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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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枯れ木の匂い

朝5時、ユナに体を揺さぶられた白目のルミアは、軍服に無理やり着替えさせられ、口に飲み物を入れられて咳き込んだ。


「ぐはっ!!ゲホッゲホッ」


「スフィラ様、ルミア様は昨夜遅くまで起きてらっしゃたんです。きっとまだ眠いんです」


「大丈夫よ。前は本を夜通し読んでたんでしょ」


「それは私が気づいて辞めさせましたし、最近はお疲れで朝起きるのもやっとなんです」


「ルミア!起きなさい!訓練に行くんでしょ?ルミア!」


ユナに起こされ、姉から水責めを喰らっていたルミアは、まだ意識がはっきりしない。それもそのはずで寝たのは明け方の4時前。外が明るくなってきた夏の朝だった。


「…姉様…今日も…美しいですね…」


「何言ってるの!?早く準備して行かないと他の訓練生に見られるでしょ!?殿下も待ってるんだから」


「ふぇ?…でんかぁ?なんでぇ?」


「練習も兼ねて会議するから特別に訓練場を貸し切ってもらうって話したでしょ?あぁ、もう連れて行くわ!」


スフィラはユナが妹の服を着替えさせ終わったのを見て、ルミアを抱き抱えて温室を出た。ルミアは姉の肩に担がれ、運ばれて行く。軍部までの秘密の地下通路への階段を降り、下で待っていたジオルドにルミアをモノのように渡した。


「え?ルミア寝てるのか?」


「えぇ、夜遅くまで魔道具を作ってたらしいわ。兄様力あるんだから持ってって」


「お、おう」


戸惑う素振りを見せるも、ルミアを肩に担いで軍部へと走った。スフィラは前をすごい速度で走る。負けじとジオルドも追いかけた。


軍部についたスフィラたちは人目を避けながら、殿下の待つ特別室内訓練場まで急いだ。夏の朝は特に教官の出勤が早いので、見つからないかドキドキしながら風のように走って向かった。


目的地の扉の前でアディが手を上げて合図したのが見え、スフィラとジオルドはふう、と緊張をほぐした。


「遅かったな。あ、原因はこれか」


「そう。さ、早く入りましょ?」


「あぁ」


そう言ってアディは扉の施錠を解いた。その訓練場は教官が訓練生に使うものではなく、アヴァロフ家の当主が子孫に特別な魔法を伝授するために作られた訓練場だった。今では王族の個人的な訓練場として使われている。結界で施錠されており、特別な鍵がないと中に入れない場所。


訓練場の真ん中に座って待っていたレオナルド。スフィラたちを見て立ち上がった。


「ははは、ルミア寝てるの?」


「すみません、殿下。この子、昨夜徹夜したみたいなんです」


「アディから聞いたよ。魔道具を作ってたんだって?」


「何度も声をかけたんですが、全然起きないんです」


スフィラは頭を抱えて見せ、ルミアの尻を叩いた。


「いたい…」


「起きたんじゃない?」


王子は口を手で押さえながら笑いを堪える。ルミアは眼を覚ますどころか寝息をかき始めた。兄は無様に肩の上で寝こける妹を乱暴に床に置いた。すぐに王子は拾い上げ、大切な姫でも持つように抱えた。


「ルド、扱いひどいよ。ルミアは女の子で、君の妹なんだよ?」


ペシッ


「…つっ」


施錠と防音石を撒き終わったアディが無言でジオルドに向かって石粒をジオルドに投げた。当てられたジオルドは舌打ちしてアディを睨む。


「ちょっと!時間がないんだからルミアは放っておいて始めましょ?」


「うん、そうだね。ルミアは起きそうにないし、始めようか」


王子はスフィラの声に反応して楽しそうに答えた。ルミアは王子に抱き抱えられながら涎を垂らして夢の中だった。


「レオ、これ使って」


「あぁ、ありがと」


アディは何もないところから大きめのソファを出し、ルミアをそこに寝かせるよう促した。


「すごい!そんな大きなものまで?」


「それは…俺もできるのか?」


スフィラもジオルドもアディの収納魔法に驚いた。魔道具は渡されていたが使い方がまだわかっていなかったので、自分たちもできるのかと思うと期待に膨らむ顔をした。


「あぁ、制限はあるけど、馬車の積荷くらいは入れられる。俺のはルミアが試しに作ったやつだからまだどのくらい入るのか試してないんだ」


「いいなぁアディ。僕もルミアに作ってもらおうかな」


レオナルドは口を尖らせ、アディの腕輪に触れる。アディは触れさせないように腕を伸ばして王子の手から遠ざけた。


「レオは許可されたアクセサリー以外つけられないだろ?俺の魔道具だって廃棄させられてたんだから」


「あれはヘラが言ったんだ。じゃなきゃバレずにすんだのにさ」


「とにかく、レオは見るだけ。いいな」


「ちょっとだけ使わせてよ、ねっ!ルド」


レオナルドはジオルドに満面の笑みで近づく。しかし、仏頂面でアディの意見に同意した。


「殿下には危険です。ダメです」


「むー。じゃぁスフィラ!」


ボキッ!


スフィラは必死でレオナルドから顔を背けた。首が心配になる程の音を立てて動かしていたので、レオナルドは引き気味に諦めた。


「それより、アディ、お前殿下への態度改めろよ」


「ルド、お前はいいよな。根が真面目だから…」


「は?」


「俺が何度敬語を試したと思ってる?その度に氷投げつけられるんだぞ?会話もできやしない」


アディはジオルドに眼を見開いて今までの苦労を訴えた。ジオルドは眼を見開かれたアディの顔の圧に負けて黙った。


「ルドはさ、何回言っても敬語だし、何を言っても殿下殿下。スフィラも同じなんだ。僕は君たちと友達だと思ってたんだけどね。王子だしさ…はぁ」


「あ、めんどくさくなるから適当に流そうぜ。魔道具に魔力を流して物を圧縮するイメージで…」


アディは王子を無視してスフィラたちに収納魔法の魔道具の説明を始めた。レオナルドはシュンとしてルミアの眠るソファの横に座った。そしてルミアの腹の上に丸まる黒猫を触ろうとしていた。


ノックスはそれに気づいて避け、王子に金色の瞳で睨みつけた。


「君も僕が嫌いなの?ルミアが僕を嫌いなのかな?」


『お前からは精霊王の枯れ木の匂いがする。嫌いとかそんなんじゃねぇよ』


「口が動いてるから、何か言ってるんだろうけど、僕にはわからないよ」


『お前、金環の目なのに?』


「今日はクッキー持ってないんだ。でも面白い物持ってきたよ」


『なんだよ、面白いものって。食い物か?』


「これ、アディから貰ったチョコレート」


『んにゃ!?』


レオナルドは包み紙を剥がして黒く丸い塊をノックスの口元へ持っていった。ノックスは鼻をヒクヒクとさせながらペロッと舌を出して舐めた。美味しいものだと気づいた途端、金色の瞳をキラキラとさせてパクンと一口に頬張った。


「どう?気に入った?」


『んみゃい!とろけるなぁ〜こんな美味いもん初めて食ったぁ〜』


「はは、気に入ってくれたみたいだね」


黒猫はルミアの腹の上で体をくねくねと揺らして喜びのダンスをしていた。


「ん〜ノックス、くすぐったいよ…」


『ルミア!起きたか?』


「ん〜…すぅ〜…」


ルミアはノックスに寝言を言っただけで目は覚めていなかった。ノックスはルミアの腹の上で何度も飛び跳ね、必死に主を起こそうとした。


『起きろ!起きろ!お、き、ろ!』


「ダメだよノックス、寝かせてあげて」


レオナルドはルミアのお腹に手を当てて、ノックスの攻撃を防いだ。温室以外では触れられないと思っていたノックスは、攻撃を止めようとしなかった。けれど、レオナルドの手に黒猫の足が当たった。


「わお、触れるんだね」


『おぉ!当たった…』


レオナルドと黒猫は互いに見つめ合い、指と肉球を当ててみた。


『え?マナが繋がってないのに触れる?』


「え?聞こえるよ!ノックスの声」


ノックスは咄嗟に後退りして、ルミアの顔まで飛んで逃げた。毛を逆立て王子を睨みつけ、シャーっと威嚇する。


「ごめん、驚いたよね。僕も驚いたんだ。でもすごいね。会話できるなんて…」


『ルミア、起きろよ!こいつマナが流れてる!なぁ!!』


ノックスはルミアの顔に肉球パンチを連打した。その何発かを目に喰らったルミアは声をあげて痛みに飛び起きた。


「痛い痛いッ!!」


目を擦りながらルミアは自分の置かれている状況に頭が追いつかなかった。そのせいで視界に入ったレオナルドを睨みつけた。


「あ…おはよ、ルミア」


「…お、はようございます、る」


『ルミア!こいつ体にマナが流れてるんだ!!』


必死に首に巻きついて叫ぶノックスを落ち着かせようと手を伸ばしたルミア。その手を素早く避けて主の周りをくるくると回り出す黒猫。


(ちょっと、落ち着いてよ!なに!?ここどこ!?)


『この王子、マナが体に流れてるんだ!普通の人間じゃない!』


(は!?知らないよ!王族は精霊王と女神の血を引いてるって噂なんだから)


『精霊王と女神の子孫!?ありえねぇだろ!仮にもし精霊王の子孫だとしても、生まれるのは精霊だ!なのにこいつは人間なんだぞ!?』


(わかんないってば!私が聞きたいよ!ノックスは精霊なんだから私より詳しいでしょ!?)


「あ、あの…ルミア?大丈夫?」


ルミアは顔の前に浮かんだ黒猫に向かって不機嫌に睨みつけたまま眠そうにしていた。レオナルドは彼女がまた精霊と会話しているとわかっていても、ルミアが本当に目を覚ましているようには見えなかった。


『マナってのは精霊の血みたいなもんだ!お前に精霊王が宿ってるのがなんでか知らないけど、こいつにマナが流れてるってことは、こいつは精霊王と関わりがあるってことなんじゃないのか?それに精霊王の枯れ木の匂いがするんだ!こいつは直接精霊王に会ってる!』


(会ってる…?)


「ルミア?大丈夫?アディ、ルミアが目を覚ましたんだけど、声が届いてないみたいなんだ…」


「…」

(精霊王に会うことができて…オルグ様の弟子…オルグ様が不死の魔法使いなのは…精霊と関係してる?)


アディはレオナルドに呼ばれてルミアの側までくると、そのままルミアの頬にビンタした。


ペチッ


「え?なんで?」


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