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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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精霊の影響

準備が整ったルミアたちは、洞窟の結界を出た。入り口の外は来た時とは違い、魔物で埋め尽くされていた。最初に出てきた魔物から甲殻類の魔物まで、種類は豊富で群がっている。その中には見たことない不気味な色の大蛇の魔物もいた。


魔物たちは血眼になってルミアを探しているのだった。迷宮がルミアを排除しようと躍起になっている。


ルミアはそれがわかっていた。エデンが体に入った後から、魔物が出す、特有の穢れをはっきりと感じ取れていた。


(インプの時とは別格の気持ち悪さだ。だからエデンたちが気持ち悪がってたわけだ)


ずっと存在感を隠していたシドヴィスは、守ろうとして前に出る。けれど、彼の服の裾をルミアが引っ張って止めた。


「シド。私が一掃する。力を温存して」


10歳の少女とは思えない堂々とした態度は、エデンの影響だった。けれど、女神の加護の影響もあったことに、ルミアは気づいていない。


シドはルミアに向かって、目を細めるだけ。睨まなかったのは、彼女への認識が変わったからだった。アディから聞いていた報告は、加護が曖昧に説明されていただけ。


彼はルミアの容姿が変わったことで、ただの少女ではないと視覚的に理解した。手のひらを返したように、彼女の指示に黙って従った。


『エクリプス』


ルミアは右手を魔物の軍勢に向けて一言魔法の言葉をつぶやいた。何も起こらず、魔物たちは気味の悪い音を出しながら、こちらに気づいた。


皆、一斉に戦闘体制に入った。スフィラは魔法防護結界を二重にかけ、ルミアたちの周りを囲んだ。その上から物理防御の魔法結界を重ねたレオ。ジオルドは誰よりも先に抜刀し、身構えて剣をより強く握った。


けれど一瞬、スッと魔物たちの動きが止まった。そして、目が白く変色していき、静寂が包んだ。


「……目が…白くなったぞ…」


シドヴィスはスフィラたちの結界の外に出て、動かなくなった魔物を足で蹴り、生死を確認した。


「死んでる…」


闇魔法の一つ。ルミアが魔物の軍勢に使ったのは『エクリプス』


マナでできた暗闇は、穢れた魔力と共に、生気を奪う魔法だった。これは魔物に対してだけでなく、命をもった全てのものに有効。ルミアの純粋なマナで行使したため、威力が倍増し、生気を吸い尽くして魔物を倒すことができた。


ルミアは身体中に熱い『穢れ』が流れる感覚に目を細めて耐えた。熱湯が体の中を走る感覚。そしてゆっくりその温度が下がっていき、深呼吸してマナへと変換してを落ち着けさせた。


(今度はちゃんとできたよ、エデン。あとは…)


「魔物の素材ってもらっていい?」

(実験に使いたいの)


「……好きにしろ」


シドが答えてくれたので、ルミアは魔物の死骸を一気に収納した。アディたちはあまりにも簡単に大量の魔物を駆逐した白銀の少女に、怯えにも似た感情を抱いて声が出なかった。



「ルミア……今のが闇の魔法?」


レオは自分からルミアに声をかけておきながら、振り返った顔を見て固まった。あまりにも変わり果てた容姿にまだ慣れてなかったのだった。


ルミアは首を傾げ、普段ならレオに対してしない返事を返す。その眼は周囲が怯えるほどの冷ややかな眼をしていた。


「えぇ、そうよ。さぁ、行きましょう」

(見ればわかるでしょ?)


「ま、待て!お前、本当にルミアか?エデンなのか?」


「お兄様、私はルミアです。外見が変わっただけで……そんなことより、またすぐ魔物が集まっては対処しきれません。行きますよ!!」

(急がなきゃいけないんだから)


「ルド、ルミアはエデンの影響を受けてるだけだよ。迷宮を出れば戻る…はずだから、ね?」


「…はぁ」


ルミアはシドヴィスの手を掴んで先頭を走った。けれど走ったと思ったのはルミアだけで、彼女は無自覚に浮遊していた。シドは驚きつつも、手を引かれて仕方なく走る。その後ろをジオルドたちは必死についていく。


道を知っているかのように、道ではない道を下っていく。崖を登り、横穴をくぐり、急勾配の坂を滑るように降りた。


最後尾のアディを時折魔物を警戒しながら必死に追いかけた。先頭のルミアは、とにかく魔物を殲滅しながら、急いで迷宮の最深部へと向かった。


「待て!!18階層の看板だ!ここじゃ毒霧が—」


「安心して。私の作った魔石が浄化してるから毒や精神汚染は効かない。それにレオの魔石にはエデンのマナが込められてるから周囲の毒を吸収して無毒化してる」


シドが力強くルミアの手を引っ張って止めようとしたが止まらなかった。彼女の言葉にも驚いたが、髪がどんどん伸びていることに怯え始めていたシド。15階層までしか知らなかった彼は、常軌を逸した少女に冷静さを失っていった。


「聞いて!私とシドだけで最深部に行く。この先の樹海に結界石があるからそこで待ってて」


「俺たちじゃついていけないって?」


「…そうだよ。でも勘違いしないで。アディたちが弱いんじゃない。穢れが強すぎて迷宮が軋んでる」

(説明できない…なんて言えば…穢れが私たちの周りに集まってる!)


ルミアにしかわからないエデンの力があった。周囲の魔力の流れが手に取るようにわかる。だからこそ穢れた魔力の動きを感じ取った。その穢れの濃さがルミアを焦らせていた。


そして穢れが一番少ない穴場があることに気づいた。緊急避難所のような水の流れがあり、穢れが少ない植物のマナが見えた。ルミアはアディたちにそこで待つように伝えたかったのだ。


アディはルミアの言葉を汲み取り、要件だけをわかりやすく言った。


「お前に迷宮が反応して襲ってきてるってことか?」


「そう!私と離れた方が安全よ。何階層か知らないけど、魔石に囲まれた植物があるの」


「ここは未踏破区域だ!俺たちは入ったことがない階層だ!結界の魔石が本当にあるのか!?」


シドはほぼ叫んでいた。怒るでもなく、ただただ驚きの連続に声を荒げた。


アディとシドは息を切らすどころか、余裕で会話を続ける。


スフィラとジオルドは着いていくのに必死で会話に入れなかった。


レオはエデンからもらったマナのおかげか、元気に風のように飛んだり跳ねたりして、ルミアのすぐ後ろにぴったりと着いていた。


「魔石の結界かどうかはわからない。でも確実に穢れが少ない場所がある」


「ルミア!僕は絶対着いていく。そうしなきゃいけないんだ!」


レオには説明できない理由が明確にあった。なぜルミアと一緒に迷宮へ着いてきたのか。それは王族としてではなく、彼が精霊王の眷属として、使命を持っていたから。


「レオは一番穢れに弱いからエデンがマナを分けたのよ?最深部はここよりもっと濃い穢れが—」


「だからこそ、僕がいないとダメなんだ!ルミア。僕を信じて」


レオの声には熱がこもっていた。その熱に反応するように、ルミアの中で眠っていたエデンが目覚めた。


『王子を連れていくのよ……じゃないと迷宮が崩壊しちゃうわ…彼にはそれを止める力があるから』


「エデン!?」


『もう少し…眠るわ…後は任せたわよ…ダメ王子…』


ルミアは振り返ってレオを見る。頭の中だけで聞こえた声なのか、周りにも聞こえた声なのか、わからなかった。


「レオ、今のエデンの声、聞こえた?」


「聞こえなかったよ」


「何?エデンは僕のことなんか言ってた?」


ルミアは後ろに着いてくるレオに気づかれないように前を向いたまま答えた。


「エデンもレオを連れていけって」


「殿下が行くなら俺も行くぞ!」


ジオルドが岩を飛び越えながら大声で叫んだ。それを聞いてアディが続ける。


「もちろん俺も行く。スフィラも全員で行こう。魔物の殲滅は一気にできなくても、兄上もいるんだ。でしょ?兄上」


「俺はルミアしか守れんぞ!」


シドはルミアに引っ張られながら情けない声を上げた。


「シドは一貫してるね」


「殿下のせいです!」


「そうです!殿下が行くからですわ!」


ジオルドはレオに向かって普段の鬱憤をここで吐くように叫んだ。それまで必死に着いてきて黙っていたスフィラまでレオに叫んだ。不安しかないこの状況で、声を掛け合う大切さを知った一行。けれど、迷宮は甘くなかった。


じわじわとルミアたちの後ろから、黒く蠢く巨大なムカデのような魔物が顔を出す。


「ギャーーーー!!!」


スフィラは自信に風魔法を使い、先頭のルミアの足を掴んだ。悲鳴を上げて飛んできたスフィラは。虫が大の苦手なのだった。最後尾のアディが確認してシドヴィスの指示を求めた。


「兄上!!」


「あぁ!!投げろ!!」


「アディ!あの魔道具に魔力を流して上に投げて!!」


ルミアはアディの自慢してきた『大賢者の戦闘用の魔道具』のことを指して叫んだ。後ろには壁を這いずり回ってルミアたちに向かってくる巨大な魔物が口を開けていた。


「これか!?いくぞ!!」


ルミアはシドから手を離して止まり、足にしがみつく姉をシドが抱えた。洞窟内を宙に舞ってアディの投げた丸い銀製の魔道具に向かって渾身のマナを込めて矢のように放った。


矢の先が魔道具を貫き、銀の球が光り輝いた。そして金色の鎖が四方八方に伸びて魔物の巨体に絡みついて動きを止めた。浄化の金の粒が鎖から出て、そのまま巨大な虫の魔物を消した。


「なにそれ…」「やばすぎだろ」


アディとシドが声を合わせた。ルミアはシドの手を握り、また最深部へと走っていった。


「お前、また髪伸びてる…」


「え?何?」


「いや、なんでもない」


シドはアディの苦労を父から聞いていた。甘さが残る未熟な弟だと侮っていたが、自分の手を強く引く白い精霊の少女に出会い、弟が何を背負っていたのかを理解した。


「アディ。よく効く胃薬やるよ」


「欲しかったんですよ、兄上」


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