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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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大好きな姉様

その後、休憩が終わるまで、アズールの隣の席に座ったボルト。エリーの話や最近の軍部での話を親子で話していた。一方、母はスフィラとジオルドの3人で雷撃の習得方法について聞いていた。


無性に癒しが欲しくなったルミアは、チラッとユナたちのいる客席を見た。そこでエリックとエリーが目に入った。エリックの横でエリーが何かを力説していたが、エリックがルミアに気づいて手を振った。そしてエリーは投げキスをルミアに送った。ルミアは胸がキュンとして、投げキスを微笑みながらエリーに返した。


それを見ていた母エミリスは、エリックに投げキスを送ったと勘違いした。


「ルミア?周囲にどれだけ人がいると思ってるの!?あなたレオナルド殿下の婚約者なんですよ!?」


「え、えっとエリー様に送ったんです」


「口答えしないの!婚約者の前で勘違いされるような振る舞いは慎みなさい!」


「……挨拶みたいなもんだし」


「ルミア?」


『え〜休憩はここで終了となります。皆様お席へお戻りください』


ちょうどいいタイミングで休憩が終わった。エミリスは娘の目を睨んだまま、渋々、席に着いた。目だけで『お前を見ているぞ』と伝わってくるような恐ろしさ。ルミアは目を合わせないように大人しく座って青空を見上げていた。


『只今より、次の対戦を発表します!!』


『「うおーーーーー!!」』


『次の3試合でなんと、ご兄弟の最強が決まります。連戦でも疲れを見せないアヴァロフ家の常人離れした騎士道を、我々は今日、目撃するのです!!次の試合はルミア様対、スフィラ様!!姉妹対決だぁ!!』


『「おおおおおぉーーー」』


なぜか男性の声援が目立った。おそらくスフィラの美貌に男性ファンが増えたのだろう、とルミアは思った。



呼ばれた姉妹は、試合会場の中心に立ち、スフィラもルミアも杖を持って、向かい合う。ルミアは杖をクルクルと回して、姉をじっと見つめた。眉間に皺を寄せた姉は、何か思い詰めた顔をしていた。


(あー…姉様と戦いたくないんだけどな…)


「ルミア!手加減なんてしなくていいから、派手な魔法は控えなさい」


「…姉様と戦いたくないのよね…」

(傷つけたくない…)


「なにそれ、馬鹿にしてるの?」


「違うよ…」


ルミアはこの約3年、姉との関係に変化が起きていた。迷宮の正常化で共に過ごしているうちに、何度かスフィラは怪我をした。ルミアは治癒魔法で治したが、その度に思うのだ。『もっと私が強くならなきゃ』と。


姉も同じように思っていた。けれど、妹は化け物級に強い。姉として守れるように、彼女も己を高めようと頑張っていた。なのに追いつかない高みに、妹はいた。


迷宮で”シーカー”を正常化するたびに、変わっていく妹は、年齢にそぐわない思考をしたかと思えば、年相応のわがままを言ったり甘えたりと、精神が不安定に見えていた。だからスフィラは精神的にルミアを側で支える役に回るように、自然となった。


スフィラは自分がルミアに勝てないとわかっていた。


「あんた、ずっと私を馬鹿にしてるでしょ!?」


「してないよ!美しい姉様を傷つけたくないだけ——」


「何よそれ!!アズールはコテンパンにしてたのに!私は戦う価値もないって下に見て!!」


「下になんて見てないよ!!な、なんで——」

(様子がおかしい…そんなこと…姉様は言わない…)


スフィラは感情を昂らせ、瞳の色が魔力によって光って見えた。


「え…ちょ、姉様!?」

(怒ってる!?なんで!?)


「死の後の言ってないでさっさと戦いなさい!!」


ブチギレた姉は、植物が上へと生えるように、炎の蔦をゆっくり作り上げ、一斉にルミアへと伸ばした。ルミアは動揺しながらぴょんと宙に飛んで、地面から岩を出現させ、その上に着地した。


必然的にルミアは、スフィラを見下していた。


「…あんたってそうよね…いつもいつもぴょんぴょんと…」


「な、なんで怒ってるの!?」


——第3迷宮でルミアとシドが先頭を走っていた時のこと。


三つ目の迷宮ともなれば、ルミアを排除しようと最初から魔物の軍勢をシーカーが放ってくるのはわかっていた。最後尾にいたスフィラは、魔物が追いつかないように、結界を背後に展開していた。


それでも、姉を心配してルミアはぴょんぴょんと迷宮の不安定な足場を飛び、姉の横に来て守ろうとした。ルミアはスフィラの結界に干渉して、その結界を”手で掴んで”魔物に向かって投げた。


スフィラは意味不明なルミアの行動にパニックを起こし、襲ってきた魔物からルミアを守ろうと身を挺した。けれど、スフィラの結界が刃物のように、背後に迫っていた魔物数匹を真っ二つに切断していた。


襲ってきたと思った魔物は、すでに死んだ死骸だった。


「あんたがぶっ飛んだ魔法の使い方をするおかげで、私も覚えたわ…何が傷つけたくないよ…ふざけないで…あんたのせいでプライドがズタボロよ!!さっさと降りてきなさい!!」


ヒステリックに怒り狂うスフィラは、盾のような形の結界を、無数に展開してルミアに向かって投げまくった。


(そんなことできるようになってたの!?すごい破壊力!!)


「またぴょんぴょんと猫みたいに!!」


「魔力切れしちゃうよ!」


「うるさい!!飛び回ってないで戦いなさい!!」


ルミアの足元の岩は、スフィラによって全て破壊された。立ち込める砂煙で、もはや二人の姿は見えなくなっていた。


視界が晴れ、無傷のルミアと、いつもと違う姉の顔。


ルミアは地面に降り、ゆっくり姉に顔をあげた。見えるのは、スフィラの怒った顔ではなく、苦悩に満ちた顔をしていた。


(姉様…あぁ、そっか。姉様も戦いたくないんだ…)


ルミアはスフィラに杖を向けた。そして微笑んだ。2人は試合だというのに、魔法を互いに当てたくなかったのだった。いくら治癒魔法で治ると言っても、痛いし傷がつくとわかっていたから。


そしてお互いがお互いを大切な存在だと思っていた。


「姉様。私はやっぱり、試合とはいえ傷つけたくないんです。だったら…魔法だけぶつけ合いませんか?」


「これは試合よ!甘えたこと言わないで!!」


スフィラは渾身の炎と鋭い結界をルミアに向かって放った。それを見たルミアは、そっと目を閉じ、両手を広げた。


「!?」


攻撃が当たる寸前、魔法は解かれ——スッと消えた。


ルミアは片目を開けて、姉に向かってニヤッと笑った。


「あんた…ほんといい性格してるわ」


「姉様だって、無理して怒ってたでしょ?」


「怒りに任せて戦おうとしたの…」


「ルド兄様に勝ちを譲ったのも、無傷で終わらせるため?」


「試合なのよ。こんなに大規模じゃなかったら本気で戦ったわ」


「じゃぁ、本気で魔法のぶつけ合いしよ!私たちの武器は杖だから」


「……いいわ。私は炎の龍。ルミアは…」


「氷の龍だね」


「えぇ、いいわ。いくわよ!!」


2人は杖に力を込めて握った。そして2人同時、上空に巨大な魔法を展開し始めた。


2人とも詠唱はしない。スフィラは何度も練習をしたから無詠唱で。ルミアは——。


スフィラの上空には、炎で作られた巨大な龍。この国においての龍は、山に住むドラゴンの魔物の総称。羽根の生えたトカゲのような尻尾。鱗はメラメラと燃えていた。


でも、ルミアは”異質”だった。彼女の作った氷の龍は、国民の誰もが知らない龍だった。蛇のように長い胴体に、手足の短い四肢。冷気を漂わせる立髪と髭は長く、呼吸をするようにうねる体、瞬きまで知性を感じるほど、精巧な作りだった。


それは”シーカー”から知らぬ間にルミアの中へ溶け込んだ”異界の残穢”の龍。


だから歪で、奇怪。美しいのに、神聖なのに、奇妙で不気味で恐ろしい。


「は?なにそれ!?生きてるの!?」


「生きてないよ!作ったんだから」


「そ、それ…龍じゃないわよ!?」


「え?龍だよ!いくよ姉様!!」


「嫌っ!!」


スフィラの炎のドラゴンに向かって、ルミアの龍が激しくぶつかった。龍はドラゴンに巻きつき、スフィラの魔力ごと締め上げた。スフィラは杖を着いてよろけた。一気に魔力が減り、立っていられなくなったのだった。


会場はルミアの圧倒的な怪物に、苦しめられるスフィラを見て、彼女に声を上げて応援し始めた。神秘的な美しいルミアの龍だからこそ、畏怖を覚えて『悪』と思ったのだった。


「スフィラ様頑張ってー!!」「負けるなぁー!!」「スフィラ様ぁー!!」


ルミアは観客の声を聞いて、ふと、思った。


(崇められるより、恐れられた方が都合がいいのでは?)


———と。


これだけ観客が姉を応援する今なら、彼女をより惨めに虐めれば、自分が女神だと言われることは無くなるかもしれない、とルミアは思いついた。


そう思ったルミアは、唇に力を入れた。


そしてスフィラのドラゴンを、龍にパクンと食わせた。無防備になったスフィラの周りをくるくると泳がせ、姉を龍の長い胴体で、塒を巻いて閉じ込めた。氷の龍の体は透けていて、中の姉が何かを叫んでいるのがわかった。


けれど、聞こえないし、聞かなかったルミア。妹はまたぴょんと飛んで、龍の頭の上に座った。そして、意図的にスフィラを上から下に見下ろした。


観客は分厚い氷の中で叫ぶスフィラをみて、上に座るルミアに恐怖を抱いた。


スフィラは炎を出したり、結界を広げようとしたりと暴れていたが、ついに魔力が尽き、座り込んだ。


(あとで怒られるかな…)


観客からはルミアに対してブーイングが沸き起こった。ちゃんとした試合を正々堂々としろ、やり方が騎士道に反する、スフィラ様がかわいそうだ、などと言いたい放題。


『大賢者と並ぶなんて烏滸がましい!』


この言葉を聞いて、ルミアはふふ、と心から笑った。


(当たり前よ。大賢者は見上げる存在だ。並ぶなんて烏滸がましい)


そして2分が経過して、司会が声を上げた。


『し、勝者ルミア様ー!!』


歓声の代わりにブーイングがさらに大きくなった。ルミアは思惑通りになって、良かったと思う反面、国民の力の強さを思い知った。ヤジを飛ばされた声の数は、凄まじい者だった。


もしこれだけの国民が、逆にルミアを崇拝したとしたら、と考えただけで背筋が凍った。


ルミアは診療所で見た、患者たちがレオに見せていた表情を思い出し、息が苦しくなった。


(私には無理だわ…あんな顔…向けられたくない…)


氷の龍を上空に放ち、溶かして雨を降らせ、ルミアはそのまま下に降りた。


魔力切れを起こし、へたり込んでいた姉に覆いかぶさるように、抱きついた。ぐったりした姉は、ルミアの体が震えていることに気づき、ぎゅっと抱きしめ返した。


「あんたってほんと生意気よ。こんなの試合じゃないわ…」


「ごめんなさい…」


「舐めまくって…でも、あの龍は怖かった」


「ふふふ」


ルミアはしっかり姉に甘えた。スフィラは悪態をつきながらも、ルミアの頭を優しく撫でる。異物で怪物な妹でも、14歳の少女であるということを一番理解していたスフィラ。2人は抱きしめ会い、司会もそんな2人をしばらく静かに見守った。


次第に野次や罵倒はなくなり、会場は暖かい拍手を送っていた。野次を飛ばしていた者も、大人しく微笑んで拍手をしていた。まるで思考がガラリと変わってしまったように。


閉じ込めたのは傷つけないで勝負を終わらせたかったからか、と。


それが印象を変えた誰かの力とは、誰も気づかない。


彼らは民衆の中に、貴族の中に、冒険者の中に、溶け込み、影で静かに操作する。

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