012 死ねない理由、そして生きる理由
「グッ!」
パークは首を掴まれ、教室の壁へと押し付けられる。壁に巨大な穴が空き、スズキが手を離したら彼女は落下する場面だ。
「黙って自首しろ。無用な殺生はしたくない」
風穴からヒュー……と風が吹く。スズキは、首に入れた指の力を強める。これで降伏してくれれば良いのだが、スズキは過去の経験から、この手の連中が諦めないことを知っていた。
「クソガキが……、アンタ、何者?」
「お喋りしてる余裕、あるか? 無駄な殺しはしたくねぇけど、自爆覚悟だったら話は別だ」
そう、自爆テロである。どうせ終身刑になるのなら、〝死なば諸共〟の精神で自爆する可能性も否めない。となれば、パークを下へ叩きつけたほうが良いに決まっている。しかし、自殺する気がないのなら、それは単なる人殺し。さぁ、決断のときだ。
「おい、クソガキ!!」
そのとき、発砲音が響いた。人質の誰かが撃たれたか? スズキは咄嗟に振り返る。
しかし、それは隙を与えてしまうだけだ。なにせ、テロリストのひとりの放った弾丸は、ただの空砲。誰の身体へも当たっていない。
そして、一瞬だけスズキはパークから手を離してしまった。彼女は瞬時にパワードスーツの力で、風穴から空へ平行移動する。
「案外、ヒトを思いやる心はあるようで。けど、そんなもの、この世界じゃなんの役にも立たない」
そう言い放ち、パークは肩に装着されているロケットを放つ。
四方八方にロケット弾が飛び散り、教室がぐちゃぐちゃに成り果てる。手足を縛られた人質は、なにもできずにロケットを喰らってしまう。
「エバ!!」
当然、黒髪碧眼の友人・エバも爆発に巻き込まれた。超小型ミサイルだからか、なんとか息はあるようだが、すぐ病院へ連れて行かないと死ぬだろう。
「テメェ……!!」
スズキは、歯を食いしばる。目を見開き、赤く充血させた。
刹那、スズキは地面を蹴り、パークとの間合いを光のごとく狭めた。全く反応し切れていないパークへ、スズキは渾身の拳をにじりこませる。
「ぐはっ!?」
パワードスーツそのものが破損し、パークは地面へ落下していく。慌てた他のテロリストがスズキに銃を向けるも、もはやすべてが遅い。
スズキは、手からエネルギー弾のような現象を生み出し、それを次々テロリストの身体に撃ち込んでいく。人間から出たとは思えない悲鳴が、スズキと人質の耳をかすめる。
「……はッ!」
スズキは、悲鳴とともに正気を取り戻す。彼女は風穴から荒れ果てた教室へ戻り、人質への拘束具を取り外す。そして、警察と軍が来たところで、スズキは俯きながらそちらへと向かう。
そんな中、
重症のエバが、スズキに語りかける。
「セラ……、私、こんなことじゃ死なないわ。死ねない理由があるなら、死ぬわけにはいかないもの」
スズキは転生してから10歳までの記憶を保持しているので、エバの性格も友情の深さも知っている。金髪ハーフ少女は口を尖らせ、
「生きるのに、理由なんていらないさ」
そう振り絞るように言うのだった。
*
『オマエ、アジア人だろ? 気持ち悪リィサルが』
『しかも日本人なんだってな。おれらアンゲルス人は、日本人が大嫌いなんだよ!! 質の悪い商品を二束三文で売りやがって! オマエみたいなヤツの所為で、おれの父さんは仕事クビになったんだぞ!?』
『くだらない差別感情があるから、連邦は衰退したのよ。貴方たち、親にそう吹き込まれたのか知らないけど、人種差別なんて恥ずかしいだけだわ』
『なんだよ、エバ。ジャップの肩持つのか?』
『この子が明確に悪いことをしたわけでもないのに、差別したくないだけよ。大丈夫? スズキさん』
*
「……思えば、日本人とのハーフだったおれを救ってくれたのは、エバだったな」
さすがにあれだけ殺したら、逮捕は免れない。救ってくれたエバへの裏切りになるな、と思いつつ、スズキは腕に手錠がまけるよう警察に差し出す。




