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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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ジャベリン家の秘密

アディウスは父の自信に満ちたイタズラ少年のように笑う顔を初めて見た。それまで笑うことはあっても、呆れた時か、誰かをバカにする時だけだった父。状況が把握できないアディは、怯えるルミアを見て、また父に視線を戻した。


「父上は俺たちが何をしようとしてるのかわかってるんですか?」


「アディウス、お前こそ俺をなんだと思ってる。俺が椅子に座ってお前の報告を待ってたとでも思ったか?」


「ふっふっふ」


今度は突然ゼノヴィスの横に座っていた母フィオナが怪しく笑い始めた。


「アディ、驚いたでしょ?ふっふっふ。じゃぁ〜ん!!」


フィオナは立ち上がり、人差し指と親指で黒い何かを息子に見せるように持っていた。それを自慢げに説明し始めた。


「これをアディの行動範囲内に常備設置していたのです!そう!これは名付けて、虫型黒烏ロボ!!貴重な迷宮の魔石をふんだんに使った上にマグファクの粘着液で魔力を回路に…」


「フィオナ!今はそこじゃない。俺が説明する」


「…むぅ」


魔道具を意気揚々と説明していたフィオナに釘を刺したゼノヴィス。母は父を不機嫌に睨んでぽすんとソファに大人しく座った。見ていた息子は頭を抱えて俯いた。


「つまり、フィオナの新しい魔道具でお前らを内側から監視してたってことだ」


「いつから?」


「…さぁ」


「まさか…倉…!?」


「まぁ、あれだ。シバが入れなかったところだ」


アディはゆっくり立ち上がり、俯いた顔をあげると同時に両親を憎しみを込めて睨みつけた。


「アディ、あれだ。倉庫の時は声が小さくて聞こえなかった!暗くてよく見えなかったからその後に、母さんが改良したんだ!いいな、俺じゃない」


「何言ってるの!?ゼノが改良しろって言ったんでしょ!?それに私は息子の心配をしてただけで…」


「黙れよ」


ルミアは彼らがなんの話をしてるのかわかるような、わからないような、曖昧だった。


ただ、怒ったアディはゼノヴィスよりも怖いことがわかった。



***


「すごい…部屋ですね…」


ルミアはフィオナに連れられて彼女の部屋にお邪魔していた。部屋、というよりダニエル・ヘイレストの研究所と同じような場所だった。ただ、ダニエルの研究所よりも物が溢れ、所狭しと木箱が積み上げられ、その中には魔道具やぬいぐるみ、魔物の素材や謎の液体が入った瓶が見えた。


「あははぁ〜掃除しちゃうとどこに何があるかわかんなくなっちゃうからね」


「はぁ…」


その部屋にはフィオナと二人きり。アディは父と二人で話があるとかでフィオナがルミアを連れて逃げるように執務室を出たのだった。もちろん精霊のエデンとノックスはルミアについてきたが、途中でまた散歩に行ってくるなどと行って離れていった。


(なんで精霊って勝手なの?ずっと一緒とか言いながらふらっとどっか行くんだもの)


エデンは離れて行く時にルミアの気持ちを読み取ったのか、『精霊は気まぐれな妖精なのよ』とルミアには理解できない言葉を残して去っていった。


「あぁ、あったあった。これ、ルミアちゃんこの布よ。見て見て」


そう言ってガサゴソと箱から取り出してきたフィオナは、ルミアに真っ白な布を手渡してきた。ルミアはその布を受け取ってよく観察した。


『S:マグファクの糸で編んだ布  魔力を含んだ糸で編んだ布

                防御に優れ、簡単には破れない  

                マグファクの天敵ゴロワタの角で切断できる』



「これは…?」


「ルミアちゃん作ってたでしょ!?認識阻害のマント!!」


「え…」


「あ、ごめんね。さっき見せてた虫型ロボで今朝の軍部の様子を見てたのよ。でもまさかレオナルド殿下まで出てくるとは思わなかったから、ゼノも私も迷ってたの」


「えと…何を迷っていたんですか?」


「あのね、私この国の人間じゃないの」


フィオナは可愛らしくふわふわにカールした焦茶の髪を揺らして首を傾げて微笑む。ルミアはだからなんだ、と言う顔をして同じく首を傾げた。


「ルミアちゃんは生まれた時からこの国にずっと住んでるからわからないと思うけど、私みたいな外国人にとって、この国は理解できないくらい歪なの」


「…いびつ?」


「そう。いびつよ。考えて見て。私の母国、メルトバーク王国では陸続きの他国と交流してきたわ。ドワーフに獣人族、エルフに竜族、海洋人なんてのもいたわ。メルトバークは弱い人間の国で、あなたの好きな大賢者が助けてくれなかったら多種族に滅ぼされていたでしょうね。でも彼は戦うための魔道具を授けてくれた。今ではメルトバークは多種族に対して偏見はまだ残ってるけど、交流は増えて当たり前に道を歩いてるわ」


「オルグ様が!?戦うための魔道具を!?」


「ふふ、食いついたわねルミアちゃん。でも今は考えて?そんな国の人間が、このグランパールに来たらどう思う?」


「えぇ…と…他種族とは交流がなく、人間だけの国…外国との交流はジャベリン家の商人のみ…」

(確かに歪。同じ陸続きの国だけど、この国だけ蒼の森の結界に守られてる。しかも人間の力だけで作った結界じゃない)


「あ!だめよ、ちゃんと聞いてね!!私に集中してちょうだい!!」


フィオナは両手でルミアの頬を優しく包んだ。フィオナの深い青の瞳は、ルミアの黒い瞳を覗き込んで少女の頭がどこかへ行ってしまわないように必死に止めた。


「あのね、昔、ゼノは王族と両親を騙して私をこの国に連れてきたの。今じゃ三公爵としてしっかり王陛下に付き従ってるけど、それは昔の若い頃の話。だからアディがやろうとしてることを親として、公爵として止めようとしてた。でも…」


フィオナは昔を懐かしむような遠い目をしてルミアに微笑む。


「ゼノは先祖が残した宝物がくだらないガラクタだってわかったから、踏ん切りがついたみたい」


「え?どういうことですか?」

(ガラクタにしたのは私ってことを責めてるの?やっぱ怒ってるの?)


「まぁ、とにかく、任せなさいってことよ。ルミアちゃんたちはのびのびと迷宮に行って帰ってこれるわ」


「…ん?…はぁ…」

(アディ…わかんないよ…助けて)


「そんなことより!!認識阻害のマント!!この布で作って!!」


「で、でもあれは悪用しないように公表しないつもりなんです!」


「違うわよ!作って欲しいんじゃなくて、作ってルミアちゃんたちが使うならもっと適した布を使いなさいって言ってるの!それに私は同じものは作れないわ。いくら魔法陣を書き写したとしても、あなたの描く魔法陣と全く同じにはできなかったんだから」


「あ、あぁ」

(そうか、収納魔法の魔法陣を元に作ったやつ)


ルミアはフィオナに半ば強制的に、認識阻害のマントを渡された白い布で作った。鑑定で見た通り布には魔力が流れていた。そのせいか描く魔法陣が吸い込まれるように馴染み、魔石を砕いたインクが普通の布に比べてすぐに足りなくなった。そして、フィオナが用意してくれていた同じインクをもらって、なんとか5着分作り終わった。


(これだけ魔力を吸い込むなんて…これなら繰り返し使える!それに防御に優れてるから脱ぐ必要がない)


ルミアは布の性能の高さに驚いて目を見開いていた。するとすぐ横でずっと見ていたフィオナがクスクスと笑った。


「あの、なぜ笑ってるのでしょうか?」

(なんだ?何か変なことでもしてる?)


「ううん、ふふ。ルミアちゃんが魔物の素材をもっと使って魔道具を作り始めたら大陸ごと乗っ取っちゃいそうだなと思って」


「そんなことしません」

(そもそもそんな面倒なこと思いつかないって。それにどこが面白い?)


ルミアは彼女の外見が自分の母より若いと思った。実際、女神の神眼で見た年齢は34歳。先ほどゼノヴィスをしれっと鑑定した時、彼の年齢も見ていた。ゼノヴィスは44歳で10歳も離れていた。


(なんでもいいけど、オルグ様の魔道具の話してくれないかな?)


「この布は魔物の素材で作られているんですね」


「えぇ、外国には魔道具専門店や素材屋ってのがあってね、そこから仕入れてるの」


「そんなお店が…」

(今すぐにでもいって見たい!!)


「もし欲しかったらだけど、この部屋にある魔道具なら一つあげるわよ」


「いいんですか!?」


「えぇ色々見てて。その代わり、そのマントちょっと見せてごらん?」


「えぇ、どうぞ」

(同じ物作れないんだよね!?)


フィオナはニヤニヤとしてルミアを不安にさせた。


「安心して、悔しいけど、複製なんて作りたくても作れないから」


ルミアはフィオナにマントを1着だけ渡して、部屋の魔道具を物色し始めた。まず気になったのはぬいぐるみ。鑑定すると保温機能がある子供用の抱き枕だった。


次々と鑑定しまくってオルグの名前がないか探した。けれど、一つもなかった。大賢者のことはフィオナ本人に聞いてみようと諦めて、また手当たり次第魔道具や薬品を鑑定しまくった。


その一つに気になった青い宝石が付いた四角い箱。中を開けてみると音楽が流れ始めた。子守唄のようなメロディでどこか懐かしさがあった。箱の内側には絵というには鮮明すぎる顔が現れた。


(アディ?の小さい頃の映像?)


幼いアディは膨れっ面で口に泥をつけて怒っていた。その横には黒髪で青い瞳の女の子が笑っていた。3歳か4歳くらいの子供。アディは今よりも幼い。


(黒髪…私も黒髪だけど、これは私じゃない…青い瞳ってことは妹?)


「あぁ、そんなとこにあったんだ。ごめんごめん、これはあげれないよ」


フィオナは慌てた様子でルミアの側まで来た。そしてルミアから箱を取り上げて閉じた。混乱しているのか、目が泳いでいた。


「え、あぁ、もちろんです。これはアディの小さい時の記録ですか?」

(様子がおかしい。どうしたんだろう)


「そうよ、可愛いでしょ?」


「ははは、確かに可愛い。怒った顔は今の方が怖いですね。それより、アディに妹が——」


「しーッ」


フィオナは突然口元に指を当ててルミアの言葉を遮った。そして視線を落とし、眉間に皺を寄せて目を閉じた。深呼吸して、目をゆっくり開けるとルミアに微笑んだ。


「この子はもう、……死んでしまったの」


「…」


「見せるつもりなんてなかったのよ。ちゃんと保管してたつもりだったの……こんなところにあるなんて…ごめんなさいね。アディには黙ってて。あの子…まだ…」


「いえ、大丈夫です。何も見てませんし、何も聞いてません。あの…もしよかったら、魔石をいただけませんか?できれば、5つほど欲しいんです」


「…え、えぇもちろん!5つと言わず、何個でもあげるわ」


「いえ、5つとも同じ魔石をください」


逸れた目と目が、それ以上合うことはなかった。


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