表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/95

目を奪われる

艶めく生地は深い青。光を反射して輝く金色の耳飾り。漆黒の瞳に白銀のまつ毛と、結われても肩に垂れ下がる長い髪。頬には白い肌を際立たせた頬紅と、薄く塗られたピンクの唇。蒼紫の花飾りを頭に付け、ふんわりとした紺色のドレスは、素肌をより白くみせた。


「ふぃ〜!!できました!最高です、お嬢様!!この世で一番美しいです!」


『さすがねユナ!あぁん、ルミアァ〜変な男に着いていかないのよ?』


「何言ってんの、エデン」


「エデン様、なんておっしゃったんですか?」


「なんでもないよ」

(起きるタイミングまで気まぐれなんだから)



ユナは朝からルミアを入念に磨き上げ、あーでもない、こーでもないと持ってきていたドレスを全部合わせてやっと出来上がったのは、パーティーが始まる1時間前。バイセル男爵の屋敷まで馬車で15分だったので、間に合ってよかったとルミアは安堵した。


夏の社交パーティーなので、背中が大きく開いたドレス。といっても少し成長したルミアの体に合わせたドレスがなかったので、姉のドレスを急遽借りたのだった。


姉スフィラはすでに準備ができていたようで、レオたちとお茶を楽しんで待っていた。ルミアは屋敷の廊下に出て、2階の談話室へと向かった。いつもより踵の高い靴を履いて、ぎこちない歩みで談話室へ向かう。


その途中、アディがルミアを迎えに行こうとして、鉢合わせた。


アディは目を一度ゆっくり閉じ、また開けると息を吐くように不機嫌に短く笑った。彼の左の瞼が痙攣したのを、ルミアは見逃さなかった。そしてアディは胸元につけた蒼い宝石に手を当てる仕草をした。


「アディも、パーティー仕様だね」

(やっぱり黒いタキシードなんだ…ジャベリンは黒ばっかり)


「目立つ」

(これじゃ女神と言われてもおかしくない…目立ちすぎだろ…参加者を惑わせたいのか?崇められたいのか?)


「は?」

(綺麗だとか似合ってるとか言わないの?せっかくユナが頑張ってくれたのに…)


「レオがお前に合わせるとか言わなくてよかったよ」

(だが白い髪がレオの王族の正装に合って逆に……それじゃ見せ物じゃねぇか。だから黒に戻せって言ったのに)


「…アディはやっぱり黒いんだね」

(何言ってるのかわからない…しかもなんでそんなに不機嫌なの?エデンに言い負かされたのが気に入らないかった?)


「黒は何よりもジャベリンを表すからな」

(だからお前の髪も…)


「姉様のドレスが合ってよかったよ。ユナが丈を合わせてくれたから助かった」

(髪を黒に戻したらこうしてアディと普通に会話できなかったかも。私は私。ルミア・アヴァロフだもの)


「でも…ドレスと同じ青い宝石をつけてるから、お前と並んでも違和感がない。瞳が黒くてよかったな」

(俺はお前を手離す気はない。お前は俺の大事な…)


「青?……アディは姉様とペアだよ?だからアディの服に紅いラインが入ってるんでしょ?私はなぜかレオとだけど…シドは参加しないんだね?」

(アディの顔、なんか…怖い)


アディは笑った。迷いを振り払うように。


彼は昨夜、兄に愚痴をこぼして思考を切り替えたのだった。これは感情ではない。必要な判断だ、と割り切った。ジャベリン商会を世界へもっと押し広げるための選択。


ルミアは彼にとって、駒であり、鍵。


そう割り切ったはずなのに、胸の奥がざわつき、イラつき、不機嫌で装っていた。


「兄上は別の仕事中だ」

(もし兄上がルミアと出席したら婚約者だと思われる。ただでさえ表に出ないのに、瞳と同じ色のドレスとか、明らかに王族に対しての牽制になる)


「ねぇ、アディ。どうしてそんなに不機嫌なの?眉間の皺が戻らなくなるよ?」

(いい加減に落ち着いてよ。髪色くらいで…)


「あ゛?」

(お前のせいに決まってんだろ!)


「……こわいよ」


「……」


アディは深呼吸して眉間を元に戻した。そしてルミアの手をとって談話室へと黙って向かった。


談話室の中に入ると、2名の宮仕がレオの後ろに控え、その前にジオルドが立っていた。レオと

向かい合って座るスフィラは、どこかよそよそしい雰囲気で、上品にお茶を飲んでいた。


「ルミア…」


レオはルミアを見て、驚いていた。その顔は、間抜けにも口が空いていた。同じく部屋にいる誰もが同じ反応だった。


(みんな黒髪に戻すと思ってたのかな?姉様には伝えたはずなんだけど…なに?変?)


「すみません、お待たせしてしまいました」


「……なん…ていうか……しい」


「…変…でしょうか?」


「逆だよ…本当に…精霊みたいだ」


「ゔうん!」


アディが大きく咳払いをした。レオはハッと我に帰り、宮仕に手で合図して退室を促した。宮仕は下を向いていたが、しっかりとルミアの人外の美しさに目を奪われていた。


ルミアとすれ違う時、恭しく頭を下げて退出した。


きっとレオの母や父、祖母に聞かれて言うのだろう。


『レオナルド殿下にふさわしい』と。




「ごめんね、座ってよ。ルミアはもっと時間がかかりそうって聞いてたから軽く食事をしてたんだ」


「そうだったんですね。今のって…王宮の…」


「気にしないで。僕の監視みたいなものだから」


スフィラもジオルドも我にかえって、妹の異質さを観察した。そして拭いきれない想像をしてしまった。本当にルミアなのか、と頭によぎる疑問。


「私のドレス、丈を合わせたのね。似合ってるわ…でも…ちょっと…」


「まだ大きいですか?ユナが頑張ったんですけど…」


「いえ、サイズのことじゃなくて…」


スフィラは誰よりも母に似ている自分を誇りに思っていた。自分の妹も母に似て、顔は整っていた。けれど姉は無自覚に妹を格下に見ていたのだった。


今、隣に座っている妹が、以前とは明らかに違って見えた。この世の美を集めて倍にしても届かない、人外の存在に影響された輝きが見えた。


スフィラは妹の両頬を手で掴み、まじまじと顔を近づけ観察した。


「ね…姉様?…なんでしょうか?」

(近い…黒い瞳が…美しい…)


「…あなた…ルミアよね?」


「何…」

(え、何に見えてるの?)


「ルミアよね?エデンが入ったまま?」


「ルミアですよ…エデンは部屋で眠ってます…」

(エデンに見えてる?鏡で見たし、ユナは私として認識してた…けど?)


姉妹が顔を近づけている中、アディはわざわざルミアの横にどかっと座った。その振動でスフィラの額とルミアの額が激しくぶつかった。


「痛…」


ジオルドは眉間に皺を寄せたまま、怪訝な顔でルミアを観察し、アディは不機嫌を露わにして顔が歪んでいた。それを見比べたレオが、突然声を上げて笑いだした。


「っぷはは…くくく…」


「殿下?大丈夫ですか?」


「くく……大丈夫じゃないのは……ルドたちでしょ?」


「いえ、あまりにも…ルミアが…その…エデンに似ているというか…」


「素直に美しいって言えばいいんだよ。確かに今までの幼い黒髪のルミアとは違うけどね」


スフィラがおでこをさすりながらレオに向かって半目で睨んだ。


「殿下!笑い事じゃありませんよ。確かに顔はルミアですけど、明らかに異質です」


「異質…変ってこと?」


「そうよ。まるで精霊か女神様かってほど透き通った白銀の髪よ?まつ毛なんてアクセサリーみたいに輝いてるわ」


それを聞いて、レオは笑い転げる勢いで、お腹を抑えて必死にプルプルと震えていた。


「もう…やめて…やめてよ…お腹痛い…」


「なんで笑うんですか!?こんな美貌を他が見たら…おかしくなるわ。それにさっきの宮仕をご覧になったでしょう?ルミアにわざわざ頭を下げたんですよ?」


「…っく…はぁはぁ…確かにおかしくなるね……はぁ。僕もよく言われてたよ。さすが女神と精霊王の庇護を受ける王族だってね」


笑いながら話すレオの一言で、部屋の空気が静かに変わった。


アディとジオルドの眉間の皺が消え、スフィラは紅茶に視線を落とした。ルミアはその緊迫した空気に戸惑う。


(言われてるからなんなの?私も思ってたし、姉様も人外って言ってたじゃない)


レオは呼吸を整え、ルミアに向かって話を続けた。


「でもね、ルミアは実際、エデンが体に入って影響を受けたのは事実だ。髪やまつ毛の色が変わったのは驚いたけど、ルミアはルミアなんだよ。それに僕だって王子だ殿下だって呼ばれてるけど、ルドたちと変わらない、ただの、人の子なんだ」


ジオルドが深いため息を吐き、ルミアに向かって頭を傾げた。


「ルミアは……殿下よりも輝いて見えますが……よろしいのですか?」


「ふふっ!…そうだね。でも魔力が暴発…したんだっけ?その設定で僕と一緒にいれば大丈夫だよ…きっと」


ルミアの額にゆっくりと皺ができ始めた。けれど、今更黒髪に戻したくなかったし、エデンとユナから、『自信を持って胸を張れ』と言われていた。


(私の何がいけないの?)


「私は…戻しません…それに—」


ルミアの言葉を遮るように、レオは即座に言った。


「うん。むしろ僕はどんな姿でも、君の隣に立つよ」


いきなり真面目に肯定されたルミアは、レオの言葉に他の意味が含まれていることに気づいた。


迷宮の”シーカー”を二人で正常化した二人だけにわかる、隣に立つ意味。国内に残る迷宮はあと3つ。正常化していけば、ルミアはもっと容姿が変わっていくかもしれない。


エデンの影響だけでなく、”シーカー”の『残穢』に影響を受けているからこそ、彼の言葉に深い意味があると感じた。


けれど、ジオルドたちから見れば、婚約者としてのプロポースを見せられている気分だった。その上、レオとルミアは互いに見つめ合ったまま沈黙している。


ガタンッ


突然アディが机に足をぶつけて立ち上がり、無言で部屋を出ていった。沈黙が流れ、皆思い出したかのように動き出す。


レオはお茶に手を伸ばして静かに飲み始め、スフィラはお茶に視線を落としたまま、軽食を口に運んだ。ジオルドはアディの出ていった扉に、目を細めて見つめていた。


ルミアは何がどうしたのか理解できず、空腹を満たすため、とりあえず料理に手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ