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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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ソレとコレ

エリックと共に暗い通路から扉の外に出ると、光が眩しく、目が慣れるまで数秒閉じた。そして驚愕するアディに向かってニコッと微笑みを見せた。


「お待たせ。じゃ、次はエリーに会いに行くんだっけ?」


「え、あぁうん。けど先に服着替えてくるから寄らせて?」


「うん、わかった。ついていけばいいの?」


「いや、ここから俺の部屋が近いし、そんなに時間取らせないからここで待ってて」


「え?…あ、あぁうん。わかった」


「じゃ」


「早くしてね?」


「…あぁ…うん」


ルミアはチラッとアディの様子を伺おうと目を泳がせた。半目で観察してくるアディに居心地の悪さを感じ、彼に向かって聞かれてもいないことを答え始めたルミア。


「アディ、待たせてごめんね。治癒魔法ね、使えるようになったんだよ。それに女神様にあったんだ。そんなに会話はできなくてすぐ消えちゃったんだけどね、あの変な記憶は前の加護者の影響らしいよ。それにここは…」


「ルミア」


「は、はい」


「後で聞くからここで話すな」


「はい」

(こっわ〜…)


それ以上会話はなかった。けれどルミアは睨まれるような、観察されるような視線に黙って堪えてエリックの帰りを必死で祈って待った。




「お待たせ。じゃ、行こう」


しばらくしてすぐにエリックは走って戻ってきた。ルミアがその後ろについて歩こうとしたが、アディが強く手を引っ張って止めた。


「え?なに?」

(怖いから睨まないでください!!)


「俺の後ろ歩け」


「はい」


エリックの案内で着いたエリーの自室は、扉に魔力を遮断する強力な封魔結界の魔法陣が幾重にも重ねられていた。ルミアはすっかり切り替えてその扉の魔法陣を一つずつ丁寧に読んでいた。


「意図的に魔力が貯められた部屋だから、魔法を使うとエリーに影響するから使わないでね」


「わかった。封魔の結界なのに、中で魔法が使えるなんて…すごい。他の禁止事項は?」


「それ以外なら大丈夫。じゃ、開けるね」


エリックは扉をノックして声をかけ、中に入った。その後ろにアディとルミアは入って、想像していた部屋からあまりにもかけ離れた光景に動きを止めた。


部屋には植物が溢れていた。温室のように植物が置いてあった。でも歩くスペースがないほどに植木鉢が紫の水に浸って並んでいた。その紫色の水は水路となって部屋の至る所に流れている。新しい研究施設のような、不思議な空間だった。


「ルミアの魔力水を教えてもらってから水路に流したんだ。それまでは普通の水だったんだけどね。紫になってるのは植物から出てる何かに影響してるんだと思う。どんなことになってるかはわかんないんだけどね。でも室内の魔力量は増えたんだ。魔力回復ポーションの減りが少なくなったからね」


ルミアは近くの水路に流れるその水を鑑定した。


『魔鉱水 : 粒子状の魔鉱石を含んだ水。

       空気中の余った魔力が結晶化して魔鉱石に変化する前の状態   


ex:穢れてもそうでなくても魔力に変わりないのです

                    』


「穢れてる?また意味わかんない」

(またexですか、イライラする)


「ルミア?」


「あぁ、ううん。魔鉱水になってる」


「鉱水?魔鉱石が取れる洞窟にある水のこと?」


「うん。でも識別順位は出てない」


「魔力水を流して変化したのかな?ポーションの薬草に干渉して変化したように…?」


エリックは紫色の魔鉱水を胸元に持っていた試験管に採取した。手慣れた仕草は研究員として当然の行動だった。


「わからない。魔力水を流す前の水って残ってないの?」


「同じ状態の部屋を実験で作ってるよ。後で見せる。それより—」


「わかってる。エリー様はどこ?」


「この奥だよ。高濃度の魔力で隔離してる」


そう言って部屋の植物を避けながら進むと、ガラスの容器に入った少女を見つけた。ベッドの上に被せられたガラス容器に、太い管が何本か繋げられ、その先には調合用のガラス瓶に魔力回復ポーションが繋げられ、液体を気体状にできるような装置あった。


横たわる少女のベッド脇に座って、本を持つアズールがいた。アズールはルミアたちに気づくと立ち上がり、椅子を退けてスペースを開けた。その後ろに見えた弱々しい少女の顔。


淡く薄い霞んだような緑の髪。薄く開かれた瞳は色褪せた、消えそうな濁った青緑。


「…」

(生気がない…魔力を取り込めない…今にも…)


「遅かったね、でもエリーが起きててよかった。エリー、妹のルミアだよ。ほら、はちゃめちゃな俺の妹で、大会で優勝した、黒髪の」


「…あぁ…覚えてる…よ…大きくなったんだね…」


彼女の声は消え入りそうだった。命を削るように、吐き出された声は、ガラス越しでもよく聞こえた。


「10歳になったってのにさ、身長が小さいんだ。エリーの方が大きいな」


「ふふ…」


想像を絶する光景だった。生と死の境界を直視させられたようで、心が締め付けられるような拒絶を覚えたルミア。溢れてしまいそうな涙を堪え、心から微笑んで丁寧にゆっくり挨拶をした。


「初めまして、じゃないんですよね。エリー様、ルミア・アヴァロフです。兄が大変お世話になってます」


「ふふ…お世話になってるのは私よ…ごめんね…ちゃんと挨拶できなくて…」


「エリー様は太陽の光を反射した若葉の色の髪をされてて、綺麗ですね。私なんて真っ黒です。だから暗闇だと隠れやすいんですよ」


「…どうして隠れるの?…かくれんぼ?」


「侍女や兄様たちから隠れて本を読むためです。エリー様はどんな本がお好きですか?」


「…冒険…物語。よくアズに読んで…聞かせてもらってるの…」


「じゃぁ、いつか冒険に行きましょう。アズール兄さんはこう見えて強いですから、護衛に連れて行きましょう」


「ふ…そう…ね…」


ルミアはなぜか、生まれて初めてエリーと一緒にお茶会でもっと会話したいと思った。そして瞳に魔力を強く込め、神眼を使った。


『エリー・ヘイレスト12歳(女) 魔力 ダニエル・ヘイレストの娘 

                      

                状態異常 : 精霊による魔力干渉状態

         ex:精霊が宿って魔力を吸い続けています。

           孵化させないと離れません。

           魔力を流して、同時に浄化して孵化させるしかないです。

           ひどい苦痛を与えることになります。

                                          』


「…はは、また…」

(またですね。女神様、無茶いうなぁ〜…エリクシルは万能薬じゃなかったの!?)


「ん?…あなた…瞳が…」


「…」

 (治せるんだよね?ね?女神様?エリー様は助かるんだよね?肝心なところがいつも抜けてますよ!!)


ルミアは眼を閉じ、深呼吸した。今からやろうとすることでエリーが助かるのかわからないルミアは不安しかなかった。けれど加護を持つ彼女は、女神の言葉通りやってみるしかない。


「覚悟、決めないと……アディ、エリック、アズール兄さん。エリーと二人になりたい」


「わかった、おい、アズール行くぞ」


アディが察してアズールを掴んで外に出ようと引っ張った。けれど、アズールはその手を振り解いた。


「なんでだよ、見てるよ!ルミアがなんかするんだろ?邪魔しないから!」


「俺もだよ。誰にも言わないからそばに居させてよ」


アズールに続き動こうとしないエリック。アディはため息をついた。


「ルミア、無理だ。せめてこれからやることを教えろ」


「…エリーに憑いてる精霊を切り離す。エリーが苦しむと思うけど、このままじゃ…助からないかも」

(このくらい言わないと兄さんは苦しむエリーを守ろうとするかもしれない)


「苦しむ?それでエリーは助かるのか!?」


「…わからない」



「わからない?お前、わからないのになんかするのか?エリーはおもちゃじゃないんだぞ!?」


「うるさい!わかってるよそんなこと!!やったことないんだから!!兄さんは黙ってて!」


「おまっ…」


アズールは妹に手を伸ばした。その手を止めようとエリックが間に入る。


「アズ!!ルミアにやらさせてあげてよ。僕もわからないけど…きっとエリーは助かるから」


ルミアは殴られると思ったので、アズールに向かって戦闘体制の構えを取っていた。


「やるしかないんだから!邪魔するなら出てって」


一部始終を困惑しながら目をキョロキョロとさせていたエリー。ふとルミアと目が合い、エリーは悲しそうに微笑んだ。その表情を見た時、ルミアの迷いは無くなった。


「エリー様、これから魔力を流して体を正常に戻します。苦痛が伴うかもしれません。ですが、絶対なんとかします」

(痛いかも)

(苦しいかも)

(死んでしまうかも)

(助かるかも)

(失敗するかも)


(なら、治癒魔法も同時に使えば…)


「…えぇ、もっと生きたい」


ルミアはベッドを覆ったガラスに手を触れ、エリーを傷つけないように粉砕して砂へ変えた。


露わになるエリーからは病人独特の湿った匂いが部屋に漂った。


エリーの冷たい手を取り、ルミアは祈るように、自分の胸の前で両手と一緒に包んだ。そして魔力をエリーに流し始めた。


すぐにエリーは額から汗を流し始め、苦しみに顔を歪め始めた。けれど彼女は声を上げず、グッと堪えてルミアを見続けた。


浄化の光を右手から出し、左手から濃い緑色の光を放った。周囲に漂った魔力が風を起こし、ルミアへと吸い込まれる。紫色の水路の色は、透明に変化し、植物は枯れ始めた。


目に見えない力が、全てルミアへと吸収され、ルミアからエリーへと流される。


「んあぁ!!」


エリーは体を捩らせ、もがきながら呻いた。アズールはエリーに近づこうと動くがアディに止められた。


「動くな!!」


「エリーが…おい!大丈夫なのか!?エリーが!!」


誰も答えがわからない。ただ苦しみに喘ぐエリーを見守るしかできない。アズールはただ見守るだけの無力さに、体を振るわせるだけだった。


エリックはその光景を心で祈りながら見守った。

アズールの腕を掴むアディは、手に力を込め、必死に止める。

アディの腕に、力任せに捕まるアズール。


凄まじい魔力が嵐を起こしていた。封魔を施していた結界全てが破壊され、部屋の扉が音を立てて開き、周囲の窓は一斉に全て割れた。蒼い雷がバチバチと現れ、エリーは耐え難い痛みに叫んだ。


「キャーーーーーーーーーーー!!!」


ドンッ!!


天井を突き抜ける衝撃と共に太い稲妻がエリーの体に落ちた。その瞬間、漂っていた魔力が一気に消えた。


時間が止まったように、部屋の空気がぴたっと止まった。魔力によって宙を舞っていた粉塵、割れたガラスや千切れたカーテン、その全てが一気に地面に落ちた。


暴れていたエリーは動かなくなり、静かに横たわっていた。


全てが終わったと判断したアズールは、アディの腕を払いのけ、エリーを覗き込む。


「エリー!!エリー!?…おい…エリー……」


すぐにエリーの状態を確かめようとエリックが動いた。エリーの腕を取り、治癒魔法で体の状態を確認しながら脈を測った。


「エリーは?」


アズールは息を切らしながらエリックの服を掴んでひどく動揺していた。


「おい!!」


エリックはアズールを見て微笑んだ。


「…眠ってるよ。脈も正常だし魔力も安定してる」


「…はっ…はぁ…」


アズールはその場に力なくへたり込んだ。エリックもアディも同じように力が抜け落ち、かがみ込んだ。


一方、ルミアは大きな雷が落ちた後から目の前にあるソレが信じられずに固まっていた。


黒々とした丸い塊が、ルミアの目の前に浮いていた。ルミアはソレがエリーの腹から出てきたのを見逃さなかった。警戒して黄金の粒子を全身に纏わせ、睨みつけていた———それは…



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