*タバコの本数*
ゼノヴィス・ジャベリンは頭を抱えていた。最近の息子の様子が明らかにおかしいことに、唯一の味方の妻に泣き言を言っても聞いてくれず、あしらわれるだけだったからだ。息子の怪しい行動は、ヘイレスト家に行く前もおかしい時があった。けれど、その後はもっとおかしい。
時々本当に消息を断つ時がある。黒烏の中でも最強の諜報員であるシバードからの監視を掻い潜り消息を断ち、そして突然何事もなかったかのように屋敷に戻ってくる。妻の報告では、相引きではないことだけはわかっている、とのこと。
ルミア・アヴァロフとは堂々と会っているのはわかっていた。本人も報告しているし、やましいことは何もないとわかっていたセノヴィス。消息不明になるのは数時間で、それを示唆する怪しい前触れはなかった。
「アディウス。お前最近どこに消えてんの?」
「は?」
アディウスの目つきが日に日に鋭くなっているのに対して、父の心の中は怯えていた。口調も前より敬いが消え、なんなら命令してくる時があった。
「はってお前、誰に口聞いてんの?」
「父上ですよ。他に誰がいるんです?」
「…」
(まじか…)
「もう報告は終わりました。行ってもいいですか?」
「待て、他に俺に言うことがあるんじゃないのか?」
「何を言えと?具体的に聞いてくれませんか?消えるとか有り得ませんし、シバがサボってるんじゃないんですか?」
「…それはないだろ。シバの報告ではお前が二人いたと言っていた。まさかルミアの魔法を習得したのか?」
「そんなことできたらもっと喜んでますよ。父上は見るものの角度によって反射を操作するなんて芸当、できますか?俺には無理ですね。それにシバがどこから監視しているかなんて到底わかり得ませんし、ルミアの作った魔道具でさえ母上は同じ物を作れなかったんですよ?あの母上が」
アディウスの母、フィオナは国で最も天才的な魔道具師として有名だった。そして実際は外国で父にその才能を見いだされ、秘密裏にこの国に連れてきた女性だった。
妻を密入国させるために王を騙した父だった。
その父に似たのか、アディウスは平気で嘘をつく。それが嘘かどうか、今では両親でもわからなかった。
「なぁ、アディウス。もっと俺を頼ってくれてもいいんだ。お前が抱え込みすぎて苦しんだ時、助けなかったのはお前の成長のためだった。だが、今は状況が違うだろ?ルミア・アヴァロフはお前だけでどうにかなるようなもんじゃないことは、ヘイレスト家での一件でわかってる」
「何をわかってるんです?エリーを助けたことが奇跡とでも?凄まじい治癒魔法を使えることが奇跡というならヘイレスト家の人間は奇跡を使う一族だと言いたいんですか?」
「違うだろ。お前はその奇跡を治癒魔法で片付けようとしてるのなら無茶だ。部屋を爆発させたほどの威力は、ヘイレストの治癒魔法とはわけが違う。しかもただの部屋じゃない。封魔の部屋だ。それに雷鳴を起こすなんて治癒魔法か?」
アディウスは父をバカにするようにため息をついた。
「父上、それならヘイレスト公爵に詳しく聞いてくださいよ。治癒魔法に詳しいのは彼らですから。俺が目撃したのは緑色の治癒魔法の光りだけなんです。それに治癒魔法を習得するための部屋には通してらえませんでしたから」
「お前…俺を欺くのか?」
「いい加減にしてください。俺はルミアの行動を監視するだけでなく、聞き取りから調査までやってるんですよ?それに加えて今度は突然社交に参加するなんて言い出すんですから。魔道具を作りたいから材料を持ってこいと言われれば持って行く。俺はガキの使いもやってるんですから忙しいんですよ。仕舞いには母上が連れてこいだのなんだのうるさいし、父上は俺を過労で殺す気ですか?」
「フィオナが!?連れてこいって?」
「そうですよ。だから明日ここに連れてきます。公には連れて来れませんから。聴取したいなら自分でしてください。では、もう行きますね」
「いや、ちょっと待て!ここに連れてくるのか?俺は聞いてないぞ!」
「知りませんよ。母上に聞いてください。じゃ」
息子は吐き捨てるように言って執務室を出て行った。ゼノヴィスはすぐに妻へ連絡したが返事はなかった。




