素のアディ
取り残されたルミアとアディは、見送ることもなく、静まり返った温室で嵐が去ったことに安堵した。自然と、二人のため息を重なった。
「「はぁ〜!!」」
アディは頭を掻きむしりながら椅子にどかっと座ると、ユナにお茶を求めた。ユナは気配がしなかったので、ルミアはユナにビクッと驚いてしまった。
「お嬢様、私はお二人の会話は聞こえませんでしたが、ちゃんといたんですよ?」
「あー…なんなんだよあの王子は…」
(ルミアの両親は突然陛下から夕食に誘われ、スフィラは買い物帰りに馬車が壊れ、アズールは軍部の教官からの誘い…俺も父上も気づかなかった…どうやって?)
「…疲れた」
(本当に疲れた…)
「ルミア、殿下の眼、見てたけど平気か?」
「大丈夫だった…みたい…」
(殿下の方が怖かった)
「ユナが映像送ってくれたから、急いで王宮に迎えを寄越させたんだ」
「映像?アディ、見てたの?」
「当たり前だ。王族と二人きりなんてさせられるか!」
「はぁ…もうやだよ。いろいろ怖すぎ」
(殿下怖い。それに女神の浄化が見えただなんて謎だけ残して…)
「殿下が俺に言うなって言ったことは気にしなくていいからな。どうせ加護関連のことだってわかってるし、俺も知らない方が助かる」
「あぁ…そうなんだ…そうだね…」
(アディのそう言うとこありがたい)
ルミアはホッと一息ついてユナの紅茶を口にした。
「ところで、ヘイレスト公爵家に行きたいんだって?」
「話が早くて助かるよ、アディ」
「さっきまでダニエル様と話してたからな。それより、お前新しい魔法造ったらしいな?」
「…アディには難しいと思うよ」
(うわ…エリックにしか見せてなかったのに…情報早すぎない?)
「あーあー、俺はルミアが帰る馬車をわざと遅らせて急いで先回りして頑張って来たのになぁ〜」
「…」
(そんなことしてたの!?)
「ありがとうの言葉も労りもないのに、必死に毎日駆けずり回ってるのによー」
「ありがと!」
「ほんとに思ってんの?」
「感謝してるよ、ほんと。いてくれてよかった」
「じゃ、ん!」
「ん?」
アディはルミアに向けて、両手を左右に広げて抱擁を求めた。ルミアに『お前がこっちに来い』とでも言うような態度を見せる。ルミアは渋々立ち上がってアディの腕に収まった。
「ほんとに心配したんだ。またおかしくなるんじゃないかって」
「うん。ありがと」
「…それで…どういう魔法なんだ?詳しく教えろ」
「…」
(なんとも、現金なやつだ)
ルミアがエリックの前で行使した魔法は、空間圧縮魔法。オルグ様考案の空間を歪ませて歪みの中に物を保管する失敗魔法をアレンジしたもの。ルミアは空間にそのまま物を入れるのではなく、入れる物の方を圧縮して保護し、魔法陣を介して自分専用の空間に保管していた。生き物は怖くて入れていない。
ルミアはアディに詳しく説明した。けれど、この収納魔法の6つの魔法陣を覚えられないので、魔道具化できないか、との要望にルミアはどうにか答えようとした。彼のつけていた諜報用の腕輪に、アディの名前入りの空間圧縮魔法陣を掘ってなんとか造った。アディは夕食を食べながらできるのを待っていた。その間ルミアはくたくたに萎れていった。
仕組みを紙に書こうとすると、彼に止められた。情報は残すな、と意味深に言っていたけれど、ルミアは書かなくていいならと、口頭で使い方を伝えた。
アディは実践を何度か繰り返して成功した時、目をキラキラと輝かせて大喜びしていた。
「アディウス様、もう夜遅いです。先ほどジオルド様も帰って来られましたよ」
「あぁ、わかった。ルミア、この魔道具、うちの母上に見せてもいいか?」
「…別にいいよ」
(加護とか関係ないし)
「よし、じゃ、また!」
アディはそう言ってさっさと出て行った。ユナは机の上を片付け始めた。
「いつも思うんだけどさ、アディって用が済むといつもあんなだよね…」
「お、お忙しい方なんですよ」
そうして嵐の夏季休暇が始まった。




