エデン
その後はルミアもフィオナもお互い気まずくなって余計な会話を避けた。ルミアは黄色い色の魔石を5つ選んで収納し、認識阻害のマントを受け取ると談話室へと案内された。アディが来るまでここで待ってて、とだけ言われて黒い別の部屋で用意されたお茶を飲んでいた。窓がないため、火の光りがわからず、今が夕方なのか夜なのかわからなかった。
ルミアの実感では軍部を出たのは13時。そこから2時間ほど馬車で移動してジャベリン家に着いた。精霊のエデンのことで半時ほど。フィオナのところで1時間…と考えていると、入り口の扉が開いてアディが入ってきた。
「お待たせ。大丈夫だったか?」
アディは先ほどの怒りは消えて普段通りに戻っていた。ずっと心細く感じていたルミアは、アディの顔を見て目が潤んだ。立ち上がり、アディに抱きつこうと走った。けれど途中で止まってアディから視線を外した。
「アディ、疲れちゃったよ。もう帰りたい」
アディはルミアが抱きついてくると思っていたのか、両手を広げて首を傾げた。そして自らルミアの元に近づき、そっと少女を抱きしめた。
「どうした?そんなに離れて寂しかったか?」
アディは一人にさせてしまったので申し訳ないと思いながらも、意地悪にルミアの言いそうにない言葉を笑って言ったつもりだった。
「…うん、疲れた」
ルミアは唇に力を込めた。けれどアディには顔を見せないように俯いて、自分の黒髪を見つめた。
(これは…なんなんだろう)
ルミアは終始俯いて、帰りの馬車に乗る。エデンが馬車に座って、その膝の上にノックスが座って待っていた。どうして馬車で待っていたのか聞くと、エデンは地下は息苦しいと言って笑って、ノックスはルミアの膝に乗って、心配そうにルミアの頬に擦り寄ってきた。
「そこにノックスがいるのか?」
「うん」
「そうか。ルミア、お前なんかあったか?」
「ううん。本当に疲れただけだよ。早く帰ってユナの紅茶飲みたい」
「…そうか」
ルミアは俯いたまま、アディの顔を見ることができなかった。
ルミアは知らなくてもいいことを知って、どう接すればいいのかわからなくなっていた。
自分の抱いている謎にざわつく感情は、名前をつけるとしたらなんだろう、と考えていた。
嫉妬ではない。
同情でもない。
だけど、確かにルミアの胸は痛んだ。
***
温室に帰ったのは、19時過ぎだった。ルミアはアディに認識阻害のマントを4着渡し、馬車で別れた。ルミアすぐにそのマントを羽織って伝えたいことを早口で伝えた。一刻も早くアディから離れたいと思ったからだった。
「じゃぁ、3日後に迎えに来るんだよね。荷物を持って、朝8時にみんな殿下の馬車に乗る!」
「ルミア、声でかいって」
「ごめん、じゃあ、ここで大丈夫。温室までは飛んでいくし、アディもやることあるでしょ?今日は本気で疲れたから、またね」
「あ?あぁまた闇の精霊について聞くからな!」
「うん、おやすみ」
「あぁ…」
屋敷から少し離れた場所に馬車を止め、アディは声のする空に向かって話した。
「おやすみ…」
ルミアは温室まで飛んで、無事帰って来れた。それからマントを脱ぎ、収納して温室に入ってユナの顔見て、自然と涙が流れた。
「お嬢様!…はぁ〜…アディウス様の屋敷が怖かったんですか?」
「うん、そんな感じ」
『きもちいいわぁ〜マナが溢れてるぅ〜』
『だろ?ここはルミアの部屋だから空気がうめぇんだ!』
突然現れた純白のドレスを着た白い女性にユナは腰を抜かして驚いた。
「お!?お、お嬢様!?どな…どなたですか!?し、しろい…」
髪も目も白い人間なんて見たことないルミアでさえ驚いた。なので、ユナはもっと驚いた。
「精霊なの。黒猫も精霊だったんだよ。ここは彼らにとって…過ごしやすい楽園…だから姿も見えるんだよ」
「せいれい…だとしても、黒猫はまだしも…女性は…庇いきれません!旦那様たちが見たら…」
『それもそうね、その子賢いわ』
そう言ってエデンはユナの額にキスをして、微笑んだ。
「っひ!」
ユナは目を見開いたまま動かなくなった。ルミアはギロっとエデンを睨んだ。けれど、エデンは体を捩れさせて黒い煙に包まれ、真っ白なウサギへと姿を変えた。
「え!?ウサギ!?」
ルミアはうさぎになったエデンを近くで見ようと近づいた。真っ白でふわふわの柔らかい毛をルミアの顔にもふっとわざとつけるように、ルミアの顔を抱きしめた。
『これならもっとルミアの側に居れるでしょ?それにクッキーだったかしら?たべたいなぁ〜』
『おぉ、エデンは好きな姿になれるのか!?なんで猫じゃないんだよ!俺と同じ猫なら…』
『嫌よ。確かに私はどんな姿でもなれるわ。でもうさぎの方が可愛いもの。それにノックスは猫じゃないでしょ?』
『エデン、まだ言うなって!ルミアが大きくなったら驚かせるつもりなんだから!』
白いウサギと黒い猫が戯れるように手を上げ下げして会話していた。ルミアはユナを心配して伺うように見た。
「あわゎ…なんて可愛いんでしょう…」
ユナは両手を口元で振るわせて恍惚と微笑んで喜んでいた。ルミアは可笑しく思って笑った。
それ以降、ユナは動物用のクッキーではなく、人間用のクッキーを彼らに提供するようになった。
ルミアの周りには動物が寄り添う。アヴァロフの屋敷の使用人たちの中で、ルミアは聖女なのでは?と噂が広まった。




