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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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思いがけないアヴァロフ家、最強戦

「ルミア!なんで大会なんて大規模な事になったんだ!?」


ジオルドは乱暴に温室の中に入ってきて、植物を観察しているルミアに怒鳴った。その声は僅かに上擦っていた。


彼はまた妹のぶっ飛んだ思考のせいで行われる事になった、大規模すぎる大会を耳にして怒りをぶつけにきたのだった。


けれど、ルミアは研究の成果が出そうで、学園から帰っては温室で植物を観察して、喜びで踊り狂っていた。人工栽培は不可能だと言われていたツキヨタケを増やすことに成功したのだった。



「どうされました?」

(何をそんなに怒ってるの?大会で両親と戦うだけでしょ?)


「陛下も、貴族も、訓練生も平民も、国中の民も!皆が注目しているんだぞ!?」


「えぇー…訓練生はともかく、王族も平民も?何それ…アヴァロフ家最強を決めるだけの試合じゃないの?」


ルミアが父に呼ばれた日から翌日。軍部の高官が手配した試合は、軍部で行われる小規模な試合のはずだった。


「俺もそう聞いてた。だが、今日、殿下から予定を変更してまでの大会だって聞いて、お前が何かしたと思ったんだ」


「……別に何も言ってないよ。ただアヴァロフ家にとって何が一番大事かって聞かれたから、先祖の格言を言っただけだよ。それに何も不審に思われてなかったよ…?」


実際にそうだった。ルミアの意図せず伝えた熱意は、そのまま両親に伝わっただけである。


ルミアが気迫を込めた言葉の熱意は、研究に向ける探究心だった。真相解明への喜び、実験を早く行いたいとの焦燥感が、間違った形で発揮しただけ。


「なんで俺たちも巻き込まれるんだ…それに、外国からの使者まで観覧する」


「外国!?どこの!?」

(シアドルト!?だったらいいな!!ドワーフ族だったら聞きたいことがちょうど!今、ある!!)


「北のエルドニア帝国だ。昨夜から王宮に滞在してる。表向きは外交だが、本心はわからん。決して派手なことはするなよ!?何ならすぐに負けてもいい!」


ジオルドはルミアの顔に指を突きつけて、念を押した。その後スフィラも温室に駆け込んできて、ジオルドと同じことを言って騒いだ。


ルミアは2人の言いたいことは理解した。本当に理解した。


けれど、ルミアなりに、理解しただけだった。



大会当日。学園は土曜日で休み。おかげで国を上げての一大イベントが、魔導学園を貸し切っての開催となった。


一番大きな演習場で行われ、特設された観覧席。その席を上から観覧できるようにした、特別歓談席には、王族と外交の使者と思しき尊い方々が連なって座っていた。


会場の観客規模は5000人を超えていた。たかだかアヴァロフ家の最強を決めるだけだと鷹を括っていた父ボルトも母エミリスも、陛下を侮っていた。


ルミアは戦闘用の制服である、軍服を着るものだとばかり思っていた。それなのに催し物だから、といって母が勝手に派手な戦闘服を用意していた。けれど、実際用意したのは王妃だった。


(なんで守るための服なのに肩丸出しなのよ…絶対おかしいって)


着せられた服は真っ黒なドレス。魔導戦闘用に防護結界が施されてはいたが、夜会のドレスに見える。短いドレスは足が見えてもいいように、短いドロワーズも着用していた。全てが漆黒で、まるで昔のルミアの髪のようだった。


「これくらい見栄えがないと、遠くまで美しさは伝わらないわ」


と、母は震える手でネックレスを付けていた。母と姉も同じように色違いのドレスを着ていた。スフィラは深い紅色。母は紺色で流石に丈は、ロングスカート。


ジオルドとアズールは特注のえんじ色と黒を基調とした騎士服。父は母に合わせたのか、紺色だった。


まるで夜会に参加した一家のようで、ルミアは闇の魔法で自分の存在を消そうかと思ったが、太陽が照りつける快晴なので、どっちみち逃げることはできなかった。


『催し物』と様変わりした家族の試合は、もはや見せ物。オリエンテーションと題して、司会を始めたのは、どこから用意したのか、派手な道化姿の謎の司会者。


『皆様、お待たせいたしました!!!急遽決まりました、軍部アヴァロフ公爵家最強戦!司会進行は私、ブルックが務めさせていただきます!!』


会場に集まった貴族や生徒、平民や冒険者、あらゆる人が歓声を上げた。中には訓練生や学園の生徒がジオルドやスフィラの応援の垂れ幕を掲げて、兄たちの名前を呼んでいた。


スフィラの応援団は親衛隊、と銘打って赤い旗を持った男女の生徒。


ジオルドの応援団は学園の女生徒たちで、黄色い声援を送っていた。


意外にもアズールの応援団もあり、彼らは皆、軍部のガチムチ筋肉の教官たちだった。彼らは拳を上げてアズールに男を見せろ、と垂れ幕を伸ばしていた。


ルミアの応援はいないだろう、と皆が思っていた。けれど、ルミアの名を呼ぶ少数の人たち。誰も応援しないと思っていたからこそ、彼らは逆に目立って見えた。


2人目を妊娠中の侍女ユナと、赤子を抱いた料理長のマッシュ。エリックは少し離れて座って、手を上げていた。


ルミアは胸がキュッと熱くなって、ユナたちに全開の微笑みを送った。


——今日は隠密メガネをかけていない。


いくらレオがマナデトックスをしたからと言っても、まだ3ヶ月は経過していなかった。


ユナたちの周囲に座っていた観客が、ルミアの美貌に驚いて固まっていた。そんなことはルミアの知ったことではない。数名が見惚れただけでは、問題にはならないだろう、とスフィラとジオルドはそう思うことにして、そっと目を逸らした。



司会は一層、熱を込めた声で『予想票』の開示を発表していた。会場に来ていた観客全員に、誰が最強になるか予想させて投票させていたのだった。


『6位アズール様、5位ルミア様、4位ジオルド様、3位スフィラ様、2位ボルト様、1位エミリス様、となりました!!』


なんと、エミリスがボルトを越しての1位予想。それにはボルトが一番闘志を燃やし、夫婦喧嘩が勃発しそうな空気を漂わせた。


ざわざわと会場に流れた微妙な空気を一掃しようと、司会が明るく進行を進めた。


『この順位に伴いまして、こちらで試合の順番を決めたいと思います——ですが!!その間に、今回の大会は特別な大会です!!ただ戦って終わりでは面白くない!!ここでアヴァロフ家最強を決める前に、この国の軍部を司る公爵家による、演舞をご披露していただきます!!!』


「は?演舞?」


「あなた、聞いてないわよ!?」


ボルトとエミリスが顔を見合わせ戸惑っていた。それは子供達へと伝わり、アヴァロフ一家は身構えていた。ただでさえこの大ごとっぷりになった試合会場の中心に立ちすくんでいたルミア。


きっとあいつの仕業だろう、と貴族用の観覧席に目を向けた。彼はニヤリとルミアに口角をゆっくりあげる。


(ゼノヴィス様…やりすぎだよ…)


ゼノヴィスの横にはダニエルが笑顔で両手を振っていた。ルミアは半目になり、手を振り返すことなく司会者ブルックの次の言葉を待った。


『まず最初はエミリス様とスフィラ様による、美しい魔法の演舞です!!どうぞ、ご覧ください』


「お母様!?聞いてませんわ!!」


「私もよ!!こんなに大袈裟になるなんて…知らなかった…」


「演舞ってなんですの!?蝶々でも出せばいいの!?」


「そうよ!!それよ!!あなたは紅い炎で、私は蒼い炎で出すわ!いいわね!?」


2人は土壇場で打ち合わせ、会場に紅と蒼の炎で作られた幻想的な蝶を無数に飛ばした。会場は歓声を上げ、触れても熱くないとわかった子供達が、飛んだり跳ねたりと走り回って捕まえようとしていた。


ほんの数分の出来事ではあったが、客席からは拍手が送られ、なんとか期待に応えられた。


その様子に母も姉もほっと一息ついていた。



『すばらしい幻想的な魔法でした。ありがとうございました!!続きまして!ボルト様とジオルド様とアズール様により、気迫を込めた剣戟稽古乱舞です!!』


「何それ!?父上!?」


「陛下だ!陛下の仕業に決まってる!ジオルド、アズール。昔みたいに2人一斉にかかってこい!!なんかこう…重たいやつだ!!でかい魔法も出しまくれ!!」


「なんで俺が…」


ジオルドとアズールは、半ばヤケクソでボルトに切り掛かった。無駄に回転や炎と氷を撒き散らして、父に攻撃を仕掛ける。ボルトはその攻撃に、巨大な岩を当てて紅い炎を纏わせた巨大な大剣でいなし、見せつけるように剣を振り回す。


観客は鈍く剣がぶつかる大きな音に、息を呑み、静まり返っていた。最後にジオルドが氷の巨塊を出して、アズールに合図し、その巨塊をボルトに向かってぶっ叩いてもらう。ボルトはその氷の破片を一瞬にして炎の大剣で焼き払った。


終わった瞬間、静まり返り、観客は一斉に拍手喝采を送った。ジオルドには黄色い声援と悲鳴、アズールには野太い声が、ボルトには壮年たちのおとなしい拍手が送られた。


『さて!!オリエンテーション最後の締めくくりはこの方!!ルミア様です!!類稀な才能は、新たな魔法だけでなく魔法薬まで開発する秀才っぷり!!あの大賢者オルグ・メイデンと並ぶと噂のルミア様による…雷撃乱舞です!!!』


「なんて私だけ1人なの!?雷撃乱舞!?ねぇ!?どうすればいいの!?」


ルミアは近くに立っていたスフィラにしがみついた。スフィラも混乱して母に助けを求め、視線を送った。


「ルミア!あなたの全てを見せつけてやりなさい!!雷撃と乱舞なら、雷撃しながら踊ればいいのよ!」


母は出鱈目にルミアを焚き付けようと必死だった。父も兄たちもルミアと目を合わせようとしない。これほど大規模な観客の前で披露するとなると、さすがにルミアは怖気付きそうになった。


(雷撃で乱舞!?踊るって何よ!?)


会場の観客たちは皆、ルミアがこれから何をするのか目を見張った。次第に静まり返り、貴族も平民も関係なく、皆が黒いドレスの少女へと注目した。


どうして、彼女一人を注目させてしまったのか——その思惑は——誰が?

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