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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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バイセル家

バイセル男爵の開くパーティーは、王都周辺で開くような大規模なものではなかった。なのに三公爵であるアヴァロフ家、ジャベリン家、ヘイレスト家、さらには王族まで参加するという異例だった。そのせいで周辺貴族だけでなく、王都周辺の、距離的に間に合う貴族まで、参加したいと狭い会場に詰めかけられたのだった。


バイセル家はもともと貴族ではなかった。国の最南端の辺境に、ある日突然、迷宮ができた。村の住民は次々と逃げ出し、魔物に命を奪われた。国がなんとか対処したが、だれもその領地を欲しがらなかった。そこでアヴァロフ家と共に戦った平民上がりの騎士、初代バイセルに当時の王が爵位と共に領地を与えた。


バイセル男爵家はそこから始まった。


迷宮からは時折、少ないものの魔物が逃げだして住民を襲う。バイセル家はジャベリン家指導のもと、ギルドを作り、領民を増やそうと努力を続けてきた。

魔物の対処に領地改革。同時に子孫を未来へ繋いでいく。国から補助金は出たものの、金でどうにか収められるほど、領地運営は容易ではなかった。


屋敷に結界を常設し、屋敷はやがて砦へと変わっていった。

雇う使用人は戦闘経験者の冒険者上がり。

昼夜を問わず迷宮の警備。


そこでようやく領民が戻り、土地を耕し、農地が増えた。


現バイセル男爵のカイオス・バイセル。彼の父は幼いカイオスを残し、病に倒れた。残されたのは片足を失った母だけ。使用人と家族のように育ったカイオスは、借金を肩代わりするかわりになんとか妻と結婚した。


けれどその妻は、下の息子を産んで姿を消した。迷宮の魔物に怯える日々に耐えられなかったのか、女で、さらに片足を失った戦闘狂の母にいびられて出ていったのだろうか、と思っていた。


そんなバイセル家で形だけでも、と毎年行う小規模なパーティー。周辺貴族と交流をもち、あわよくば娘と息子の婚約者を見つけるための田舎貴族の社交場。


そのはずだった。


「こんにちは。突然参加して悪かったね」


「いえいえいえいえ、滅相もございませんっ。お、お、お初にお目に…」


「ははは、気を楽にしてよ、バイセル卿。陛下から聞いてるよ。陛下は迷宮の管理に感謝していたよ。もちろん、僕も、三公爵もね。それに会うのは初めてじゃないでしょ?」


レオは王子としてバイセル男爵と挨拶を交わしていた。ルミアはレオの隣で頬を痙攣させながら、人形のように固まっていた。レオが腕を動かして、ルミアの添えていた手を揺らし、挨拶のタイミングを教えた。


「…初めてお目にかかります、バイセル卿。ルミア・アヴァロフと申します」


「……ルミア……様?」


バイセル男爵はレオから視線を外してルミアを見た。どこの美しい令嬢かと周囲の貴族は、男爵の会話に目を光らせていた。そして男爵の驚きと共に、狭い会場に詰めかけていた多くの貴族たちがどよめいた。


ざわざわと皆口々に事実確認をする。


「今、ルミア様っていった?あのアヴァロフ家の?」


「間違いない…スフィラ様も出席されてる…でも白かったか?」


「あれが!?王族かと思ったわ…」


「魔力が暴発したとかって聞いたけど…」


「にしても美しすぎない?」


「俺には光って見える」


「目がおかしくなったか?」



チリン、チリン……


どこから聞こえるのか、金属の高い音が弾かれるような綺麗な音が会場に響いた。それまでどよめいていた貴族たちは、音のする方へと目を向けた。会場に来ていた音楽家が演奏を始めるために音を鳴らし始めていた。


これはシドヴィスの指示で集められた音楽家たちだった。正装した女性が、巨大な弦楽器を指で弾いて調節していた。


「面白そうな楽器を持っているね、バイセル卿が呼んだの?」


「へ!?…いえいえ。殿下がお越しくださると噂が流れまして、冒険者ギルドに訪れていた楽器屋です。周辺貴族の誰かが声をかけてくださったんですよ。なんでも面白い演奏をするとかで…。とは言え、ルミア様、剣術大会では息子がお世話になりました。お美しくなられて、驚きました」


「え、えぇ。新しい魔法を開発中でして…え…と…失敗して髪色が変わってしまったんです、ほほほ」


それまで王族に見せるバイセル男爵の微笑みが、ルミアの言葉に反応して真面目な父親の顔に変わった。同じく微笑んではいたものの、目が笑っていなかった。


「そうですか、新しい魔法。それはそれは素晴らしいことです。ですが、以前ルミア様が公表された資料に目を通しましたが、実践するには説明が抜けているのではないか、と話題になっております。そこで、もしよろしければ、来年ルミア様と一緒に学園に入学する、うちのにご指導願いたいのです」


「バイセル卿、僕はルミアの公表した書類だけで習得できたよ。それにルミアは病弱だからね、大会からはずっと一人で篭ってたんだって」


「……で、では殿下は使えるのですか?」


「ほら」


レオは白い手袋越しにバチバチと青白い雷の球を見せた。バイセル男爵は茶色の目をまん丸にして、静かに視線を落とした。そしてそのまま首を垂れて諦めたように覇気を無くした。


「御見逸れしました…大変失礼いたしました」


「きっと、できるようになるよ」


「ははは、精進いたします」


「今日は楽しませてもらうね、さ、ルミア。行こう」


ルミアはバイセル男爵に軽く会釈して、レオに引かれるまま会場の中央へと進んだ。


「思った以上に集まったみたいだね」


「どこから話が漏れたんでしょうか…」

(逆に漏らしたとか?)


「そんなことより、音楽が始まりそうだよ?」


突然ルミアはレオに方向転換させられ、ダンスの構えを取らされた。


「こんな狭いところで踊る気ですか?」


「もちろん。嫌なの?」


「だって、周りにいっぱい人が…」


「大丈夫だよ。踊り始めれば自然と広くなる」


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