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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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29/99

すみれ色

しばらくして戻ってきたダニエルは、ジオルドとレオナルド、それからアディウスとアズールを連れて戻ってきた。学園長自らたくさんの食べ物を台に乗せて運び、机に並べていた。それをみたルミアはぐぅ〜っとお腹から大きな音を鳴らし、スフィラが笑った。


「すっっごいお腹すいた」

(浄化の魔法ってお腹空くんだよ、たぶん)


「大食堂で彼らと合流してね。ルミアちゃん、食べながらでもいいから話を聞いてもいいかな?」


「…」

(えぇ…殿下いるじゃん…)


ルミアはあからさまに無言で嫌がった顔をして、じろりと向かいのアディを睨んだ。睨まれたアディは逸らすことなく睨み返す。唇に力を入れたルミアの表情に、アディは苛立ちを感じたが、今はそれどころではない。


アディは立ち上がり、ルミアへ近づく。


「ルミア、ちょっとこっち来て」


アディはルミアの手を取ろうとしたがスフィラに阻まれた。


「ちょっと、ルミアはお腹すいてるんだから、話があるならここで話せばいいでしょ」


「…」

(姉様ぁ〜…確かに死にそうなほどお腹は空いてるけども…)


「そう、じゃ話そう。ルミアはスフィラの冤罪を晴らしたんだ。アリア嬢も意識を取り戻して今までしたことは全てスフィラを貶めるために自分でやったと自白した」


アディは捲し立てるような早口で、苛立ちを露わにした。この場で彼の発言に驚いたのはジオルドとアズールのみ。レオナルドは無表情でルミアを凝視し、ダニエルは顎に手を当てて深く考え込んでいた。それを聞いていた被害者のスフィラは俯いた。


「じゃぁ、冤罪だったんだ!?ルド兄が言ってたドレスのこともカンニングのことも?」


「あぁ、全てアリア嬢の嘘だった。けどこれにはアリア嬢本人も説明できない力が働いていた。ルドも殿下も、俺も含めてスフィラが起こしたことだと思い込んでた」


(インプのことは女神様?から頭に入れられた情報で知ってる。インプは魔力の相性がいい者、妬みや憎しみといった負の感情を持つ者に入り込み操る…入られた者は記憶があるままインプの思うままに強制的に行動させられる)


「説明できない力かぁ…」


ダニエルは執務机の椅子に座ると、眉間に皺を寄せて険しい表情で考え込んだ。



ルミアは空腹を我慢できず、やけ食いのように食べ物を口に運んでいた。ただ本当にお腹が空きまくっていただけで、手前にある一口サイズの食べ物を口に運んでいただけだった。


けれど、周りにはやけ食いに見えた。アディは貪るルミアを、呆れた顔で見ながら続けた。


「それと不思議なことに他の生徒は覚えていなかった。カンニングについても花束もドレスも階段で起こった断罪も全部はっきりと覚えていなかったんだ」


「俺は覚えてる。スフィラに…ひどいことを言った。ちゃんと確かめることもせず、信じてやれなかった…」


(覚えてるんだ…なんでだろう)


むしゃむしゃと食事をするルミアを見ながら、ジオルドは生気を無くしたようにつぶやいた。


「僕もだよ、ルド。さっきは本当にスフィラがやったとしか思えなかった。スフィラ、本当にすまなかった」


レオナルドは俯き、スフィラに頭を下げた。スフィラはそれに対してどう答えていいものか悩んで、ただ俯くだけで何も言わなかった。アディは言い終えてルミアの隣に座り、ため息をついた。ダニエルは変わらず、ずっと何かを考え込んでいる。


ルミアは空腹が落ち着いて食べるのをやめると、皆の沈黙を破った。


「アズール兄さんは姉様のこと冤罪だって言ってたよね?」


「あ?あぁ、うん、姉さんの性格とかけ離れた行動だと思っただけだよ。それにアディ兄も言ってたろ?なんか違和感があるって」


アズールはまさかルミアから話しかけられるとは思っていなかったようで、びくっとして答えた。


そして突然ダニエルが立ち上がり、学園長の執務机の引き出しをゴソゴソとし始め、ルミアに向かって質問した。


「ルミアちゃん、何か倒した?」


ルミアはダニエルの質問に驚き、咄嗟にアディを睨んだ。


「…」

(助けて!)


代わりに答えたアディ。


「学園長、ルミアが警戒してます」


「!?」

(おい!ちがうでしょ!?)


「え、あぁ…うーん…でも今回のことは…」


そう言ってダニエルはレオナルドをチラリと見て、目頭を摘み深くため息を吐いた。そしてルミアに覚悟を決めた顔を向けた。


「ルミアちゃん、話してくれないかな。ここにいる皆が君の行動を見ていたんだ。殿下、申し訳ないのですが今回の騒動については他言無用でお願いします。陛下にもいずれ報告が行きますし、その間だけでもお願いします」


「はい、わかりました。でも一つだけルミアに聞きたいことがあります」


「…」

(殿下…なんで睨むの…?)


ルミアは向かいの席に座るレオナルドに目を合わせた。そして唇に一段と力を込めた。


「浄化…したの?」


「!?」

(浄化…知ってるんだ…)


ルミアはまっすぐレオナルドの透き通った蒼紫の瞳を見た。鑑定の情報に変化はなく、相変わらず『オルグ・メイデンの九番目の弟子』とあった。レオナルドが『浄化』といった魔法を知っていたことで、ルミアは王族が加護について知っていると確信した。


沈黙の中、蒼紫の瞳に睨まれ続けているルミアは、その瞳を見ていると突然、全身に悪寒が走った。また一瞬、ルミアの視界に菫色の髪がちらついた。ルミアは膝の上の両手が震えだし、心臓が握りつぶされるようにゆっくりと痛くなっていった。


(まただ…菫色の髪…殿下は銀髪…同じなのは…蒼紫)


ルミアの目にはレオナルドの蒼紫色の瞳とは別の人物が重なって写る。そしてルミアの記憶にない『誰かの記憶』が勝手に浮かび、頭に割り込んできた。


『菫色の髪に血飛沫が飛び散り、彼らは『私を』これほどまで憎んでいたのかと知った。』


『あれほど彼らに尽くしてきたというのに…兄上…』


(これは『私』の記憶じゃない。これは…王宮?)


正体不明の記憶と激しい痛みから一刻も早く逃げたいのにレオナルドから瞳離せなかった。


胸の痛みに抗うように震える両手で胸を必死に抑えたルミア。呼吸が乱れ、さっき食べた物を吐きそうになる。


「ちょっと、ルミア?どうしたの!?」


スフィラが隣のルミアの異変に気づき介抱しようと身を寄せた。そしてレオナルドはルミアの異常な怯え様を見て睨むのをやめ、ひどく驚いていた。ルミアは王子の視線から解放されたようで、謎の痛みと苦しみがゆっくりと薄れていった。


「ちょっと、手が冷たいわ!震えてるじゃない!」


「…寒いみたい…です」

(これは私の記憶じゃない)


ルミアの体は氷のように冷たくなっていた。スフィラはおろおろとしながらも必死に魔法でルミアの周りの空気を温めた。レオナルドは自分のせいで真っ青な顔になったと思い、動揺していた。


「ルミア、怖がらせてごめん…本当にごめん」


深呼吸を続けるルミアを守るように、アディが咳払いをしてレオナルドに笑顔で牙を向けた。


「殿下、睨んだりしちゃルミアが怯えますよ。それにさっきのはあなたが簡単に口にしていい言葉じゃありません」


「はは、アディには敵わないね。わかったよ、でもいつか話してね、ルミア。それにこれ以上僕がここにいては話しにくいこともあるだろうから退室するよ。アディ、頼んだよ」


レオナルドは気まずさに耐えきれないようで席を立ち、ジオルドとともに逃げるように退出していった。ジオルドは戸惑いながらも護衛のため離れずに付き従う。この場に残りたくても、王子を王宮まで送るのが彼の仕事なのでしかたない。



(あれは自分の記憶じゃない…違う…知らない人よ…関係ない…私は違うんだから!)


ルミアはどうにかして落ち着こうとして深呼吸を繰り返していた。アズールはレオナルドたちがいなくなったことで気を緩めたのか、目の前の料理を手に取り、食べながら話した。


「今回の事件もあのバルトロ男爵の時みたいなことか?」


「アズール!口に食べ物入れたまま喋らないで」


スフィラが空気を読まない弟を叱りつけるも、聞かないアズール。ルミアの顔を下から覗き込むように質問した。


「…そんな感じ」

(さすがアズール兄さん…)


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