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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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合わないダンス

音楽の演奏が始まった。この国では聞いたことのない音色。巨大な弦楽器からは雫が跳ねるような音がし、糸が撫でられて音が優しく重なり、幻想的な雰囲気の音だった。そこに笛の音色が重なり、ピアノが足されていった。


レオはルミアと楽しそうに踊り始めた。踊らされているルミアは次第に顔が歪み始める。


「なんていう楽器だろうね。ルミアに似合う音だ」


「…ダンスは苦手です」


「ルミア、顔、笑って。スフィラも見てるよ?」


「…頬が痙攣します」


ルミアの顔はダンスに集中して強張り始めていた。


「ふふ、じゃぁ、うれしいことを考えてみて」


「嬉しいこと?」


「うーん……大賢者がルミアの作った魔法を誉めてくれる、とか?」


ルミアは想像した。肖像画のオルグ・メイデンが両手をパチパチと叩いて称賛する姿…


「違和感があります。私のオルグ様はもっとこうしたらどうか、って提案しそうです」

(それにオルグ様の失敗集から作った魔法ばっかりだし、ちょっと嫌な顔してくるかも)


「そっか。じゃぁ…もし僕がオルグ・メイデンだとしたら?」


「……殿下が?」

(ありえないよ。けど彼はどこかで確実に会ってる)


(うーん…もし、彼がオルグ様なら…)


(誰よりも国を思い、迷宮の正常化に力を貸してくれた)


(精霊王から認められ、眷属として選ばれた)


(種を託されるほどの存在)


(すこし強引で、でも私を認めて、隣に立つと言った)


ルミアは目の前のレオをオルグ・メイデンと比較し、少し重なる部分があるものの、『ありえない』と改めて思った。けれど、もしそうだったなら、とも思った。


ルミアは想像した。誰よりも人のために、優しい魔法や魔道具を作った大賢者、その人が目の前にいたのなら、と。


「やっぱり、ありえません。でも、もし、彼と会えたなら、うれしいです」


「……そう、だね」


ルミアは恍惚と微笑んでいた。無意識に溢れ出たオルグへの愛情にも似た、恋する少女の微笑みをレオに向けていた。


レオはその無防備な微笑みに顔を赤らめ、胸が締め付けられる感覚を覚えた。自分が彼女の憧れの対象ではないと自覚しながらも、今自分だけに向けられているのだと。

白銀オーラで美しく変貌したルミアと頬を赤くして微笑む美しい王子。彼らからは幸せいっぱいのオーラが出ていた。


その美しい光景を見ていた会場のほとんどが思った。


二人は恋仲だと。



周囲の貴族たちは言葉もなく距離を取り、気づけば自然と広い空間が2人のために広がっていた。



そんな彼らに、アディは黒い視線を向けた。周りからは祝福する声が聞こえ、『女神』と『精霊王』の言葉が貴族たちから発せられていた。


アディは不機嫌な感情を顔に出したまま、スフィラと踊っていた。


「ちょっと、アディ。顔」


「……」

(あ)


「嫉妬が顔に出てるって言ってるの」


「嫉妬なんかじゃない。このままじゃ…あいつ」

(嫉妬なんてそんな生やさしい話じゃない)


「なによ。ルミアが取られちゃう?」


「違う。神格化されるってことだよ」

(スフィラはわからない)


「王妃になるなら別にいいじゃない」


「それじゃだめなんだよ」

(絵本の王女にしたくない)


「何がダメなの?ルミアは殿下にお似合いじゃない」


「……そうだな」

(このままじゃめでたくない)


「ねぇ、アディ。その顔ちゃんと自分で確認したほうがいいわよ」


「なんで?」


「本当に気づいてないの?」


「は?」


スフィラは音楽に合わせて優雅に軽やかなステップを踏みながら、微笑みのまま小声で言った。


「悲しそうな顔してるわ」


「…そんなこと—」

(俺は怒ってる)


「今にも泣き出しそうよ。次はルミアにダンスを申し込んだら?」


「……俺は…怒ってるんだ」

(泣き出しそう?そんなばかな)


「そう。じゃ申し込まないの?」


「踊るに決まってるだろ。あのままじゃレオが続けて踊りそうだ」


「踊れば婚約確定ね」


「スフィラ、お前の方が殿下に—」


「私は殿下のことは好きよ。でも他に会いたい人がいる。知ってるでしょ?」


「……アレに?本気だったのか?」


「アレなんて呼ばないで。ルミアには言わないでよ。着いてきそうだから」


「確かに」


曲が終わり、お互いお辞儀をして離れた。そして、アディはすぐにルミアの元へと向かった。


ルミアは手を離して、お辞儀をしようとした。けれどレオは離そうとしなかった。そのまま続けて踊ろうとして、アディに止められた。


「殿下。次は俺と踊るんで、手を離してください」


「まだちゃんと終わってないんだけど」


「もう2曲目が始まります。殿下?ルド呼びましょうか?」


「わかったよ。アディは嫉妬深いんだから」


「は?」


「アディ、顔。じゃ、ルミア、僕はちょっと挨拶に行ってくるからね」


レオはルミアの頬に触れて微笑んだ。アディが舌打ちしてルミアはびくつき、返事ができなかった。アディが王子に向ける態度ではなかったことで、周囲の貴族が目を逸らしてヒソヒソと噂をし始めた。


けれど今のアディにはどうでもいいことだった。ルミアの手をしっかりと握り、少女の黒い瞳をまっすぐと見つめる。音楽に合わせ、ステップを踏む。ルミアの拙い踊りに優しく合わせ、リードした。


「アディ、どうしてそんなに悲しい顔してるの?」

(さっきまで無表情だったのに…)


「……怒りを通り越して憐れんでるんだ」


「…何言ってるの?」


アディはどこか悲しそうに、見つめて話す。ルミアは口角だけあげて話を聞きながら動かされるまま踊っていた。


「今、ここにいる貴族はお前を女神の加護を持った王女と重ねてる」


「…王女?おどき話の?殿下と踊っただけなのに?」

(わからない…社交、こわ)


「そうだ。お前がレオに向けた笑顔で貴族たちは恋仲だと噂してるぞ。だが打開策が一つだけある」


「…打開策?なんの打開?」

(は?恋仲?なぜ?)


「お前、このままじゃ外国に行けないぞ。王族に入ったら国を出るなんてできないだろうな」


「……別に殿下と婚約するわけじゃない。それに外国なら自分で行く」

(なんでそんな意地悪なこと言い出すの?確かに姉様と殿下がペアじゃなかったから…でも噂でしょ?)


「俺が人伝に聞いた、秘密の図書館には一人じゃいけない」


ルミアの瞳がきらりと光った。アディはルミアの興味を惹こうと必死だった。


「…なにそれ。秘密の図書館って何?」


「打開策に乗るなら答えてやる」


「打開策って?」

(だからなんの?)


「曲が終わったら俺と一緒にこの場を抜ける」


「……殿下を置いて?」


「そうだ」


「無理だよ。流石にそんなことできない」


「なんで?」


アディは踊るのをやめた。音楽は止まることなく、会場を流れる風のように響いていた。


「無礼…だからだよ。殿下を一人置き去りなんて」


「ルドがいる。一人じゃない」


様子がおかしいアディに戸惑い、周囲から嫌な注目を浴び始めた。レオが気づき、ルミアの元へ行こうとした。その時、アディとルミアの間に立った焦茶色の髪の少年。


「まだ音楽は続いてますが、終わりですか?よければ僕とも踊ってよ。ルミア」


声の主は、エリック・マジェだった。ヘイレスト家の息子で学園の研究員。


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