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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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やすらぎ

天井のガラス越しに見える銀色の月。欠けた月は雲に隠れ、温室全体が闇に染まる。いつの間にか肩に止まっていたノアが、いなくなっていたことに気づく。そしてひどく、孤独を感じた。


勝手に流れる涙が、頬に流れても気に留めない。


ルミアは命の選択を強いる自分を思い返した。


(なんて、傲慢なんだろう)


と、突然、視界が何かに遮られた。


「よぉ」


「わ……」


鈍い鉛色の髪は暗く、茶色の瞳には輝きがない。垂れ下がった髪がルミアの頬に当たるほど、近い。彼はルミアを上から見つめ、ゆっくりと目を細めて睨み始めた。


「よくも兄上をのしてくれたな」


「ア…アディ…久しぶりだね…」


ソファの後ろに立って、上を向いたルミアの顔を覗いてきたアディ。音もなく、その上、精霊に気配を悟らせずに近づいたアディに、ルミアは驚き——恐れた。


「どうやって——」


「まず答えるのはお前だ。俺はお前の行動に怒りを通り越して嫌気がさしてる」


「まって、ちゃんとバレないように——」


「黙れ。そもそもバレるとかバレないとかの問題じゃない。お前を守ろうとしていた兄上に危害を加えたんだぞ?」


「だってあれは——」


「だっても何もない。事実だ。それにお前は何をした?姿を消して監視を欺いたんだ」


「それは仕方なく——」


「全部、吐け。じゃないとジャベリン家はお前を敵とみなす」


「…そんな…大げさじゃ——」


「ルミア。お前の行動一つで国が動くんだ。俺はお前を守りたい」


アディはルミアに話す余地も考える余地も与えないほど、捲し立てた。その声は淡々としていながら力強く、ルミアの思考を縛り付ける。


シュッとアディは視界から消えた、と思ったらルミアの前に立っていた。その素早さに、ルミアは体に強張り、警戒して彼を恐る恐る見た。呆れた目で少女を斜め下から睨みつけている。


「アディ、ちゃんと話すから…そんなに怒らないで…怖いよ」


「怖い?俺はお前が恐ろしいよ」


「……」

(なんでエデンもノックスもノアもいないの!?エデン!?)


「精霊でも呼んでるのか?」


未知の恐怖を味合わせるアディは、ゆっくりと少女の近寄る。ソファに片膝を乗せ、ルミアの上にのしかかる。恐怖で動けなくなったルミアは、魔法で吹き飛ばそうと考えたが、そんなことをすればもっと恐ろしいことになると思い、俯き、何もしなかった。


「わ…私は…」


アディは彼女の俯いた顔に手を添えた。冷たいその手は、涙に濡れていた頬を余計に冷たくさせる。


「で?何をした?」


「2階のサイラスの眼を闇の魔法で見えるようにして、3階のシエルから精霊の卵を取り出して、サイラスとカナンは契約で縛り付けて私の庭師と侍女にした」


ルミアはあまりの恐怖に、全てを吐いた。彼女が怒ったアディを何よりも恐ろしいと感じるのは、彼の不透明さだった。


幼い頃に見ていたアディは偽りで、軍部で誓いを果たした彼は別人で、バイセル領で見た彼の涙は理解できなかった。


だからこそアディに全てを話した。思考が追いつかず、早く安心したいと望み、怒られたくないと無意識に感じて、言わなくてもいいことも全てを曝け出しはじめた。


アディはルミアを抱きしめて、流れるように、膝の上に抱えて、ソファに寄りかかった。ルミアは暖かい彼の胸の中で、病室で起こした自分の傲慢さや、助けることができない歯痒さまで、全てを打ち明け、吐き出した。


彼にしか言えない、本音をぶちまけたのだった。アディはそんなルミアを寝かしつけるようにぎゅっと抱きしめて離さなかった。


「レオがね、王子として、患者やその家族に励ましを送っていたのを見て、ひどいことを思ったの」


「うん…」


「治癒魔法でも治らないから、あの診療所ができたのに。牢獄みたいって思った」


「…うん」


「だから何かできることはないかって…でも…私は女神じゃないし、絵本の王女でもない。大賢者でもないし、ただの貴族の令嬢」


「あぁ…」


「だからエデンの言う魔法に…対価を払う魔法に興味を持った。でも、自分の口から対価を求めた時、あの子の顔を見た時——殺してって言われた時…何か…壊れそうになった…」


「はぁ…うん」


「助けなんて…ただの押し付けの余計なことだったのかも…」


「…その対価を求めた時、お前は”選択肢”を出した。あいつらは、それをのんだ。お前がしたのは押し付けの強制じゃない。望んだ結果の代償だ」


「……代償…」


「それに、思い悩むところが違う」


「…?」


ルミアは閉じかけた瞼を開けて、陰で見えないアディの顔をよく見ようとした。


「……後の処理は俺がやる。お前は兄上にちゃんと謝れ。兄上が離れれば、ジャベリン家は動かなくなる」


「……うん」

(そんなに偉い人なんだ…)


「お前…本当にわかってるのか?」


「…わかった」


「はぁ…それとな」


「…すぅ…すぅ…」


ルミアはアディの体温が心地よく、眠り始めた。無理も無いことだった。睡眠を削って精神崩壊すれすれで長距離を移動し、緊張しっぱなし。


眠れたのは、全てをアディに話したことで、安心したからだった。


眠りに落ちたルミアの頬を撫で、安心し切っているその顔に、アディの視線はゆっくりと、その唇へ落ちる。




———知らぬ間に対価を奪われたことは、誰も知らない。

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