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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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少年の限界

「アディウスくん」


「そうですね」


ダニエルはアディの名前を突然呼んだ。その呼びかけに何かを察したように、アディはルミアの手を強く握って引っ張った。ルミアは突然手を引かれて立ち上がり、彼に引っ張られるまま学園長室を出た。


「…?」

(今度はなんですか…もうクタクタなんだけど…)


アディは無言でルミアの手を引いて学園長室から遠く離れたどこかの教室に入ると、慣れた手つきで扉を施錠した。そしてポケットから黄色い宝石のついた四角い塊を地面にばら撒いた。ルミアはソレを鑑定して視る。


「…防音石?あぁ…(察し)」

(あー尋問が始まるのか…)


「あのさ、ルミア」


アディはルミアに怒っていた。睨みつけ指を一本立てて、ルミアの顔の前に近づける。


「いきなり大勢の前で加護の力か何か知らんが、訳のわからないことをして俺に助けを求めるのは無茶苦茶だ。他の生徒に記憶がなかったからいいものの、後先考えず突っ走る前に一言俺に言ってもよかったんじゃないか?ただでさえヘイレスト公爵に曖昧な情報しか渡してないのにあとでフォローする俺の身にもなってくれ!」


「だって…」

(激怒!?)


「だってもへったくれもあるか!もっと他に解決法とかなかったのか!?殿下に見られたんだぞ!?お前この状況全然わかってないだろ!あれだけ加護のこと王族に言いたくないだの王宮に行きたくないだの言ってたやつが王族の前でド派手にカマしたんだ!さっき殿下が言ってた『浄化』ってのはヘイレスト公爵が知ってた女神の力の一つだ!俺が公爵から聞き出していたからよかったものの、あのまま殿下に問い詰められていたらどうしたんだよ!?」


「あ、あ…だ、だって」

(まって!聞いて!)


「第一、お前言ってることとやってることが滅茶苦茶なんだぞ!?なんのために俺があちこち動き回ってると思ってるんだ!?お前の希望通り加護を隠すためだろうが!それに…」


感情に支配されるがまま言いたい放題のアディ。けれどまた自分が暴走していることに気づいて止まった。


「あ…あ…」

(他に?どうやって…だって…仕方なかったんだもの…あのまま姉様を放って置けなかった…すぐに対処しないと…インプに逃げられるとわかってたから…どうすればよかったの?どうすればアディは…)


ルミアは溢れまくったアディの怒りに対処できずに目からほろりと涙がこぼれた。自分勝手にアディを振り回していたことに後ろめたい気持ちになるばかり。言い返そうにも言葉が浮かばなかった。



「…とにかく、さっきのお前の態度で殿下がお前の加護に気づいた。もう隠せない」


「アディ…聞いて…私、知らなかったの。すぐに倒さなきゃと思ったし、自分でも気づかないうちに動いてて…」


アディは怒りを鎮め、ルミアをその場にあった椅子に座らせた。ルミアを見上げるように屈んで彼女の冷たい両手に手を重ね、温める。


「わかったよ。聞くから話して」


「…あのアリア嬢にはインプって…魔物が取り付いてたの…」


ルミアはゆっくり自分に起きたことを話した。


インプの汚れた魔力の攻撃のせいで学生が操られていたこと。


女神の力で知らなかったことを女神の力で知ったこと。


そして自分でも整理できなかった胸の痛みについても話した。


「殿下の蒼紫の瞳を見てると心臓が痛くなって…私、王宮に行った時思ったの。もう二度と行きたくないって」


「それは自由に動けなくなるからだろ?」


「ううん、違った。心臓が痛くなるたびに知らない人の記憶が頭に浮かぶの。蒼紫の瞳に菫色の髪の人に…心臓を貫かれて殺された時の記憶」

(あの映像を思い出すだけでも苦しくなってきた…)


ルミアは自分の胸を確認するように視線を向けた。思い出して再び体が震え始めた。


「は?え、おいおい、お前の記憶じゃないんだろ?ルミアの体はどうもなってない。落ち着け!」


アディは震える少女を強く抱きしめた。背中をさすりながら優しく声をかけ続ける。


「知らない奴の記憶を見たからってそれはお前じゃない


 お前はルミア・アヴァロフだ。オルグ・メイデンの狂信者で…


 気に入らないと黙る癖がある引きこもりの…変人だ…


 理解できない魔法を作り出すわ、加護使って暴れるわ、面倒で厄介な奴…


 俺が誓ったのはお前だ、そんな訳のわからない記憶はお前のじゃない」


アディはゆっくりルミアの顔を確認して、震えの止まったルミアに少年らしく微笑んだ。


「変人は余計だよ」


「戻ったか?」


「…うん、落ち着いた」

(あれは私じゃない…すぐ思考を持っていかれそうなる…)


「はぁ〜…」

(もう勘弁してくれ…)


アディは、ほっとして椅子にどかっと座った。頭を抱えてしばらく後、整理するように話し始めた。


「お前が無意識に王族や王宮を拒絶するのはその記憶が原因だとしても、今回のことで殿下にバレた。ってことはそのうち王宮に呼ばれるのは確実だな」


「うーん…断れないかな?」

(行きたくない…)


「行きたくありませんって?」


「…無理だね」

(相手は王様だもんね…)


「いっそ行ってみるか?そんで加護のこと話して楽になる」

(俺が…)


「…」

(なんでよ)


ルミアは投げやりになったアディに半目で睨む。けれどアディのことを考えるとこれ以上彼を困らせ続けるのは心苦しくなったルミア。頭を抱え続ける彼を見て、考え直そうとした。


「陛下たちは加護を持っているかどうかを知って、私を王子と結婚させたいんだよね?」

(女神と精霊王の信仰心熱いこの国だからこそ王妃に据えたいってことだよね?)


「…俺はそれだけじゃないと思ってる」


「?…どういうこと?」


「父上たちがどう考えてるのかまだわからないから、今ははっきり言えないけど…ヘイレスト家は女神への信仰もあって加護について三公爵の中で一番知ってる。だからダニエル様と情報交換したんだ。お前には悪いけど、ジャベリンの諜報員を見ぬいたことを伝えた。引き換えに加護の一つに『浄化』ってのがあることを教えてくれた」


「だから学園に来た理由を知ってたの?」


「俺がルミアに協力してることは言ったが、それ以上は言ってない。頭の切れる方だから容易に予想できたんじゃないか?それに公爵の目的は加護について調べたいわけじゃなかった。だからダニエル様だけでも俺らの味方にしようとしてたんだ」


「うーん…王宮は行きたくないけど、オルグ様には会いたいかも」


「は?」


「レオナルド殿下はオルグ・メイデンの9番目の弟子って書いてあったの」


アディは初めて聞く情報を話したルミアを半目で見た。


「それ聞いてないけど?」


「言ってなかった…ごめんなさい」

(忘れてた…)


「あ〜…頭おかしくなりそうだわ」


「ごめん」


アディは頭を掻きむしりジタバタと暴れた。


「とりあえず学園長室戻るか」


「もういいの?」


「まだ隠してることでも?」


「いえ、無いと思います」


「…後出ししたらお仕置きな」


「…無いです」

(たぶん…それに痛いのは嫌…)



学園長室に戻るとスフィラとアズールが居なくなっていた。学園長は書類仕事をしてルミアたちを待っていたようだった。机の上の書類を片付けながら立ち上がった。


「スフィラさんたちは午後の授業は休んで家に帰しましたよ。あれほどのことがあったのですからね。変な噂が落ち着くまではしばらく表に出ないほうがよろしいでしょうから」


「ダニエル様、ありがとうございます」


「アディウスくん、ここでは学園長と呼んでくださいね。紅茶でも飲みながら話しましょうか」


ダニエルは手際良く茶器を用意し、使用人がするようにお茶を用意した。アディが代わります、と言っても優しく断った。


「さて、ルミアちゃん。アディウスくんから聞いたと思うけど、僕はルミアちゃんが女神様の加護を持っていると確信してる。女神様について王族よりも詳しいつもりだよ。それに僕はルミアちゃんの味方だからね」


「学園長はルミアを王族から保護したくて婚約を申し出たんだ」


アディはダニエルの立ち位置をルミアにわかるように説明を付け足した。


「…そうだったんですね…じゃぁ、学園長はインプをご存知ですか?」

(倒したかって聞いてたし…)


「ダニーおじ様って呼んで?」


ダニエルは笑顔で少女にこだわりの圧を与えた。


「え、あ、はい」

(アディには学園長って言ってたのに…)


「インプ、ね。淀んだ魔力に侵された精霊の成れの果てだよ」


「精霊!?…成れの果て…?」

(精霊が魔物に?女神の鑑定にはそんなこと書いてなかった…)


ダニエルはそれ以上は口にしなかった。ルミアになんと聞かれようが、笑顔で質問を交わしていた。


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