*氷付け*
ルミアは3階へと向かっていた。存在を消す魔法”サイレンスインダーク”を行使して、廊下を堂々と歩いていた。
『ちょっと時間かけすぎよ』
(気になることしか無かったからね!?金環の眼ってなんなの!?)
『ルミアがもう少し大きくなったら教えてあげるわ』
ルミアの背後をふわふわと浮遊して、その手をルミアの肩に乗せて移動する、闇の精霊、エデン。彼女の白い肌は、頬の立体的な黒い影をはっきりと作り出しながら微笑み、ルミアに送る。
(いやいや、教えてよ。今教えて——)
『さぁついたわ。で?また変な対価の求め方したら女神様って言われるわよ?』
(変だったの?エデンならって考えたんだけど…)
ルミアは廊下の突き当たり、封魔の魔法陣が描かれた扉を開けようとした——
——ガチャ
扉は勝手に開いた。ルミアは瞬時に後ろへ飛び退け、体勢を整えた。
中から扉を開けて出てきたのは、シドヴィス。彼は黒づくめの『黒影装』を装備していた。
「っ!?」
「ん?」
『声出しちゃダメ!!息止めて!影移動よ!』
——「蒼氷焦土」 ——(ペイル=シフト)
シドはルミアが移動するよりも先に魔法を放った。廊下の端の影へ移動しようとしたルミアだったが、一瞬にして廊下に冷気が立ち広がり、ルミアの足が凍り、体、髪、顔が凍った。
「見つけた。あぁ、さすがだ」
シドは耳につけた魔道具に手を触れて、誰かと会話していた。ルミアは動けなくなり、体が冷えて震え、窓に寄りかかっていた。
「で、何をした?」
「は…はぁ…すごい魔法だね…」
「ルミア。俺はお前より強い。エデンが迷宮で俺にお前を守るように言ってただろ?」
ルミアは体温が冷え切って、呼吸が速くなっていた。シドはルミアの手を捕まえようとしたが、掴めなかった。
『なんてひどいことを…ルミア、しっかりしてちょうだい』
エデンがルミアを抱き抱え、また闇に消えたのだった。けれど、氷が溶けてポタポタと雫が廊下に落ちる。シドはその雫を見逃さず、目を細めて近づいた。
「そこにいるのか、エデン。お前だろう?俺はルミアの意を汲む。その手伝いをさせてくれ。決して傷つけない」
『声が聞こえなくてよかったわ。私、今すごく殺してやりたい気分よ。お前のようなわかった口を聞く、薄っぺらい人間は特に…』
エデンはルミアを抱きしめながら、体からマナが溢れ、ルミアの氷を溶かしていた。彼女の言葉が聞こえていないシドは、続けてエデンを刺激した。
「そのままじゃルミアの氷は全て解けない。俺が術を解かなければ気絶するだろう。俺に危害を加えることはルミアが望まない。嫌われたくないだろ?」
何も無い廊下に向かって、蒼い氷のような瞳でエデンたちを見据える、シドヴィス。エデンは仕方なく闇を払った。そして、ルミアをゆっくり床に寝かせ、立ち上がるとシドを見下し、彼の頭にそっと手を触れた。
仕返しにエデンは彼の心を覗いた。
『!?』
エデンはすぐに手を離した。穢れたものでも触れたように拭った。
『よくもそんな顔ができるわね…なんて悍ましい…人間はこれだから嫌いよ!!』
シドヴィスはルミアに近づき、彼女の体を起こしてしっかりと抱き寄せた。逃げないように腰を掴み、術を解いて魔法で温める。ルミアは次第に呼吸が整い、目を開けるとシドを睨みつけた。
「で?どうするんだ?助けるのか?」
『ルミア!そいつはバケモノ!!女だろうが子供だろうが任務のためなら簡単に殺す最低な人間よ!』
(バケモノ…あぁ、なるほど。だからこの人最初にあった時から…)
「シド、お願い。見逃して」
「無理だ。俺も同行する。それに——」
ルミアは薬品を取り出し、自分の顔に物理結界を張った。と、同時にその薬品をシドにぶっかけた。
「ごめんね。明日温室に来てくれる?」
「おまっ……」
シドヴィスはルミアに倒れ込むように眠った。ルミアはガッチリと掴まれた手を剥がすのに苦労しながら、彼の重たい体を思いっきり足で横に蹴り飛ばした。
「はぁ!もう…驚かせないでよ」
『ナイスよ!ルミア!!最高ね!!でも声が大きいわ』
(そうだった。じゃ、急ごう)
『そうね、仕切り直しましょ!』
エデンは当たらないとわかっていても、シドに蹴りをかましていた。ルミアはエデンの可愛いところを見て、笑いそうになったのを堪えた。




