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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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余りある力

ルミアは必死で頭を抱えて左右に振った。どうにかしてこの場を切り抜けようと、ふと彼ならどうするか、と思った。


ルミアは集中して、杖を握りしめた。会場の観客を前に、もし彼だったら、と。


ルミアは思考を急加速させた。


(もし、もしも、オルグ様なら…)


(でも、派手にしてはいけない…)


(けれど、大賢者と呼ばれるあの人なら…)


(ならばオルグ様は皆を驚かせるはず…)


(魔法は素晴らしいものだと、思ってもらえるように学園を創ったあの人なら…)


(でも同時に危険と思ったあの人なら…優しい魔法使いのあの人が、民に見せるなら…)



ルミアは——目を伏せた。


(オルグ様…)


頭の中で描くのは、伝説の存在。

理知と威厳、奇跡の軌跡、創造の”到達点”。


ゆっくりと杖を振る。


瞬間、冷気が解き放たれた。


石床の上に霧が走り、氷がせり上がり、階段を作る。


透明な氷の階段が、音もなく、空へ伸びていく。


観覧席から小さなどよめきが起こる。けれどルミアは——思考の中。


コツ…コツ…


硬質な氷、響く足音。一段、また一段。


優雅に、まるで舞踏会のステップのように昇っていく。


同時に——


杖の先から弾ける光。無数の青白い小さな雷球。


それらは宙に浮かび、互いに細い電撃で繋がっていく。


蜘蛛の巣状の雷網は、バチバチと音を奏でる。


空間を割く稲光。そこにひらり、と大粒の雪を降らせた。


淡く、静かに降り積もる雪は、稲光の光で発光して見える。


そこに灯りの魔法を重ねた。ぽっと浮かぶ橙色の光の粒。


色で暖かさを表現し、氷と雪の世界に柔らかな色を足していく。


締めくくりに雷球をその杖の先に集め、一際眩しい雷光を放つ。


そして一気に——


ドガン!!


雷鳴が轟き、空気が揺れた。雷は氷の階段や雪、橙色の粒を一瞬で消し去った。


ルミアは魔法を一気に解除し、ふわりと地面に降り立ったのだった。


会場は静まり返っていた。誰一人、声を出してはいけない雰囲気だった。中には、感動して静かに涙を流している者もいた。


ルミアはジオルドとスフィラの表情を見て俯いた。2人ともやり過ぎた妹に向かって、半目で睨みつけていた。


(あれ…やっちゃった…?)


しん、と静まり返った会場に、手を叩く数人の人たち。それは両親と陛下、レオナルドだった。それに釣られるように、徐々に広がって、会場に連鎖した。


「お前は天才だな、誇りに思うよ」


父はルミアの肩を叩いて微笑んだ。ボルトは、拍手が起きなかったことにルミアが落ち込んで、俯いていたと勘違いして、励ましを送った。


「ちょっとやり過ぎちゃったかな?」


「いいえ、まるで大賢者のようだったわ。司会の言葉に答えただけよ。幻想的で素晴らしかったわ」


母も励ましの言葉を娘に送る。兄たちはため息混じりに拍手をしていた。内心ヒヤヒヤとしているジオルドとスフィラ。アズールは笑顔でルミアに拍手を送っていた。


「エリー、お前にまた会いたいって、今日は無理言って来たんだ」


「そうだったの?」


ルミアはアズールが指す、指の先に目をやって、ユナたちに目を向けた。エリックの隣に、エリーが笑顔いっぱいで手を振っていた。


(——ほんとに回復してる。…よかった)


『本当に素晴らしいオリエンテーションでした!!さぁ!!続きまして、本試合が始まります!!ここで皆様の予想票を元に、たった今、対戦の順番が決まりました!』


「『うおぉーーーーー!!!』」


軍部関係者の野太い声が会場の一部から湧き上がった。


『最初の試合は、アズール様対、ルミア様です!!お二方以外は控えの席へとお戻りください』


(負けようかな…)



向かい合う、アズールとルミアの試合が始まった。


アズールは大剣使い。炎の魔法を剣に纏わせ、父と似たような剣撃をする。軍部ではジオルドよりアズールの方が人気があり、なぜかガチムチの筋肉質な仲間が多かった。


「なぁ、わるいけどさ、本気でやってくれない?エリーの前で手加減とかされても、萎えるからさ」


「…私、ルド兄様より強いと思うよ?」


「はは、さっきのバカみたいな魔法を使っても戦えるんだから、そんなのわかるよ。それにさ、剣術の鍛錬は毎日兄貴たちとやってるんだ。もしかしたら、って思うだろ?」


「…私負けようかと——」


アズールはルミアの言葉を遮って、大剣を振り下ろした。風魔法も使っているようで、ルミアは咄嗟に氷の魔法で壁を創った。その壁に弧を描いた傷が入り、砕ける。


アズールの攻撃は止まらない。体より大きな大剣を振り回し、ルミアはそれを後ろに退きながら杖でいなす。杖には防護の結界を纏わせていたが、それでも一撃が重い。


「おいおい、防ぐだけじゃないだろ?来いよルミア!」


「知らないからね!」


(ライトニング・スプラッシュ・ウィンド)


(グラブ・天翔冷雪・ミラープリズム)


ルミアは高速で振りかかるアズールの大剣を横に避け、雷と水を混ぜた魔法を、風で操作してアズールの体に当てた。


ビリビリと痺れる水飛沫に、アズールは屈強な筋肉で耐え凌ぐ。けれど、その一瞬の隙にルミアは兄の持つ大剣に重力魔法をかける。


剣を重くし、シドが魔物に使っていた『天翔冷雪』を真似て、吹雪を起こす。アズールは目眩しをされた挙句、剣を振るおうにも重くて動かない。


その間にルミアは彼の視界から消えた。


ミラープリズムは、迷宮で使った魔法。氷を鏡のような板にして敵を欺く魔法だった。


ルミアは移動しながら、氷の鏡をアズールの周りに設置した。アズールは重くなった大剣を必死に持ち上げ、筋肉で腕の服が破れ、半袖になった。


そして剣先で氷の鏡に映るルミアを突き刺し、破壊した。


「ふっふっふ。引っかかった」


「なに!?」


氷の鏡は破れたが、そこから冷気が漂い、大剣の刃先を凍らせた。アズールはここで、大剣に炎を纏わせ、氷鏡からなんとか抜くと、背後にいるルミアに体を向けようとして盛大に転けた。


重過ぎた大剣を、逆に軽くしていたルミア。力任せに剣を抜いた反動で、アズールは体制を崩し、盛大に転けたのだった。


「どうする?まだ動けそうだけど…」


「うー…お前も剣で戦えよ…」


「継続?」


「もちろん!」


アズールは剣を地面に突き立て、立ち上がる。妹に向かってブンブンと大剣を振り回し始めた。風と炎でルミアに熱風を浴びせる。


(熱いんだけど…)


ルミアは対抗して氷と風で竜巻を起こした。兄はその竜巻に退くことなくルミアに向かってくる。


アズールは空気を読まない。それは正直な性格で、思ったことをすぐ口にしてしまうから。ルミアも同じような時がある。けれど、さすがにアズールほどではなかった。


ルミアはそんなアズールの性格なら、まっすぐ向かってくるとわかっていた。


なので、早く終わらせようとして、竜巻に土魔法で砂を混ぜ、視界を遮った。ルミアは後ろに飛び退き、アズールがまっすぐ竜巻に飲み込まれるのを見ていた。竜巻の中心に入ったとわかると、上から特大の氷の塊を落とした。


ガンッ!


アズールの頭に見事命中した氷。バタンと倒れる音を聞いて、ルミアは魔法を解いて、兄の首元に杖の先を突きつけた。


「まだ続ける?」


「…ん〜まだだぁ…」


ルミアはため息をついて、最後の手段として、アズールに雷撃を喰らわせた。兄の体は痙攣し、煙が出始める。


「どう?」


「もう、勘弁して」



『勝者ルミア様!!』


『「うおーーーーー!!!」』


歓声が沸き起こり、ルミアはびっくりして体を跳ねさせた。今まで勝者宣言で自分の名前を呼ばれても、歓声など沸き起こったことがなかった。この歓声はきっと、奮闘し続けたアズールに向けてだろう、とルミアは皮肉に思った。

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