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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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シドの真似

ジオルドとの試合は、ルミアが思っていたよりも拮抗した。彼の片手剣は、見えたし、避けれた。けれど、手数が多かった。


ルミアは捌ききれず、慣れていない双剣で受け、流し、跳ね返すも、次の一手が間に合わない。防げないと思ったルミアは、当然魔法で補おうとして、防御のための攻撃魔法を繰り返した。


息を整えるために後ろに下がるも、兄はピッタリとくっついて攻撃をやめない。仕方なくルミアは彼の背後に土魔法で棘の岩を出現させ、背中を狙う。けれど、大剣よりも細いその剣で、全ての岩を打ち砕いた。


その隙にルミアは、高く宙に飛んで、息を整えた。


「なんだ、余裕がなさそうだな?」


「ちょっと、考え事」


「シドヴィス様の動きを見ただけで、真似るんじゃなかったのか?」


「そうですね、ちょっと試してみます」


ルミアは浮かんでいるわけではなかった。ゆっくり地面に降り立つと、向かってきた兄を風圧で吹き飛ばした。もはや双剣は関係なかった。


(蒼氷焦土)


ルミアは心の中で、一度シドに受けた魔法を唱えた。術式はわからなかったが、とにかく冷気を一瞬で広範囲に広げる魔法だと頭で勝手にイメージを膨らませていた。魔法の言葉の意味はわからなかったが、一度シドから食らったルミアは蒼氷焦土を、燃え上がるように対象を足元から凍らせていたことだけ、理解していた。


地面に双剣を振り下ろし、剣の先から冷気を思いっきり放った。その冷気は瞬く間に試合会場の端まで到達した。ジオルドの足はもちろん範囲以内。咄嗟に後ろに下がったが、逃げ場はなかった。


「お前、これって——」

(シドヴィス様の技!?)


「できたね、でも威力は弱いみたい…」

(そんな簡単じゃなかったか)


「お前!見ただけなんて嘘だろ!?」


「見ただけ…いや、一度喰らいました」


ジオルドは腰まで凍りついていたが、動けないほどの威力ではないと知ると、炎の魔法で自分と周囲を燃え上がらせた。


(やばい、なんか…怒ってる)


「ルミア…これがお前の本気だとでも言うのか?人の技を当てる練習なんぞ…俺に対して失礼だとは思わないか?」


「っひ…」

(やばい!!あの時と一緒の顔だ!!)


ルミアが恐怖した、あの時のジオルドの顔。


それは第3迷宮でレオと一緒に魔物の死骸を回収していた時だった。ルミアは魔道具なしで収納魔法を使いこなしていたので、レオがルミアの側で遺体の回収を手伝ってくれていたのだ。


ジオルドは片足を捻挫して、治癒をかけた後だったのでしばらく座っていた。レオはジオルドから少し離れて、『ボーギャン』という卵型の魔物を集めてルミアに投げて収納を手伝っていた。ルミアは楽しくなって、投げられたボーギャンを、ひゅんひゅんと宙を舞ってキャッチしていた。


けれど、レオが遠くに飛ばしてしまい、ルミアの後ろまで近付いていた、ジオルドの頭に当たった。ボーギャンの体から出た、ネバネバした赤黒い色と紫の体液が、ジオルドの頭に流れる。


その時の顔だった。


目は吊り上がり逆三角形、眉間に2本の深い溝。歯は剥き出しで口角が上がっているのに笑っていない。ブリザードのような視線が可愛らしく思えるほど。


その時の顔だった。


「お前にはシドヴィス様をもっと敬うべきだとあれほど言っただろう」


「う、敬ってる!尊敬してる!強い!勝てたことない!!」

(怖い怖い怖い!!)


「構えろ…」


「……」


ルミアは震える両手にグッと力を込め、構えた。兄が一瞬で目の前に詰め寄り、剣を振り下ろしたのを両方の短剣で支えた。余裕がなくなったルミアは、重力魔法で兄の剣を浮かせた。


「くっ!またそれか!!」


ルミアはなんと言われようが、兄に対抗して魔法を繰り出すだけ。


(そうだ、素早く、攻撃するには…)


ルミアは分身を5体作った。双剣を振り回す6体なら、手数は12。シドが魔物と戦っていた時のように、横に縦にくるくると体を捩らせ回転した。操っていた分身は、本体と同じ動きとまで操れなかったが、少しだけジオルドの隙は生まれた。


(もう一回!!)


「蒼氷焦土!!」


ルミアはさっきよりも強くイメージした。


冷気が広がるのではなく、冷気が上に、燃え広がると想像して。


無意識に行ったその魔術は、マナを介して威力が跳ね上がった。


そして兄は凍りつき——動けなくなった。



『決まりました!!!勝者!ルミア様!!』


「『おおーーー…』」


ルミアは勝敗が決まったと同時に、魔法を解除した。ジオルドが凍りついて小刻みに震えていたのを見て、駆け寄り、温めた。皆の前では治癒魔法は使えないので、寄り添うように温風で包む。


「お、お前、使用の…きょ、許可は…取ったんだろな?」


「……どうかなぁ…あはは…」

(許可なんているの?)


「後で叱られてしまえ…」


ルミアは兄を支えながら控えの席まで向かう途中、ちらっと一瞬だけ陛下の後ろのシドに目を向けた。バチっと目が合い、すぐに視線を外す。


(きっと大丈夫だよね?だって、武器の短剣、渡してくれたんだから…他の武器も覚えろって…ね?)


もう一度見たが、しっかりと何か物言いたげな顔をルミアに向けていた。腕を組んで首を傾げ、半目で睨んでいるようだった。


(ちょっと離れてて、はっきり見えないな…)


ルミアは見えなかったことにした。ジオルドは妹に支えられるのが嫌だったようで、途中から腕を払って自分で体を温めていた。悔しさもあったのだろう、とルミアは温めるのをやめた。


『ついに、兄弟最強が決まりました!ジオルド様の目を疑うような剣捌き!圧倒されていたルミア様ですが、兄の虚をついた渾身の一撃は素晴らしかったです!今一度、お二人に盛大な拍手を送ろうではありませんか!!』


会場は司会の言葉で一丸となり、盛大な割れんばかりの拍手が巻き起こった。中には大きな声でシオルドに向かって名を叫んでいた者もいた。ジオルドは学園生だか友人だかの集団に手をあげて、答えていた。


一方のルミアの名は呼ばれもしないし、特設の2階席から突き刺さるような視線を感じていた。シドが睨み続けているのだろう、と目を合わせないように軽く俯いて、次の試合を大人しく待った。

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