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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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ニーナばあちゃん

修道院に着くまで、レオは黙ったまま手を握り続けていた。ジオルドもシドも、彼らを視界に入れまいとして、窓の外をみていた。


ルミアは握られたレオの甲、淡く光る、精霊王の印をずっとみていた。


(わずかに光ってる…これは私にだけ見えるの?精霊王から種…眷属…なぜ殿下が?)


(まさか、精霊王がオルグ様?いやいや、それはない…)


(神眼にオルグ・メイデンの弟子って…。でも精霊王の眷属なんて書かれてない…)


(あぁもうなんでこんなときにエデンは留守番なんて…今までは呼んでもないのについてきたくせに…)


「……ルミア?ついたよ?」


「……」

(そういえば殿下、少年がどうとか言ってたな。でもオルグ様は少年じゃない…すごい気になる。もし彼が大賢者だったらどうやって……)


「ルミア、降りるよ」


「……」

(そもそも王族は謎が多すぎるのよ!結界のある蒼の森だって立ち入り禁止だし、聞けば婚約だなんだってはぐらかして!!)


「手を離したくないのはわかってるから。今日はずっとこうしていよう。馬車を降りたらすぐ繋ぐから、ね?だから、そんなに睨まないでよ」


(最近は女神の神眼の情報が変わっちゃう時があるし……アレ?目が合ってる?…)


「……………ぁ」


「馬車を降りるだけの我慢だよ。ね?」


「でん…か…」


ルミアは深く思考に潜ってしまうと、考えていることが顔に出る時がある。前にユナに叱られたのは、新しい甘味料の可能性について考えていた時だった。溢れ出る涎で潤った唇を、ペロリと舐め、幸せな顔で植物を見ていたからだった。


現在、それが発動していた。


ルミアはレオの手を握りしめ、口を尖らせ彼を睨んでいた。レオは困った顔をしていながらも、頬をほんのり赤く染めて握った手をもう片方の手で包んでいた。


まるで手を離されるのが嫌な子供のように見える、少女。


「ルミア、いい加減にしろ。殿下を困らせるんじゃない」


「俺は先に降りる」


「あ、シドヴィス様、最初は殿下で——」


シドヴィスは、ジオルドの制止を無視して馬車から降りた。外に出迎えていた修道服の者、数名が開かれた馬車の扉から一向に誰も出てこないので、心配そうに首を傾げていた。


扉を開けた護衛騎士も、レオではなくシドヴィスが出てきて、困惑した。


「すみません、考え事をしてました、ごめんなさい」

(ひゃぁーーー)


「ふふ、じゃ、行こうか」


「はい」

(睨まないでお兄様?睨まないでお兄様!睨まないでお兄様ッ!!)


ルミアは一番最後に降りた。レオは馬車を降りるルミアに手を差し出し、慰問だというのにパーティーのエスコートのようだった。降りた後、そのまま握られたルミアの手は、離されることなく、マナを吸収し続ける。


「お越しくださり、ありがとうございます。本来であれば当主であるダニエルが迎えるはずだったのですが、今、病人の処置をされておりまして——」


「久しぶりだね、ニーナ。構わないよ。事情は公爵から聞いてるから、案内を頼むよ」


「お久しゅうございます。かしこまりました。では、白衣をお渡しします」


「あぁ、ありがとう」


全身深緑の修道衣姿の老婆。彼女はレオに頭を下げつつ、丁重に白い布を手渡した。レオは慣れたようにその白衣を被る。ルミアから手を離して、またすぐ繋ぐ。


その握られた手の先のルミアの顔を、チラッと見る、修道院の老婆。レオがすかさず紹介した。


「彼女はアヴァロフ家の娘、ルミアだ。今回の慰問に興味を持ってね。ヘイレスト公爵とも交流が深いんだ。今日は一緒に回ろうと思ってね」


「そうだったんですね、挨拶が遅れました。お初に目にかかります、ルミア様。副医院長のニーナ・マジェでございます」


「お初に目にかかりま…エリックのお祖母様…?」

(マジェ?って確か…)


「えぇ、あの不出来な孫の」


ニーナは上品に微笑して、顔の皺が優しく寄る。ルミアはマジェの名を聞いて反射的に声に出してしまったことで、周囲を気にした。特に背後の兄からの気配に気を配った。


されど、気にするところはそこではなかった。


「エリックって、あのパーティーでルミアと一緒にいた、あの?」


握られた手にゆっくりと力が入っていくのがわかったルミアは、バイセル領から帰りの馬車でのことを思い出した。スフィラやジオルドが、エリックの名を口にする度に、レオの視線や言葉が氷のように冷たくなっていたのを忘れていたのだった。


「っぁ、ふふふ、今日はよろしくお願いします、ニーナ様」


「ニーナ、とお呼びください」


「……では、ニーナさんで」


「ふふふ、可愛らしいお方ですね、殿下?」


レオはルミアに向けていた視線を外し、ニーナに満面の笑みを見せた。その微笑みが少し牽制しているように見えたのは、ルミアだけではなかった。


「あぁ、もちろん可愛いよ。僕たち、昔から仲が良くてね。だから今日は寒いから手を温め合ってるんだ」


「あらあら、それはそれは。微笑ましいことですね」


ふふふ、と穏やかに笑い合う3人。その周囲で立っている護衛と修道士達は、微妙な緊張感の中でそっと目を閉じた。早くこの時間が過ぎますように、と。

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