アディの兄
シドヴィスの持つ魔赤灯は青白く光っていた。最後尾を歩くアディも同じものを持ってきていたが、思ったよりも暗い。ルミアは気分を変えたい気持ちでいっぱいだったので、明るくなるように光の魔法を放った。
『ルミナス=クエル』
ルミアから放たれたオレンジ色の温かい光の粒。一つの大きな灯りの球が弾け、無数の粒に増えて空中を舞う。『不合理魔術の禁術集』に記載されていた魔法だった。魔力の消費が激しいのに灯りが弱い、とのこと。けれどルミアがこの魔法を行使すると魔力よりもマナと相性がよかったのか、柔らかい陽の光に似て温かみのある光を出せた。明るさに問題なく、本が読めるほどだった。
(これなら少しは安らげるかも…こう言う時にアズール兄さんがいてくれたらな…)
アズールは元気になったエリー・ヘイレストと絶賛青春中だった。ジオルドたちも流石に無理に誘うつもりなどなかったのだ。
「この灯り、綺麗ね」
「そうだね、見てると元気になる感じするよ。さすがルミアだね」
スフィラとレオが、ルミアの思った通りの反応をしてくれたことに、空気がゆっくりと穏やかに変わっていった。ルミアもここで負けじと蘊蓄を垂れ流す。
「ふふん、この魔法はね、陽の光に似てて実際に温度があるんだよ。だからマックリーっていう魔導士が真似て、一段と大きな光の球を出すように術式を書き換えたの。彼、どうなったと思う?」
なぜか楽しそうに問題を出す妹に、姉スフィラは適当に答えた。
「魔力切れしたんじゃない?」
「ぶー!マックリー・シュルツは制御できなくなって地面に光の球を投げたの。そして地面を揺らして岩が生えたの」
「アークバインツ?」
「正解!その魔法の原型がこの光だよ。土魔法だって言われてるけど、実は光魔法だったの」
(姉様がいてくれてよかった…じゃなきゃこの空気は耐えられなかった)
『それは間違いよ、ルミア。光魔法じゃなくて、その光自体が大地と相性がいいだけ。それに私もいるわよ?』
エデンが自己主張強目に、会話に入ってきた。他の男性陣は足元をしっかり見ながらそれを黙って聞いていた。ルミアとスフィラはさすが姉妹なだけあって、同じタイミングで驚いた。
「そうなの!?」「大地?」
『ふふ。かわいぃ。属性みたいなものよ。火は熱、腐敗、蒸発、乾燥、爆発。土には岩、砂、大地、鉱石、泥、結晶、堆積…とあるの。その光は陽の光。大地の中に含まれる鉱石に反応して岩が競り上がる。これは言葉というより、感じとれる精霊だからわかることなの』
「すごい!」「もっと知りたい…」
そんなエデンの講義のおかげで、迷宮の1階層目に到着したシドヴィス一行。深い穴は底まで続いているのに、階段は途中までしかなかった。そこから下には壁が見えなかった。その代わり、巨大な横穴が開いており、洞窟が広がっていた。
「階段で降りれるのはここまでだ。ここからは横に広がった迷路のような道を進む。魔物との戦闘は避けれない」
シドヴィスは抑揚なく、危険性を伝えた。ジオルドは剣の柄に手を添え、いつでも抜刀できるように構えていた。アディは周囲に気を配り、スフィラは収納していた杖を出した。レオは王子らしく堂々としていて身構えたりしなかった。
無言で各々警戒しながら進むと、初めて魔物と遭遇した。黒ずんだ紫の光った瞳に紅い角、体全体が棘に包まれた4本足の魔物が3体。鼻をヒクヒクとさせてこちらに気づくと、クルンと丸まって棘の塊のまま、高速回転しながら風を起こし、突進してきた。その魔物の名前は『トゲネスミ』別名:ハリー。
「防御!!」
シドヴィスが叫び、ルミアの手を引っ張って避ける。スフィラは前にいたジオルドで見えず、反応が遅れた。
けれどアディが雷撃を放ち、スフィラに向かった1匹の動きを止め、すかさず短剣でズブリと刺した。
レオは防護結界を展開し、残り二匹に氷の矢を放った。その矢で動きを止めた二匹にジオルドが素早く切り込んだ。
魔物は尻尾をバタ付かせていたが、次第に動かなくなった。魔物の瞳は白く変わっていったのを確認すると、ジオルドが剣先で触れた。
「目が白くなったら死んでる。それまで気を抜かないように攻撃を続けろ」
ルミアはスッとシドヴィスの手を離れ、魔物のそばへ行った。初めて見た魔物に神眼を使おうとした。けれど現れる文字はぐちゃぐちゃで読めなかった。落胆したものの、魔物をちゃっかり収納した。
「ルミア。俺から離れるな」
そう言ってシドヴィスは、ルミアの首の後ろの服を引っ張って、手をギュッと強く握った。
(片手が使えない方が不安なんだけど…)
『ルミア!彼の言うとおりよ!普通の迷宮じゃないんだから離れないの!』
エデンは過保護に拍車がかかっていた。ルミアは不機嫌にチラッとシドヴィスを見上げた。目がバチっと合ってしまい、怯えるように目を逸らした。
(怖いよこの人…)




