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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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がらくた

『なるほどね、ルミアと繋がって納得したわ。ルミア、私は闇の精霊よ。神ごときが闇に触れられると思ってるの?』


エデンは神を侮辱するように笑う。ルミアはその堂々とした言葉に違和感を覚えた。


ルミアは熱心な女神信仰者ではなかった。この国の民として精霊より女神の方が格上だと共通認識していた程度。エデンの口から女神を蔑んだ発言を聞いて、理解できない恐怖よりも、思っていた以上に自分の知識が追いついていないことへの恐れを抱いた。


「闇の精霊は女神より上?」


『上とか下とかの話じゃないの。私は闇を司る精霊。そもそも陽の光が女神なら、私は影みたいなものなの』


エデンは白く美しい顔に影を落として寂しく笑った。けれど、すぐに顔を上げて明るく微笑んだ。


『でもね、ルミア。火や水、土や風の精霊がいるように、光と闇が共存してるのがこの世界なの。私はこーんな見窄らしい剣なんかに閉じ込められてずーっと浄化もされないから、汚れて魔物になるところだったわ。だからルミアは恩人。あなたのためなら、喜んで力を貸すわ』


「…はぁ…どうも」

(闇の力って何?)


『なによ、喜ぶとこなのに。それより、後ろの人間たちがずっと心配してるわよ』


「あ…」

(忘れてた…)


ルミアは恐る恐る後ろを振り返った。鉛色のような黒い長髪を後ろで束ね、その前髪には銀色のメッシュが入った男性。丸い色眼鏡をかけており、その眼鏡越しにルミアを睨んでいた。釣り上がった鋭い瞳は、眼鏡越しに突き刺すような視線を向けているのがわかった。


その男性の横に座って心配そうにルミアを見つめる焦茶色の髪の女性は、暗い青色の瞳をうるうるとさせていた。二人とも黒を基調とした服を着ていた。男性は異国感のある礼服、女性は男性に合わせた礼服のようなタイトなドレスを着てた。


ルミアは部屋を見渡してアディを探した。カチャリという音が聞こえ、ルミアは執務机の向かいにある一人掛けのソファに目を向けた。大きなソファに背をもたれ、アディが静かにお茶を飲んでいた。アディを見つけたルミアは、とことこと椅子の側に近寄った。彼はため息をついてルミアを見る。


「終わったか?」


「…あ、はい。アディ大丈夫?」


「大丈夫。ポーション飲んだから治癒しなくていいよ」


「うん…ごめんね」


アディは何事もなかったかのように振る舞っていた。ルミアに怯えを含んだ視線を向け続ける父ゼノヴィスに、アディは静かに、そして冷ややかに声をかけた。


「父上、どう報告します?」


ゼノヴィスは息子の言葉にビクッと我に帰ったように目を閉じた。そして、必死に冷静になろうと深呼吸をした。隣に座っていた妻フィオナはそっと夫の手を握った。その手は執務机に隠れて息子たちには見えなかった。


「アディウス。その前に短剣に何をしたのかを知りたい」


「ルミア、簡単でいいから言ってみて」


ルミアの目には、机の上で茶菓子を頬張る黒猫と、ソファに座って優雅に茶菓子を口にする純白ドレスの女性が見え、チラッとそれを睨んだ。彼らは静かに他人事と言ったように茶菓子を楽しんでいた。


(人の気も知らないで…)


そして、ルミアはアディの座っていた一人掛けのソファに無理やり自分も座って小声でアディに耳打ちする。


「言っていいの?」


「いいよ。それに短剣から変な液体が出てきたのは俺にも見えた。父上に下手な嘘は通用しない」


ルミアは唇にギュッと力を入れた。深呼吸して話そうと覚悟を決めた時、アディが手を握った。それを見たアディの母、フィオナは胸にツキンと小さな痛みが走った。


「あの…短剣には闇の精霊が宿っていました。それを浄化して、彼女を解放しました」


ゼノヴィスは眉間に皺を寄せ、机に肘をついて頭を抱えた。ルミアから眼を離さず、じーっと凝視していた。


「闇の精霊?そいつがアディウスを吹き飛ばしたのか?それともお前が?」


「…精霊は解放すると、名前を欲しがるんです。私が考えていた時、アディが邪魔すると思って吹き飛ばしたんです」


ゼノヴィスは椅子の背に体を預け、天井を見た。ギシギシ、と音を立てて椅子が軋む。


そして姿勢を戻して下から睨め付けるように10歳になったばかりの女の子を見つめる。


ルミアはアディが自分に優しかったように、彼の父はきっとルミアに対して優しい人だと勝手に勘違いしていた。


けれど実際は、彼女の前にいるのはこの国の三公爵で、彼女を裁こうとする裁判官だった。


「お前にあの短剣はどう見えた?ジャベリン家の先祖が宝物庫に保管していたのを、俺が引っ張り出してここに飾ってた家宝の短剣だ」


「…」

(家宝!?どうしよう…怒ってる!?勝手に触って勝手に…)


ゼノヴィスの威圧は完全にルミアの心拍を跳ね上げさせた。今まで父や母に凄まれてもなんとも思わなかったルミアは、敵意剥き出しのゼノヴィスの威圧にビビったのだった。ルミアは自分がとんでもないことをしてしまったと、思い返して無意識に何が『正しい答え』かを必死に探していた。


「父上!」


「アディウス、お前は黙ってろ。ルミア、お前が答えろ」


「…短剣」

(どうしたらいいの!?魔剣だった家宝を勝手にただの短剣にしちゃったんだよ!?どうしよう…怖い…あー…)


『ただの短剣よ。魔剣としての価値はもうないわ』


『ルミア!俺がこのおっさん黙らせようか!?』


(黙ってて!!今それどころじゃないんだから!!短剣は家宝ですごいものだったけど…精霊を解放しちゃったから…でもあのまま置いてたら精霊が魔物になっちゃって大変に…)


『ただの短剣よ!!ルミア、言っちゃいなさい!!』


精霊たちはルミアの意にそぐわない言葉を耳に投げかけ続けた。けれど闇の精霊エデンの力はルミアの想像を超えていた。


「ただの…短剣」


「あ゛?なに?」



「あ!?ち、違います!!すごい短剣です!!」


「何が言いたい?はっきり言え」


「は…は…」

(エデン!?あんた今何したの!?)


『意思をつなげただけよ。子供に対して大袈裟に威圧なんかして情けない。あんなガラクタに執着するみっともない男には、はっきり言ってやりなさい。が・ら・く・たって』


誰もいないソファに向かって睨みつけ、奇妙な動きをしたまま答えない少女に対して、ゼノヴィスは苛立ち、机を叩いた。


バン!!


「答えろ!!」


突然、ルミアは頭の中で何かがブチ切れた音がした。それまで必死にふさわしい答えを考え出そうとしていたことが、ふと怒りへと変わった。


どうして自分がこれほど責め立てられなければならないのか、と。


「ガラクタ」


「は?」


「ガラクタって言ったんです」


「なんだと?」


「あの短剣には精霊が閉じ込められていました。穢れを吸い、自ら浄化もできず、あのまま放置していれば学園に現れた魔物のように被害にあっていたかもしれません。ですが!私が浄化して精霊を解放しました。魔剣としての機能はなくなり、ただの短剣になった。普通の短剣と比べれば飾りの派手なガラクタになっただけです。大切な家宝を勝手にガラクタにして申し訳ございませんでした!」


ルミアは息を荒げて立ち上がり、押しつぶされそうだったわずかな信念をぶちまけ、ゼノヴィスに向かって逆にキレた。ルミアは文武不相応な態度をアディの父にしたことを理解していたし、同時に後悔しなかった。


(だって放置なんてできるわけないじゃん!あんなに悪臭を放って穢れてたんだから!!)


ルミアはふん!、と息を吐いてアディの横に無理やり座った。口を膨らませて侍女ユナが怒った時のようにした。横で見ていたアディは握っていたルミアの手に、もう片方の手でポンポンと宥めようと優しく重ねた。そしてルミアの口にお菓子を持っていき、機嫌を取ろうとしていた。


それからゼノヴィスは突然吹き出して大笑いをし始めた。


「ガ、ラクタ…は、ははは…ぶはっ!!そうか、ガラクタ!くははははは!!」


皆、ゼノヴィスが笑いだしたことに全く理解できず、心配になった。


「ち、父上?」「ゼノ?大丈夫?」


(やば、壊れちゃった!?)


「ははは…いや、すまんな。そうか、そうだな。お前の言う通りガラクタだ」


ゼノヴィスは少年に戻ったかのように目に涙を溜めて清々しい顔で笑っていた。それまで抱えてきた何か重たいものが全部払拭されたかのような、救われたような顔で話し始めた。


「アディウス、こりゃお前だけじゃ無理なわけだ、ははは」


「は?父上、頭大丈夫ですか?」

(ルミアがぶっ飛びすぎて頭がおかしくなったのか?)


「正気だバカ。発言に気をつけろ」


すっと真顔に戻ったゼノヴィスは、息子たちに向かって微笑んで予想外の言葉を吐いた。かつて自分が妻をこの国に連れてきた時を思い出して、ジャベリン公爵は自然と不敵にニヤニヤと笑っていた。


「王にバレなきゃいいんだな?」


「はい?」


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