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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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ユナはルミアを見て、放心状態のまま固まり、涙を流した。口を少し開けたまま、瞼がヒクヒクと痙攣していた。何かを言いたげな口も僅かに動いていた。


「お…じょ…様…」


「ただいま、ユナ」


「…おかえりなさいませ!!」


ユナは変貌したルミアを抱きしめた。確かに伝わるお互いの熱に、戻ってきたと安心できた。


迷宮を出たルミアたちは、迷宮の外に用意された黒い馬車に乗った。真夜中、シドの案内で最南端の街に建てられた、ジャベリン家が用意した屋敷についたのだった。


ユナたちが着く前に到着していたので、実家を出て、6日目の朝になっていた。途中何度か休憩を挟んで野宿したり、馬車で眠ったりしていた。野宿と言っても、ルミアたちは小さな魔法のテントで悠々自適に過ごした。


シドヴィスが欲しいと言ってきたが、丁重にお断りした。その際、スフィラたちに渡していた認識阻害マントはルミアがちゃんと回収した。


けれど、アディは絶対返さないと言ってルミアを困らせた。結局最後までアディはルミアに返さなかった。


その間、レオとルミアは互いに話したいことがあった。精霊王のことや、シーカーを教えてくれた少年のことなど。けれど、ルミアはアディたちの前で話さなかった。


なぜならルミアの体の中には、まだ処理しきれていない”シーカー”の『残穢』が残っていたからだった。言葉にするには難しい、ここではない世界の理解できない知識たち。


不確定すぎる情報に、ルミアでさえ整理がついていない。


三つの月と王女の結界。

二つの丸い球がついた機械の乗り物の設計図。

遠距離武器の機械の部品の設計図。

魔法陣のない魔法。

願いが呪いとなった茨。



関連した情報が繋がりそうで、繋がらない。思い起こそうとすると、感情が掻き乱されるような、悲しいような、苦しさが襲ってくる。


自然とレオとルミアは、今ここで話すわけにはいかない、と沈黙を選んだ。


ユナが到着し、ルミアの部屋で再会したとき、彼女は主の髪色を見て驚いていた。けれど優しく微笑んで、欲しい言葉をくれた。


「お嬢様、見ない間に成長されましたね。お美しさが倍増してます!」


「みんな驚くよね…でも、この白銀っていうの?気に入ってる」


「漆黒の髪も美しかったですが、ユナにとってルミアお嬢様に変わりありません。お顔は奥様に似てお美しいですし、エデン様に似た髪は、よりお嬢様の聡明さを——」


「はいはい、もういいってば!わかったから。ありがとう」


ユナはルミアの周りをくるくると回り、落ち着かない様子で観察していた。


「そう言えば、ノックス様とエデン様はお元気ですか?」


「それが、迷宮から帰ってきてずっと寝てばっかりなの。たまにクッキーは食べるの」


ノックスもエデンも黒猫と白ウサギのまま寝ていた。ルミアが部屋まで運んだが、動かないし、爆睡している。クッキーを口元に持っていくと2匹とも食べるので、寝ているだけなのかとルミアは放置していた。


(疲れたのかな?)


コンコン


ルミアの部屋にノックと共に開けて入ったのは、アディだった。ルミアたちの返事を待たずに開けるところがアディらしい。ユナがスッと雰囲気を切り替えて、お茶を用意し始めた。


「ルミア、明日のバイセル男爵主催のパーティーなんだけどさ、その髪、なんとかならないか?」


「…髪?」

(今、なんて言った?)


ルミアは白い髪を指差す失礼なアディに、半目で睨みつけた。


「真っ黒だったのに突然、真っ白になったんだ。それにバイセル男爵の息子は一度、大会でお前と対戦してる」


クリストファー・バイセル男爵令息。彼は同い年だった。つまり、来年、ルミアと同じ魔導学園に入学する同級生と母から聞いていた。


「…急激な精神的負荷で、髪が白く変化した…とか?」


「なんの負荷だ」


「うーん……あ、長時間の馬車移動で心身ともに疲れて、とか」


「帰りを心配させるだろ」


「……じゃぁ、魔力の実験が失敗した!これなら過去に事例はある。パーマン・ジョルジュの髪は魔法薬実験で爆発したんだよ?」


「…はぁ、ルミア。元に戻せないのか?」


「……」

(実は戻せる。戻し方も知ってる。でも戻したくない)


ルミアは睨み返してくるアディから視線を逸らし、鏡の前に座った。自分の髪を愛おしく撫でて、エデンの髪を思い出す。


(エデンが教えてくれた。この白銀はエデンの印みたいなものだ。戻せるけど…)


そのエデンはノックスと一緒にベッドで眠っていた。ルミアは戻したいと思わないし、黒髪に戻すのを拒んでいた。


「なぁ、戻せるのかって聞いてるんだけど?」


アディはルミアの後ろに立ち、鏡越しにまた睨んできた。ルミアは髪が白くなったことで、なぜかアディと普段通りに目を合わせられることに気づいた。


(そうか、あの子と重ならないから…)


「戻せたとしても、戻さない。それにこの髪色、気に入ってるの」


「黒い方がいい。白いと…なんか落ち着かない…それにお前じゃないみたいだ」


ルミアはまた、自分の髪を手で摘んで見る。アディが落ち着かないと言った意味を考えて、彼に質問した。


「私は私だよ。髪色が変わる人なんていっぱいいる。兄様だって黒髪だったのに赤が混じって生えてきたし、病気で髪色が白くなる人だっているよ。なのにどうしてアディは落ち着かないの?」

(誰と重ねてるの?)


「お前は昔から黒かった。黒い髪に黒い瞳。それがルミアだ。それにバイセル男爵も、その娘も息子も大会でお前を見てる。エデンは離れたんだ。戻せるんだろ?素直に戻せよ」


アディの口調がキツくなっていった。彼がイラつくのはいつものことだったが、いつも以上に感情的だった。それはまるで、子供のようだと、ルミアには思えた。


ルミアは振り返り、アディを直接、真っ直ぐに見た。睨むでもなく、自分の強い意志を伝えようと、彼の茶色い瞳を見つめた。


「嫌よ。レオはこのままでもいいって言ってくれた。それに私、自分の黒い髪が嫌いだったの。姉様や母様のような綺麗な紅い髪に憧れてたから、すごく気に入ってるの」

(これは本当のこと。嘘や隠し事じゃない)


「お前は黒の方が似合ってる。でもそんなに気に入ってるなら返送用のウィッグを被れ。変な噂が立ったら他に迷惑がかかる」


『そんなことないわ』


眠っていたエデンが人型へと変わり、アディに諭すように声を出す。不気味な優しさを放つような貼り付けた笑顔を彼に見せつける。


『だって、あなた…黒がルミアの色って言うけど、決めるのはルミアよ?それに髪色が変わっただけで騒ぐなんて変よ。これまでとんでもない魔法を使って驚かせたのよ?髪色が変わるくらい、驚かないわ。それとも黒い髪じゃないといけない、”あなただけ”の理由があるのかしら?』


「お前には関係ない」


『お前こそ関係ないことよ。もちろん元に戻せるわ。それをしない選択を、ルミアがしただけよ?それとも最近の人間は、女の好みの色まで奪うのが普通なの?』


「エデン、もういいよ。アディがなんて言おうがこのまま出席するつもり。それに、魔力の暴発ってことにして、姉様たちにも説明するから」


アディは何も言わず、静かに部屋を出ていった。


胸にツキンと小さな痛みが走ったルミアは、胸に手を当てて深呼吸をする。エデンはルミアの気持ちに気づいて、優しく抱きしめた。


(迷惑かけてるってわかってる。でも、それだけじゃない。わかってる。その黒は私じゃないってわかってる…わかってるのに…)


気配を消して部屋の隅にいたユナが、ルミアの後ろに立って、鏡越しに微笑んで見せた。


「お嬢様。胸を張ってください。背中が曲がってますよ」


「あ…うん、そうだね」


その日の屋敷では物が激しく叩きつけられる音が聞こえた。使用人の誰かが、大きな置物でも落としたのだろう、と誰も気にしなかった。

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