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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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インプ

一通り学生の行動範囲内を回ったが、特に黒いモヤは見当たらなかった。延々と広い学園内を歩き疲れ、お腹が空いてきたルミア。


ゴーン、ゴーン、ゴーン…


「もうお昼だね、この鐘の音はお昼休憩の合図なんだ。みんな一斉に教室から大食堂へ移動するから少し急ごうか」


「え?」


ダニエル学園長はルミアの手を強く握って早歩きを始めた。巨大な演習場を抜けて階段を駆け上り、曲がった先を見た瞬間、ルミアはダニエルの手をグッと引っ張って立ち止まった。


「!?」


「くっ!!黒いです!」

(煙?とは違う…)


ルミアがダニエルに訴えた先では、大勢の学生が集まり、大声をあげて騒ぎになっていた。


横幅の広い階段の上から下まで学生たちがわらわらと集まり、階下の人物を指差して大声を誰かに向けていた。


「俺は見たんです!彼女が、ス、スフィラ様がアリア嬢に魔法を放った瞬間を!!」


「私も見ましたわ殿下!!アリア嬢は上から降りようとしていたところに、下からスフィラ様が魔法で引っ張ったんですわ!!」


「私も見たわ!」


「私もです!!」


階段の下にはぐったりとして座り込んだ、明るい水色の髪の令嬢がいた。レオナルド王子に支えられ、体を王子に預けていた。それを同じ階下にいたスフィラ・アヴァロフが、腕を組んで見下していた。唇を噛み締め、必死に怒りを堪えて黙って立ち尽くしていた。


その大階段の下に繋がる通路に居合わせたルミアとダニエル。大階段の学生たちを覆うように、どす黒い煙にも似たモヤが漂っているのがルミアに見えた。咄嗟に近づいてはいけないと感じてダニエルを止めたのだった。


数歩先では学生が取り囲むように姉スフィラに叫んでいた。その中にレオナルドの護衛として側にいた兄ジオルドもいた。妹であるスフィラに対して、信じられないほど敵意をむき出しにした目で、睨みつけ、追い討ちをかける罵倒を口にしていた。


「お前が認めようが認めまいがここにいる皆が証人だ!お前の愚かな行動でこれ以上周りを傷つけるな!」


「お兄様まで!どうして信じでくれないの!?身に覚えがないことです!!魔法なんて放ってません!」


「黙れ!殿下も見ましたね!?」


「あぁ、残念だがスフィラ。君には失望した。せめて罪を認めて謝罪くらいしたらどうだい?」


「…なんで…どうして?…やってもないことを…」


スフィラは皆に罵倒され、誰にも信じてもらえない状況に耐えられず、目に涙をいっぱい溜めていた。組んだ腕は小刻みに震え、明らかに精神的に限界を迎えていた表情。ルミアは初めて見た姉の怯えきった涙に、胸が痛くなった。


すぐにルミアはその場に漂う黒々としたモヤを、女神の神眼で鑑定した。そして、顔を歪ませた。


『インプの惑わし : インプの攻撃

           攻撃範囲以内の敵の精神を惑わせ、思うままに操れる 

           インプの出す汚れた魔力を吸い込んだ者は聖職者または

           聖水によって清めれば元に戻る

        ex :まさかこんなに早く現れるなんて思っていませんでした。

          少し痛いかも知れないけど我慢してください                                

                                          』



(インプ!?…聖職者?聖水??…痛いけど我慢???)


「ルミアちゃん?黒いってあのモヤがまた見えるのかい!?」


「ちょっと待ってください…それ以上近づいてはダメです!!そこら中に黒いのが…あ゛ツ!?」


(痛ッ!!)


ズガン、と頭に響く痛みがルミアを襲った。鑑定に現れた通りの『少し痛い』どころではなかった。視界が揺らぎ、ルミアはぐらっと後ろに倒れそうなところ、ダニエルが握っていた手に力を込めてとっさに支えた。


「ルミアちゃん!!大丈夫!?」


「…うぐぐッ……」


痛みに堪えていたルミアの頭の中に、人智を超えた力が加わったのがわかった。


知らないのに知っている魔法の使い方を、頭に無理やり入れられた瞬間だった。


そして黄金に輝くキラキラとした粒子が、ルミアの両手から溢れ出るように立ち昇っていった。


「何これ…信じらんない…」


「手がどうかしたの?」


「これ、見えませんか?」

(見えてない?)


「黒いモヤがそこにあるの?」


ダニエルはルミアの体重を後ろから支えながら覗き込んで彼女の様子を見ていた。少女が自分の両手を見てひどく驚いているだけにしか見えなかったダニエル。彼の目には黒いモヤも輝く黄金の粒子も見えていない。


(とにかく今はインプをどうにかしなきゃ。方法はわかってる…変な感じ)


ルミアは両手をグッと握りしめ、ダニエルから離れて自力で立った。


インプという魔物が出した汚れた魔力は、何かが腐ったような異臭がした。


少女はそれ以上吸い込まないように浄化の魔法を出していた手で口元を覆う。


モヤが出ている中心を探し、見つけた途端に『なるほど』となぜかわかった。


自分を守りながら、体を乗っ取っている魔物の本体、アリア・バウウェルの前まで向かう。


ルミアはスタスタと学生たちの間を通り抜け、魔物の前に立つ。ルミアの眼には、周りは浄化の光の粒が舞っていた。


体を乗っ取っていたインプが恐れを抱くように、アリア・バウウェルは怯え始め、ルミアの瞳を見て叫び始めた。


「『な!?ぐ、るな゛ーーー!!ぢがよるな゛!!!』」


アリア・バウウェルの声に重なって野太い男の声がした。顔を醜く歪ませ、王子のお膝元で暴れ散らす。制服のスカートは捲れ、足があらわになるも構わず身を捩って穢れた魔力を一層撒き散らす。


ルミアは右手から浄化の魔法を強く放ち、スッとアリア・バウウェルの額に指先を当てた。抵抗してルミアの手を退けようともがくも、アリア・バウウェルはルミアに触れることができないので体を仰け反って怯えるばかり。


触れた瞬間、アリア・バウウェルから真っ黒な煙が勢いよく爆発的に出て上へと登った。


その黒い煙は、天井の一箇所に集まり、漂っていた黒いモヤをかき集めながら大きくなっていく。


(逃げられる前に打つ…)


ルミアは手から黄金の粒子で作り上げた弓矢を引き、素早くインプの本体をパンと撃ち抜いた。


軽い衝撃音がして、黒かった大階段全体のモヤが晴れた。ルミアの目にはまだ浄化の黄金粒子が天井から下へと埃のように舞い落ちていた。ゆっくりその粒子が落ちるのを見て、下に視線を移すとレオナルドと目が合った。


「…」

(あ…殿下)


「…ル…ミア?」


ルミアは驚いたまま目を見開くレオナルドに、軽く会釈してダニエルに向かって走り、彼に助けを求めるように、学園長の足元にしがみついた。ルミアがインプを倒すまでの1、2分の短い出来事。ダニエルは目を丸くして自分の足元に隠れるようにくっついたルミアに驚くも、何かを察した。


「あ、あぁ、えぇっとルミアちゃん、もしかして何かした?」


ルミアはうんうん、と激しく頷いてダニエルに助けを求めた。ダニエルはすぐに大階段に集まった生徒たちに聞こえるように、大声で呼びかけた。


「君たち、何をしているのです?後ろがつっかえて通行の邪魔になってますよ!?とっくに昼休憩は始まっているのですから、食堂に向かってください!それから怪我人がいるみたいですね、医務室に連れて行きましょう。ジオルドくん、呆けてないで運びなさい」


「え?あ、はい!」


ジオルドは気絶していたアリア嬢を抱きかかえ、レオナルドと共に医務室へと向かった。


階段に集まった生徒は皆それまでの記憶がないようで、口々に疑問を声に出していた。


「あれ、俺なんでこんなとこに?」「昼の鐘聞こえた?」「やば、早くしないと売り切れる」


それまで一丸となってスフィラの罪を叫んでいた生徒も、その場にいた皆が自分の状況をまるで飲み込めていない様子だった。


けれど、その場にいた生徒の中で、全てを覚えていたスフィラ。


「ルミア!!」


ルミアに向かって涙をこぼしながら狂気に満ちた表情で叫んだスフィラ。ものすごい速度でルミア目掛けて走る。


「ね、姉様…」

(なに!?怒られる!?学園長!!)


ルミアがダニエルに視線を送ったが遅かった。スフィラはルミアの小さな体を、力の限り抱きしめあげ、大泣きし始めた。大食堂へ向かう生徒たちは、それを見てみぬふりをしながら通り過ぎる。彼らは何が起きたか覚えていない様子で通り過ぎる。


その上、スフィラたちの前にダニエル学園長がしかめっ面で生徒たちに威嚇していた。


「…あんたがなんかしたんでしょ?」


「…あはは…覚えてるんだ…そか…」

(インプの攻撃対象じゃなかった?穢れた魔力は吸わされてないのかな?)


「もう…私には何が何だか…でもあんたのおかげで…助かったわ…」


スフィラは声を震わせ、泣きながらズビズビと鼻をすする。これ以上美人で魔術最強の姉のイメージが崩れることを危惧してか、ダニエルがそっと声をかけた。


「ここでは人目がありますから、昼食も兼ねて私の部屋に移動しましょう」


そう言って、スフィラの肩に手を添えて学園長室へと向かった。


学園長室は部屋の中央に空間があり、大きな机とソファが複数置いてあった。ダニエルはルミアとスフィラを4人がけの大きなソファに座らせると、食事の手配をすると言って退室した。


スフィラが泣き止むまで、ぬいぐるみ人形のように抱き抱えられたルミア。抱きつかれ、ひっくひっくと泣きじゃくる姉。12歳の姉は同年の生徒の中でも背が高く、逆にルミアは9歳にしては小さかった。


「あの令嬢はなんだったの?…ひっ…みんなおかしくなって…ひっ」


「姉様、深呼吸してください。もう終わりましたから大丈夫です」


「…ひっ…もうあんなこと…ひっ…起こらない?」


「はい、起きません」

(相当こたえたんだな…無理も無ない。インプはイタズラに人を惑わせ、敵を精神的に狂わせる魔物だ。理由はわからないけど、なぜか知ってる…)


「あんだ…なにじだの?(あんた、なにしたの?)」


鼻を咬みながら姉は妹に尋ねる。涙は止まったが、鼻水が流れ始めたようだ。


「…」

(女神様の浄化魔法を使ってインプを退治したんだよ、なんて言えない…)


何も答えない妹に、はぁ、とため息をついて深呼吸するスフィラ。


「なんでもいいわ、でも……ありがとう」


スフィラの美しい微笑みと感謝の言葉を受けて、ルミアは今まで感じたことないゾワゾワとする胸の痛みを感じた。深い感謝を向けられたのが初めてだったルミアは、戸惑いを隠すように微笑み返した。


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