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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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親子のアンマッチ

温室に戻ろうと、ルミアは屋敷の地下通路の階段を登っていた。訓練場でノアとノックスはテントの中で眠っていたそうで、クタクタになったルミアに何があったか、何も知らずにいた。


彼らには先に温室に戻ってもらい、父のいる執務室へと向かった。


執務室に呼ばれている、とシドに通信があったようで、温室に帰る前に寄っていこうと考えたからだった。


(過剰なマナは、人を誘惑してしまうなんて…なんでもっと早く…)


(いや、早く教えてもらえたとして…確かにエデンが抱きつくと…)


(まさか……こんなことになるなんて……あ、ダメだ…思い出しちゃダメ!!)


(そうだ!マナを吸収できる装置とか開発できないかな?マナをどうにか違う方法で抽出できるような…)


ルミアは父のいる執務室へ向かいながら、表情を変えて歩いていた。すれ違う使用人に怪訝な顔をされていたが、レオによるマナデトックスの反動か、頭が妙にスッキリして思考が加速する。


目の前に父が立っているとも知らず、扉の前まで歩き進めた。


扉の前には、腕を組んで娘を見下ろす、父。


「ルミア、訓練に行ってたんだってな」


「………」

(魔力水の原理で氷は?そうだ、この前、植物が満月の時に形態変化してたの、気になったんだよねぇ)


「ルミア…、ルミア!!」


「はい。父上。大声出さないでください。耳が痛いです」


「出させたのはお前で——」


「せっかくシドと訓練していたというのに。話とはなんですか?」


ルミアは無表情で父に向かって淡々と話した。頭の中ではマナをどうやって認識し、自分の体から抽出できるかなど、思考は研究へ全力で向けていた。


「…大事な話だ。入りなさい」


ボルトはルミアにとって、威厳しか見せない父親だった。母エミリスに普段から尻に敷かれた姿を子供達に見られているので、そんな父に全く恐れを抱くことがなかった。


なにより今のルミアは、少し、いや、かなりいつもの調子とは違う。


「はい、失礼します」

(だったら月の光りが植物に与える影響を観察してみるのはどうだろう…)


執務室のソファには、母エミリスが護衛服のまま、着替えもせずに座ってお茶を飲んでいた。父ボルトは彼女の横にズシッと座る。


ルミアは向かいに座し、2人に無表情の顔を向けた。


「ルミア、アヴァロフ家でもっとも大事なことは何か、答えなさい」


ボルトは声を低くして、大きく開いた膝の上に鎧を付けたままの手をガチャリ、と置いた。


「第21代アヴァロフ家当主、イーサン・アヴァロフが、子や孫に言い残した言葉。戦術の先にある至高の高みに届く者は、戦術を極めたと思わぬ者」

(そうだ、高いとか低いとか関係してるのかも。影に隠れてる背の低い植物は横に広がるって前の庭師のビリーさん言ってたわ)


「お…おぉ、その上でお前は何が大事だと思うんだ…?」


「つまり、驕り昂らないことです。極めたと成長を自ら止めるようでは、至高の高みに届かない」

(そうよ!月の光りで成長するキノコがあったわ!!何で気づかなかったんだろう!)


ルミアは目を輝かせ、堂々と声に力を込めて言い放った。どうしてこんなことも気づかなかったのか、と『ツキタケ』の存在を思い出して研究の高みを目指していた。


けれど両親は娘の言葉と、その気迫に影響され、昔の記憶が蘇っていた。


ボルトは自分だけを残し、迷宮で命を落としていった家族に報いようと、鍛錬に励んでいた日々を。


エミリスは魔物のせいで死んだ友人を守りきれなかったことを悔いて、血反吐を吐きながら魔法の鍛錬を続けた日々を。


2人は王家の護衛で忙しく、いつしかあの頃のような鍛錬はしなくなった。


だから娘の言葉を聞いて、ハッとさせられた。


ボルトとエミリスは顔を見合わせ、見つめあった。彼らは今、子供に不審を抱き、隠していることを吐かせようと躍起になっていた自分たちを顧みた。けれど、立派にアヴァロフ家として高みを目指しているように見えるルミアを前に、胸が痛くなった。


「…ボルト…わたし…」


「あぁ、わかってる。ルミアは最近、その…シドヴィスと訓練しているそうだな。私たちは仕事でほとんど家にいないから…聞いただけなんだが。訓練はどうだ?」


「一度も勝てません。彼の動きは虚をつく。それでいて繊細で、一つの動作に複数の意味を持つ。言うなれば、もしあの時こうしていれば勝てた、と全く思えない相手です」

(太陽の光は魔石とは違う。月の光りも違う。つまりあのキノコを調べれば、月の光りを解明できるかも)


「そうか。お前が勝てないのも無理はない。彼は最強魔導騎士の称号を陛下から賜ってるからな。それでもお前が訓練をやめないのは、さらに高みを目指し続けているから、か。ずっとお前たちの様子がよそよそしいと感じていたのは、目指している目標に私たちではなく、シドヴィスを見ていたから…か」


「訓練でルド兄様は雷撃に加えて、炎の魔力操作が上手くなりました。姉様も雷撃が使えます。けれどアズール兄様は知りません。エリー様の回復を手伝っているとかで…」

(え、わかったかも。私、マナの性質、誤解していた。金貨じゃない…魔力とマナの違いはそんな同列なモノじゃない。もしこの仮説が正しければ、エリックが私にした魔力封じの謎を証明できる)


エミリスは俯いて、自分の根拠のない勘のせいで夫に恥をかかせたことに、反省していた。なんて浅はかに勘繰ってしまったのだろう、と。ルミアたちが迷宮での異変に関与しているなんて、どうして疑ってしまったのだろう、と。


それなのに隣に座る夫は、娘に対して態度を変えることなく、堂々と会話している。まるで空いた穴を埋めるように、とエミリスは思った。


「そうか。私も一度戦ってみたくなったな。だが、まず陛下から休暇をいただいたんだ。お前たちがどれほど強くなったのか見たい。そうだ!私とエミリス相手に試合をしよう!」


「なるほど。そこで父上は自分の強さを測ろうとお思いですね?私もスフィラ姉様も強いですよ?」

(…測る…測る!!そうだ!あの計測器が失敗して作れなかったのにはマナと魔力を同じものと考えていたからだったんだ!!だからどっちも反応しなかったし、動かなかった。マナと魔力は全く別のものなんだわ!)


「試合ですか?でも、そんなことをすれば大事になりませんか?……あ、いや、そうね。あなたの言うとおりだわ。やってみましょう!むしろ派手に!」


エミリスは目に涙を浮かべていた。自分の不甲斐なさと、陛下がくれた休暇の意味に気づいて、涙が堪えられなかった。


ボルトは涙を流さなかったが、妻と同じく、子供の成長に、目は熱いもので溢れそうになっていた。


そして2人は決意を改め、未来を担う子どもたち、その代表ルミアに希望を託そうとした。


負けるかもしれない、とボルトは思った。歴戦のアヴァロフ家の記録を遥かに凌駕する魔法を巧みに操る娘たちに。けれど、負けても嬉しい、と微笑んだ。


確かに未来に繋いだのだ、とエミリスもボルトも喜んだ。こんな事ならもっと早く、ちゃんと会話しておけば、とも思った。


そして——大会が行われる事になった。



ルミアは2人の熱くなった心を知らない。けれど、同じように研究に熱くなっていた。

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