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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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闇と光

レオたちとはあの病室で別れ、シドはルミアを自室まで送り届けた。シドは声をかけることなく、彼女の腕を引っ張って、なんとか馬車に乗せて、温室まで連れて帰ったのだった。気落ちした様子の少女を、玄関で放って置けず、シドは温室の入り口まで、連れて帰った。


そして、いつの間にか逃げるように、シドは消えていた。


帰ってきたとわかったのは、エデンが抱きついてきたからだった。


「エデン…」


『もう!やっと帰ってきたわね。ノックスが起きたわ』


「え?あぁ、ノックス起きたんだ…」


『ちょっと、どうしちゃったの。マナが揺らいでるじゃない』


「揺らいでる?」


エデンはルミアの頬に手を当て、瞳を覗き込む。額を当てて、ルミアの心を覗いた。


『はぁ?婚約?断るのよ!ルミア。アレと婚約なんてやめなさい』


「え、ちょっとなんで…覗いたの!?」


『私はあなたの精霊よ?あなただけの精霊で、私にとってルミアは私だけの主なの。守るのは当たり前でしょ?それにルミアは話さないつもりだった』


エデンはルミアから離れ、ユナの用意していたお茶の席に座って、優雅にお茶を飲み始めた。ルミアはエデンを追いかけて覗いたことを怒ろうとした。けれど、その席に知らない少年が座っていた。


黒い髪に、黒い服、耳と尻尾が生えた、少年。


『おぅ、やっと帰ったか』


そう言ってルミアに金の瞳と、尖った牙を見せて微笑む少年。見覚えがないようである、彼の姿に眉間の皺を寄せてルミアは問いかけた。


「ノックス?」


『あたりぃ!見ろよ!俺もお茶飲めるぜ。ほら、もう溢さない』


ノックスの人型の少年は、器用にカップを持って、ぺろぺろと舌でお茶を飲んでいた。


『聞いてちょうだい、ルミア。ノックスったらせっかく人型になれたのに、まだ猫が抜けないのよ』


『はぁ?俺はちゃんと飲んでるだろ?ユナにも迷惑かけてない。こぼしてない!』


「えぇーっと…まず頭を整理しなくちゃだわ…」


ユナはお茶の用意をした後、天幕の前のソファに、しんどそうに座って目を閉じていた。それを見てルミアは毛布を取り出し、そっとかけた。



ルミアはユナの入れた紅茶の香りを胸いっぱいに吸い込み、深呼吸して、エデンとノックスの喧嘩じみた言い合いを無視して、精神統一も兼ねて自問自答しようとした。


(なんで私の周りはこんなにも騒がしいのだろう。女神に精霊王、王子に迷宮。契約の婚約)

(こんなにも掻き乱されて…流されて…オルグ様なら…)

(オルグ様か…助けてくれないかな…オルグ様)


『ちょっと、ルミアがシャットダウンしちゃったわ』


『しらねぇよ。オルグが敵ならぶっ飛ばすだけだ』


『もう。あんたも情報共有した方がいいわ。この子、また女神に引っ張られて…』


『エデン姉さんの覗きって結構やばい魔法だよな』


『やばいなんて言わないでちょうだい。神代魔法よ』


『てことは2000年も生きてる!?ババァじゃねぇか』


『殺すわよ?』


『あははは冗談すよ、姉さん。はははは』


「何してんの」


ルミアは思考しようとしても集中できなかった。なので全てを聞いていた。エデンはノックスの首を掴み、殺意を彼に向けて、微笑んでいた。


『あら、おかえりなさい』


「2000年って?じゃぁ、女神について知ってるの?エデン、はぐらかさないで教えて」


ルミアは力のない声で、2000年も生きている闇の精霊に聞いた。聞いたところできっとはぐらかされるかもしれない。それでもいい、と諦め気味にルミアは聞いたのだった。


エデンは手を挙げて、大きく背伸びをした。そして、首を左右に揺らして準備運動のように肩を回し始めた。


「エデン?答えて」


『はぁ〜わかった。わかったから睨まないでちょうだい。ルミアは知ってることと知らないことが多すぎるの。だってあなたは人間で、私は精霊なんだから』


「……」

(はやく)


『もうせっかちさんね。私も詳しくないわ。でも精霊を信仰する人間の祈りが影響して、精霊が、神や神獣に生まれ変わることがあるの』


「神や神獣?」


『女神がいい例だわ。浄化、再生、治癒、祝福、守護、封印。でもその力は精霊の時にはないもの。人の祈りによって求められた結果でしかないの』


「え…じゃぁ…女神は精霊だった?人の祈り?じゃ、じゃぁ精霊王は!?」


『アレは命の精霊よ。理の中心。私たちが精霊として生きていくための核よ。だから女神が焦ってルミアに手を出したんでしょうね』


「焦る?どうして?」


『自覚がないのね。覗いたからわかるけど、ルミアは”異質”って悪いことだと思ってるでしょ?そこが違うの。ルミアはこれまで何にも染まらなかった。家族にも世界にも。それって”特別”なのよ?』


「…特別って…誰にとって?だって明らかに変なの。古代文字だって——」


『金環の瞳よ。あの王子にもあるでしょ?金の輪が瞳に。その眼は精霊に愛される者の証。真理を見ようとする瞳なの。だから古代文字を読み解こうとして紐解いた。それはあなたの力。他者と比べられて変に思うのは向こう側なの。あなたじゃないわ』


エデンはいつもなら他人事のように淡々と話す。けれど、今はルミアに対して怒りに似た眼の光を向けていた。


「怒ってるの?」


『当たり前でしょ?確かに人間のルールがわかってないルミアは”異質”で”イカれてる”っていうのもわかるわ。でも私にとっては”特別”で”最高”なの』


「精霊にとっては…か」


『あのね、ルミア』


エデンは声を落とし、今までで一番恐ろしい表情を主に向けた。それは、これまでの睨みが微笑みや愛想だったのではないかと錯覚するほど。白いはずなのに暗く、明るいはずなのに、底の見えない闇を孕んだ気配。


「え…なに…」


『私は再生はできないわ。でも与えることならできるの。私を使って。女神なんか放っておきなさい』


エデンはルミアを愛している。


だからこそ、知らぬ間に女神のせいで心が揺らいでいる彼女に嫉妬を覚えた。

だからこそ、王子の申し出に怒りを覚えた。

だからこそ、ルミアに闇の神代魔法を教えた。

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