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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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スフィラの匙

ルミアは同じように混乱しながらも、ノックスに真偽を確かめていた。


(ノックス、アディたちの話聞いてた?)


『え?あぁ。聞いてたよ。何が聞きたいの?俺、あんまわかんないよ』


(蒼の森って知ってる?)


『その辺のことは知ってるよ。ずっとエリーの中にいたから』


(じゃぁ、ノックスの他に精霊っている?)


『いるんじゃない?でもみんな元気ない。俺も死にそうだったから仕方なくあの子に入ったんだ』


(死にそう?どうして?)


『息苦しかったんだ。俺たちが生きるには自然のエネルギーが必要なんだ。植物とかから出てくるマナを取り込んで、綺麗な魔力を自然に還元する。それが俺らの理であり存在理由みたいなもんだ』


(息苦しいってことは…そのマナってのがこの国に不足してるってこと?迷宮は?)


『迷宮ができたのは淀んで汚くなったからだろうな。よく沼地にできるんだよ。卵だった時に吸い込まれそうになって必死に逃げた。でもちょうどあの子を見つけたから助かった』


(精霊って卵なんだ…)


『なんだよ、なんか失礼な感じに思ったろ?ルミア気づいてない?俺とルミアはマナで繋がってるんだぞ?』


(マナって何?自然エネルギーって私にもあるの?)


『えぇ!?知らないのか?お前、精霊王から加護もらっといてよくそんな…知らないのか…そうか』


(え、なになに?どういうこと?)


『お前に精霊王が宿ってるんだよ。でも本体はどっか別の場所に縛られてる。そう遠くないところだろうな』


「…縛られて?…宿ってる?」


『声、出てるぞ…』


ルミアの突然の発言にレオナルドは勘付いてアディに話を振った。ゆっくり大きく息を吸って切り替えるような、諦めたような口調だった。


「…アディ、精霊についてルミアからなんか聞いた?」


「…」


「僕の口からは言えないんだ。アディ。頼むよ。君が知ってたなら僕は話せる」


「聞いた。黒猫だろ」


「そう。なら言える。僕にも見えるよ。さっきクッキーあげた」


アディだけならまだしも、ジオルドもスフィラもいる部屋で堂々と自分の秘密を口にしたレオナルドにルミアは身構えた。


『ルミア!こいつ言ったぞ!!どうする?俺、攻撃できるよ!?どうする?』


ルミアは興奮する精霊をギュッと抱きしめなおして蒼紫の眼を半目で見た。


(攻撃しないで)


「殿下、声は聞こえないんですよね?」


「聞こえないね。でもすごい睨まれてる。ルミアの気持ちに反応してるとしたら、僕は悲しい気分になるよ?」


「精霊が見えるんですね。王族はみんな見えるんですか?」


「わからない。精霊に会ったのはこれが初めてだからね。ルミアもそうなの?」


「…初めてです。…防音結界の中に殿下が居られると言うことは、殿下は陛下に…」

(アディは王子に気を許してる…?)


「陛下は理解しないだろうね。僕とアディが考えてることは異端で過激な思想だから」


「なら…」


「だからこそ線引きだよ。この国を守るためにはこれまで通りではダメなんだ。それにこのままだと今以上に国民を失ってしまう。未来がどうなるかなんてわからない。でもルミア。迷宮が増え続け、魔物の対処が出来なくなってしまえば、スフィラが受けた被害よりも、もっと悲惨なことが起きるかもしれない。アヴァロフ家の先祖たちが迷宮の対処でどうなったか君なら知ってるだろう?」


「殿下は…そこまで…」

(本物の王子なんだ…正真正銘…この国を考えて…)


『なぁ、こいつから精霊王の匂いすんぞ?』


「え?」


『精霊王の枯れ木の匂いだ』


(そんなの、女神と精霊王の末裔だからじゃないの?だって女神様譲りの瞳って…)


『ふーん…なんか胡散臭い』


レオナルドからノックスに意識を移したルミア。王子は訝しみ、首を傾げた。


「ルミア?精霊はなんて言ってるの?すごい睨んでるけど…」


レオナルドに向けるノックスの目は、見定めようとの意思が伝わりそうな目つきで、ルミアは咄嗟に肩に力が入った。


「え?…あぁ、この国の王子なのかって聞いてます」


「…そうなの?クッキー食べる?」


『おう、くれ!!』


ノックスは主の気も知らず、レオナルドの差し出したクッキーに飛びついて、ルミアの膝から跳ねて王子の膝に手をかけ、登った。


ジオルドたちはクッキーが勝手に減っていくのを見て不気味に感じた。ルミアはそれを察してクッキーを頬張る黒猫に聞く。


(ねぇ、ノックス。アディたちにも見えるようには出来ないの?)


『んみゃんっんみゃ…できるぞ…んみゃんみゃ』


(できるの!?どうやって!?)


『そりゃ、おまえ…んみゃんみゃ…ルミアがもっとマナを作れるようになれば高位大精霊の俺ならみえるようになる』


黒猫はゲップをしながら毛繕いを始めた。


(だから、どうやって!?)


『んー…迷宮を浄化すればいいんじゃね?そうすればお前が大きくなって、俺に多くのマナを流せるから、俺もでっかくなるんだ。できるだろ?浄化』


(迷宮を浄化?…わからん)


『迷宮は淀みだ。淀みを浄化するだろ。んで、マナに還元するんだ。精霊王の加護で循環できんだから行ってみればいい』


「ルミア?会話してるのわかるんだけど、聞こえないんだ。せめて内容を教えてよ。僕に言えないんだったらアディにでも——」


レオナルドが百面相するルミアを悲しげに説得しようとした。けれど、ルミアはその言葉を遮った。


「迷宮を浄化しろって言われました」


『こいつに言っていいのか?胡散臭いやつだぞ?』


「また睨まれてるけど…」


「言っていいのかって心配してます。でも今言わないと線引きでしたっけ?兄様も姉様も引き込むんですよね。でしたら、責任をとっていただきます」


ルミアは政治に疎い。それは自分自身よくわかっていたことだった。過去に起きた事柄なら文字として読み取っただけで、実際のところ三公爵としての自覚も実感もないただの貴族の娘に過ぎなかった。アディと親しい仲の王子を見たルミアは、それなら彼にもっと踏み込んでみようと考えが変わっていた。


「責任?」


「殿下、どうにかして私を迷宮に入れるようにしてください。三公爵の娘である私が堂々と迷宮に入るには、緊急事態の時か、護衛です。それに昔、アディたちと行ったんですよね?」


「なるほどね。だって、アディ」


「俺に振るなって!」


突然話を振られたアディは両手で顔を隠した。


「だって僕が勝手に動いたら困るのは君だよ?それにルミア一人に行かせられないよ」


アディは王子の言葉に頭を掻きむしり、唸った。


「んあ゛!!なんでいつも俺なんだよ!!ただでさえルミアのせいで動き回ってるってのに!お前まで!!なんでいつも!!」


「ははは。アディがキレた」


レオナルドはアディを笑った。理解が追いつかない外野は黙って見守る。


「レオが無駄にこいつにちょっかい出すからだろ!?」


「違うよ。アディがいつまで経っても動こうとしなかったからだよ。それに僕はちゃんと言ったからね。僕らが学園に通ってる間にやるしかないんだ」


「お前はそれでいいのかよ」


「言ったでしょ?僕にアディが必要なように、ルミアには僕らが必要なんだ」


アディは納得し切れないまま、レオナルドの意を読み取ったようで眼を伏せた。明らかにアディは王子に向かって態度を急変させたことに、アディの横に座っていたジオルドの顔は歪んだ。


「準備が必要だ。レオは説得できんのか?」


「するつもりはない。強行手段しかないよ」


「そんなの…」


「アディ、心配しないでよ。僕はうまくやれる」


アディは自信過剰なレオナルドに翻弄され、両手で頭を抱えた。二人にしかわからない会話を続け、深刻な空気を残したまま沈黙が流れた。


けれど、意外にも沈黙を破ったのはスフィラだった。彼女はお茶に手を伸ばし、一気に飲み干した。そして冷静に話し始めた。


「ルミアを迷宮に連れていきたいのよね。迷宮はアヴァロフ家にとって禁句だったし、簡単には行けないでしょう。アディは馬車で迷宮の話をルミアにしてたから、休暇中にでもこっそり連れて行こうとしてたのね」


スフィラはうーん、と首を傾げて考え込んで言葉を続けた。


「殿下とアディがこれほど仲良しだったなんて驚いたけど、同じ思想を持ってるってことは…つまりこの国の根底から覆そうとしてる殿下と、アディが組んでた。ルミアは最後の鍵ってことね」


「…」

(姉様、なんかすごい…)


「ねぇ、兄様。南の男爵家のパーティーに参加しましょう」


「…は?」


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