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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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ジオルドとスフィラ

『続いての試合は、ジオルド様とスフィラ様です!!』


アズールの肩を支えて、ルミアは控えの席に向かっていた。途中、ちらり、と特設された2階の席へと視線を向けた。陛下の後ろに立つシドヴィスが、確かに、ルミアを睨んでいた。


(勝手にシドの技、使ったから怒ってるのかな?)


陛下の隣に王妃、その隣にレオが座っていた。彼はルミアに微笑んで手を振っていた。ルミアはその手に、ニコッと愛想の微笑みを送った。レオの隣には久しぶりに見た、第二王子ヘラルドと王女のジョアンナが並んで座っていた。王女のジョアンナを見るのはこれが初めてだったルミアは、レオから年齢だけ聞いていた。8歳だというのに、椅子に座って姿勢正しく、じっとしていた。


(さすが王族だわ)


王族とは少し離れた席。そこに座っていた外国の使者と思しき女性を見た。顔はベールのような髪飾りでよく見えなかったが、赤黒い髪が結われることなく露わに長く艶めいていた。その髪は太陽の光に反射して緑にも見えた。その横に立っていた従者らしき男性に、流れるように視線をやったルミアは、すぐに視線を逸らした。


ジロジロと長い時間、見ていたわけではないルミア。ほんの4、5秒くらいだ。


それなのに、その従者らしき男性は、体ごとルミアの方を向いて、顔を傾げていた。その視線は冷ややかで、鋭い。なぜルミアが咄嗟に視線を外したのか。それは殺気を込めた、ねっとりとした不気味な視線だったから。


(何あれ、すごく気持ち悪い…)


体にひりつくような感覚と、視線を外したのに、まだ自分を見ているとルミアにわかるほどの粘着質な視線。背筋がゾワっとしてしまうほど。


(早く戻ろ…)


席に着くと、アズールに魔力回復と体力回復のポーションを渡した。公に収納魔法は見せられないので、椅子の下に置いていた短剣を入れる武器の袋から取り出したように見せた。


目の前で繰り広げられた兄ジオルドと姉スフィラの試合は、見応えがあった。彼らは互いに魔法をぶつけ合い、剣と杖をぶつけ合い、雷撃を使いこなしていた。メラメラと舞うスフィラの火の鳥は、ジオルドの周りを飛びまくり、ジオルドも負けじと氷の礫を繰り出していた。


兄の足元に纏わりつく、蛇のような炎を出した姉。兄はその炎を冷気と風で払う。同時に彼はスフィラの腹目掛けて、剣先を横に切り込む。スフィラは飛び退き、体制を整えた。


スフィラの息は明らかに上がっていた。


スフィラは深呼吸して、一斉に炎の蝶を無数に作り出した。そしてジオルドめがけて放つ。けれど、兄は剣を左右に大きく振って、風魔法で蹴散らした。


カンッ!


ジオルドはスフィラに深く踏み込んで、一瞬の剣の切り込みで、彼女の杖を飛ばした。


『勝者、ジオルド様!!』


『「きゃーーーーー!!!」』


学園の女生徒から黄色い声援が目立った歓声だった。


スフィラは息を切らし、ジオルドを睨んだ。彼は息も切らさず、スッと剣を鞘に収めた。


「武が悪すぎますわ」


「ルミアは勝ったぞ?」


「同じだと思ってるの?」


「……いや、そうだな。武が悪いし結界を張られれば俺はお前に太刀打ちできなかった」


「ふん。お兄様に勝ちを譲ったのですわ」


「…そうだな」


ジオルドとスフィラは無傷でスタスタと控えの席に戻った。二人はどこか義務的で、スフィラの計画通りに動かされていたとわかったジオルドは、負けた気分だった。


ここで休憩を挟みます、との司会進行のブルックが放送した。ルミアたちは進行がどのようになっているのか、全くわからない。


ルミアとアズールは、顔を見合わせた。妹は小声で兄に向かって秘密の会話をした。


「アズール兄さん、エリーのことは…」


「知ってるよ。言わない。それにお前には感謝してるからな。俺も、エリーも」


「聞いたよ?婚約したんだって?」

(ルド兄様より先に…ちゃっかりと…)


「あ、あぁ」


「おめでとう。エリー様、元気そうだね」

(相思相愛なら素敵)


「あー、うん、学園へはまだ体力が戻らないから、いけないけど、ちょっとずつ回復してるよ。この前、馬に乗れるようになったんだ」


「え?それ、もう学園通えるんじゃ…」

(馬って歩くよりしんどいんじゃ?)


「なー。俺も言ったんだけど、旅に出るにはまだまだらしいよ」


アズールは両手を頭の後ろで支えて、仰け反った。表情は楽しそうに、嬉しそうに、恥ずかしそうにしていた。そんな朗らかな会話をぶち壊しに来た人物が、2人の背後へこっそりと近づく。


「いやぁ〜ルミアさんや、すごいオリエンテーションだったなぁ、あぁ?」


「……あは、ありがとうございます、ゼノヴィス様」

(うわ…来たよ…)


ゼノヴィスは、ルミアとアズールの椅子の間にしゃがみ込み、下からルミアを睨め付けた。その笑顔の瞳は笑ってない。


「誰のおかげで普通の暮らしができてると思ってんだろうなぁ、あぁ?」


「ちょ、ちょっとやりすぎた感は否めませんね……ごめんなさい」

(え、目が光を失ってる…怖…)


「頼むぜ、マジで」


「娘になんのようだ、ゼノヴィス」


(父上〜!)


ボルトがルミアの後ろにいた黒づくめの男に牽制する。腕を組み、睨みつける巨漢。ビクッ、と怯えたゼノヴィスは、言いたいことを言い終えたのか、立ち上がって去ろうとしながら言葉を返した。


「オリエンテーションの魔法がすごかったんでね、褒めてたんですよ。すごいねぇ〜って」

(ボルトって俺より年下だよな?なんでこんなに殺意丸出しなんだよ、怖いよその赤い目!)


「……ルミアと面識があったんだな?」


「おや、ルミアさんに聞いてませんか?何度かアディウスと一緒に会いましたよ。ちょうどシドヴィスが訓練を願い出た時くらいですねぇ。ねぇ?ルミアさん?」

(おい、ルミア!お前のせいだぞ?さっさと追っ払え!)


ボルトの赤い瞳が一瞬揺らいだ。娘との会話不足をまたネタにして、馬鹿にしてくるのか、とボルトは一層睨んだ。


「父上、本当ですよ。俺もシドヴィス様とは会ってます。それに王宮に行く手配もしてくださったんですよ」


アズールが睨みつける父の様子を見て、会話に入った。ルミアの味方となったアズールは、意外にも空気を読んだ。


「王宮!?ヘラルド殿下の護衛でか?」


「いいえ、茶会ですよ。エリーの護衛でジョアンナ様と一緒に」


目の前でゆっくり去ろうとするゼノヴィスの顔は、ニヤついていた。さらにボルトは彼の顔が気に障ったらしく、睨みつける。


「俺を睨むのは自由ですが、お門違いですよ。ルミアさん、また新しい魔道具開発のことでもお話ししましょう、ねぇ?」


「っま、も、もちろんですわ、ゼノヴィス様…」


ゼノヴィスは、くるりとルミアに微笑み、脅迫めいた雰囲気を残して、ルミアたちの控え席を離れていった。


(なんで来たの!?後で説教とか!?シドの代わりにゼノヴィス様が!?怖すぎなんだけど!!)


「ルミア、ゼノヴィスには気をつけろ。あいつは金の亡者だ」


「………はい」

(そんなことはない…あの人は私たちの迷宮正常化がバレないように裏で……そうか…知らないんだ…)

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