されて来たけど……まさか君ひとりで片付けたの?」
「えぇ。ただ、随分殺してしまったみたいで」
「だから、逮捕されるのを待っていると?」
「そうです」
警官と軍人は顔をあわせる。どうやら処遇に困っているらしい。
「ま、まぁ。ひとまず警察署まで着いてきてもらおうか。色々聞きたいこともあるしね」
「はぁ」
スズキは、慣れた様子でパトカーの後ろ席に座る。警察と軍人は、その様子を見てますます訝るような面持ちになるのだった。
*
「セラ・スズキ。11歳。両親は6歳のとき離婚済みで、母に引き取られた。その母──リナ・スズキはスターリング銀行の営業部長のエリートであり、優れた魔術師でもあります」
ピースランドの軍高官と自治政府幹部が集められた会合にて、ある決定がなされようとしていた。
「リナ・スズキの〝評定金額〟は、最盛期で4億8800万メニー。今は現役から引き下がっているため、額は落ち着いていますが、このピースランドでは最高級の評価を受けているわけですな」
「評定金額は、その者の魔術的な価値や人格の安定性、それに強さを元に計算される。では、セナ・スズキの推定は?」
「8億メニーです。魔法科学部としては、むしろ過小評価とすらいえます」
会議がざわつき始める。8億メニーといえば、日本円換算でおおよそ800億円。800億円の価値を、政府が裏打ちするわけだ。
「しかし、8億メニーの少女など……正直前例がないぞ」
「アンゲルス連邦共和国は、前例を覆すことで今の地位を勝ち取りました。よって、決して異様な金額ではないかと」
ピースランド自治政府首相は、少し唸り声をあげながらも、
「分かった……。セラ・スズキに児童用魔術師ライセンスの発行、及び評定金額の公表、更にテロリストからKOM学園分校を救った功績で、即時釈放しろ」
「承知いたしました。首相閣下」
首相は呟く。「果たして、セラ・スズキは我々に与す存在になれるのだろうか」
魔法科学部部長が、自信たっぷりに言う。「心配ご無用です。彼女は必ず、我が国の守護神となってくれるでしょう」
*
事情聴取を終え、スズキは望んで留置所に入っていた。11歳の少女が留置所に入ることなど、まずないため、個室を用意され、1時間以内に母も訪れるという。
「ふーむ」
スズキはダメ人間だし、留置所送りになったことも何度かある。全部飲酒絡みで、最初のほうは抵抗して自衛隊と闘っていたが、だんだんバカバカしくなって、最後のほうは警察と顔なじみになる始末。なぜ刑務所へ入れられなかったといえば、どんなにセキュリティを強めてもスズキを捕まえておくことなんてできない、かららしい。
「エバとリヴには、悪いことしたな」
自分の所為で、エバは重症を負ってしまった。背中に目があれば、あんな罠に引っかかることもなかったのに。更に、リヴことオリビアは友だちがスズキ以外に存在しないため、あしたから学校で独りぼっちになってしまうだろう。ヒトを殺したのだから、相応の罰は受けるべきだが、あのふたりの顔が脳裏に浮かぶと罪悪感が湧いてくる。もっとも、テロリストを殺したことへの罪悪感はない。そんなもの、前世のスズキの性格を鑑みれば、当然の話である。
「セラ・スズキ。面会だ」
特に拘束具もはめられていないスズキは、警官の言葉に従い、檻の外へ出る。




