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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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ルミアの黒

「守ってきたのは聖典だけ?」


「あぁ…血筋も治癒士も…増やしすぎはよくないってことで…一族だけに絞られた…」

(あぁ…寒い…眠くなってきた…俺…死ぬのか?)


彼女は感情のない恐ろしくも美しい顔でこちらを見た。


(もしも女神が現れるとしたら、こんな顔だろうか)


瞳は黒だったはずなのに、緑と金色が混じって見える。


(なんて綺麗なんだ…こんなに美しいものがこの世にあったなんて…)





「治癒と浄化って何が違うの?」


「女神の加護が浄化…治癒は信仰心の恩恵…」

(あぁ…意識が…もっと…見ていたいのに…)


エリックは意識が途絶え、死を迎えたと思った。その顔は何かに満足したように微笑んでいた。


ルミアは彼の拘束を解き、そっと床に置いた。そして治癒魔法で修復した。


「ちょっとやり過ぎた…」


血まみれの白いシャツが千切れて地面に落ちた。それを見てボソっと呟いたルミア。


「寝てる…よね」




***


意識を失ったエリックは、昔の夢を見ていた。


「父さんにそっくりなのって、ちょっとかわいそうね」


「なんで?」

(かわいそう?姉さんだって髪も瞳も似てるじゃん)


「だって、あなたはヘイレストじゃないもん」


「え…だって僕は…母さんの…」


「父様は養子にもしなかったんだから。きっと似てるからじゃない?」


「似てたら…ダメなの?父さんは僕をヘイレストの一族だって言ってたよ?」


「じゃなんで名前がヘイレストじゃないの?似てると問題あるからでしょ?」


「そんなのわかんないよ!!」


「大声出さないでよ!!」


姉は不機嫌になって部屋を出ていった。残されたエリックは、鏡を見て父にそっくりだと言われた顔を見て思った。


(どうでもいい)


—あぁ——懐かしい夢だ——父さんに似てるから——今ならわかる——。


(どうでもいいと思ってたけど、似てて良かったよ)



***


目を覚ましたエリックは、温かい空気に包まれていた。儀式の部屋で横たわった自分の体を認識すると、それまでのことを思い出した。すぐ側に座って熱風を出す少女が目に入ったエリック。

その少女に視線を移す。


「あれ?もう拷問は終わった?」


「ごめんなさい…」


ルミアは服が血まみれでズタズタのボロボロになった彼を見ていると、自分がどれほど凶暴なのかを自覚した。そのうえ、尊敬している大賢者の弟子を語れるような所業じゃない、と反省して罪悪感を感じていた。治癒を施しても目を覚さない彼を必死に魔法で温め、起きるのを待っていた。


「ははは、謝っちゃうんだ?」


「ちょっと混乱してたの…治癒したけど…痛いところある?」


「うーん…ちょっと胸が痛いかな」


「…ごめんなさい」


エリックはゆっくり体を起こし、ふうっと息を吐いた。そして突然胸を押さえて苦しみ出す。


「うっ…!!」


「え!?痛いの!?どこ!?」


ルミアは慌ててエリックが胸を押さえている腕を掴み、治癒魔法を施そうとした。けれど、何がどうなったのか、理解が及ばないほどの速度で自分の体が地面に押し倒された。


「う゛!?」


エリックの解けた焦茶色の長い髪がルミアの頬にあたる。緑がかった青の瞳がゆっくりと近づいた。ルミアは両腕を掴まれ、エリックの大きな体に羽交い締めにされて動けなかった。


「ぶっ飛ばすよ!?」


「…」


エリックは無言で不気味に微笑み、ルミアの顔に、唇に近づける。


「ちょっとッ!やめて!!」


ルミアは魔法で彼を吹き飛ばそうとした。


なのに、それができなかった。


「え!?魔法が…むッ…んー!!」

(嫌!!やーーー!!嫌!!)


エリックは仕返しのように、ルミアの口からキャラメルの欠片を奪おうとした。そして激しく長い攻防はエリックの勝利となった。ルミアは顔を真っ赤にして涙を流した。勝ち誇ったようにこちらを見下すエリックに、少女は恨みと憎しみの限り睨んだ。彼の唇からは血が流れていた。


「噛むなんて、ルミアはほんと暴力的だね」


「死ね!死んでしまえ!!」

(殺しておけばよかった!!)


「そんなこと冗談でも言っちゃダメだよ。でも、ルミアに殺されるのならいいかもね」


彼はそう言ってまたルミアに顔を近づけた。けれど、ルミアは歯を剥き出しに噛みつこうと威嚇した。


「シャーッ!!」

(来るなケダモノ!!)


「……わかったよ。離すから、落ち着いてよ」


「離せ!!」


「わかった。でもルミアのせいだからね?俺に何したか覚えてる?」


「っぐ…」


「俺は仕返ししただけ」


「…」

(だからって…ぐぬぬぬ!!)


ルミアは自分のしたことを思い返し、『したこと』と『されたこと』を必死に比べてみた。眉間に皺を寄せてエリックを睨み続ける。


「ね、ルミア。ゆっくり離すから…力抜いて?」


「…私に何したの?魔法が使えないんだけど?」

(掴まれた腕が気持ち悪い…)


「死んでも教えない。それより、これでお互い様ってことにしよう。手、離すから」


「………わかった」

(いつか自白薬盛ってやる!!)


ルミアは歯を食いしばりながら答え、エリックを睨み続けるも、了承した…ように見せた。魔法が使えるとわかった瞬間、重力魔法でエリックを軽くし、彼の頬に平手打ちをぶちかました。彼の体は吹っ飛び、床を転がってゴツゴツとした洞窟の壁に背中を打ちつけた。


「ぐ…」


「これでおあいこ」


「はぁ…強烈…」


エリックは自分に治癒魔法をかけながら必死によろよろと立ち上がった。ルミアは彼に警戒しながらジンジンと痛む手に治癒魔法を施した。


無言で女神の聖典の部屋から逃げるように通路へ戻り、来た道を戻るルミア。少し離れた位置にエリックがズタズタの状態のまま歩いてきた。ルミアは気配に気づいてクルっと振り返り、無言で睨んで、収納していた棒術用の武器をエリックに向けた。


「ちょ、危ないよ。もう何もしないから……それに見て!」


そう言ってエリックは両手を広げてルミアに自分の容姿を見せつけた。薄暗い光りでもわかるほど、服は激しい戦闘の後のように破れ、血や土で汚れていた。パーティーに合わせた艶のある白いシャツに黒っぽいベスト姿だった彼のシャツは、袖が破られ、ズボンは千切られたように穴が空いて素肌が見えていた。


「…誰にも言わないで」


「は?何?聞こえないよ」


「ここであったことは誰にも言わないでって言ってるの!」


「それは無理があるんじゃない?だって外にはアディが待ってるし、絶対見られるよ?」


「…替えの服はないの!?なんか…何かないの!?」


「えぇ〜…ないよ…それにルミアがしたことだし、俺は仕返ししただけ…」


「…あ!エリックが襲ってきたから、私がぶっ飛ばしたってことにして!」

(そうだ!順番は逆だけどされたことは変わらないんだから!!)


「えぇ!?酷くない!?都合良過ぎ」


「だって、お互い様なんでしょ!?」


「最初にやってきたのはルミアじゃん」


「…むむむ」

(どうしよ…アディになんて言えば…ん?)


ルミアはどうして気づかなかったんだろう、と驚きの表情をして解決法をエリックに話した。


「何も言わない!何もなかったように、なーんにも言わない。よし、これで行こう」



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