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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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黒いモヤ

天井の高い会場には控え室への階段があり、アズールとアディと一緒に階段を上がった。背の小さいルミアは、2階からその全体をみた。屋敷の一番広い広間の全体が見渡せる。


大人たちが囲む中心には、小太りのおじさんが仰向けで倒れていた。それを二人の治癒師たちが必死に魔法で処置していた。


ルミアはバルトロ男爵の胸元に、黒いモヤモヤとした何かが見えて立ち止まった。


「兄様、あれ、何?」


「何って、バルトロ男爵だよ」


「そうじゃなくて、男爵の胸のところ!」


「…?」


二人は男爵を見るがルミアが何を言ってるのかわからない。


「なんか黒いのがぐるぐるしてるでしょ?」


「…何も…見えないけど…」


アディはよく見ようとして階段の踊り場から身を乗り出しながら言った。


「こんな時に変な冗談言うなよ、不謹慎だぞ。母様が心配してるんだ、ほら」


アズールはルミアの手を取ろうとした。けれど、掴もうとしたルミアの腕はスルッと抜け、階下へと掛ける妹。


「あッ!おい!」


ルミアは一度気になったら突っ走る性格で、野次馬の間を無理矢理押し抜け、男爵の前までへ駆け寄る。


治癒魔法を使う男性と少女が、苦しむ男爵を必死に助けようとしていた。


茶色の髪に緑色の瞳の男性と深緑の髪に青い瞳の少女。魔法を行使しているためか、目が魔力の影響で光っていた。12、3歳くらいの少女がルミアに向かって声を荒げた。


「ちょっと!離れて!」


ルミアは離れろと言われたのに、もっと近づいて見ていた。倒れた男爵は息が苦しいのか、自分の胸の服を掴んで唸っている。


その首元にきらりと光る赤い宝石から黒い不気味なモヤが出ていた。


「シリル!放っておけ、集中しろ!」


もう一人の治癒師の男性は顔に汗が流れ、必死に男爵を助けようとしている。シリルと呼ばれた方は言われた通りルミアから目を逸らし、男爵に全力で治癒魔法を施す。


緊迫感の中、ルミアは男爵の首元の赤い宝石が気になり、触れた。


(これのせいかな…熱い…魔力を感じる…)


ブチッ!!


ルミアは赤い宝石を勢いよく男爵から引きちぎった。そして熱すぎて持っていられない末に庭に向かって放り投げた。野次馬の上を飛んで、庭園の机にぶつかり、黒いモヤは消えた。


「…グハッ!!かはぁぁぁぁ!!」


男爵は目をカッと開いて大きく息を吸った。治癒師の二人は男爵の状態を確認しようとして、ルミアを押し除けた。


男爵は大きく呼吸しながらに体を起こし、二人の治癒師に感謝を述べていた。野次馬貴族たちは観客となり、拍手を送った。


ルミアはというと、押し除けられた時に兄の友人、アディウスに手を引かれて投げた宝石のところまで無言で連れてこられていた。


「ルミアはこれが何か知ってたの?」


アディとルミアは地面に転がった赤い宝石を囲んで見ていた。


「ううん、知らない。けど黒いのが出てた…」


「俺には何も見えなかったよ。けど、調べてみないとだな」


アディはハンカチで宝石をつまみ、触れないように包んだ。


「熱くないの?」


「ん?熱くないけど…熱かったの?」


アディは布越しに宝石の温度を測るように触れた。


「…熱かったから投げたの…たぶん魔法がかかってたんだと思う」


「どうして?」


「…似たようなことが本に書いてあった」


アディはルミアの頭を撫でて、ふっと笑う。


「そっか。ルミアは男爵を助けたんだな」


「…治癒師のおかげだよ」


アディに連れられ、母の元に戻り、ルミアの盛大で混沌な誕生日パーティーはなんとか終わった。そしてその夜、ルミアは両親に呼び出されていた。


「色々あったが、6歳の誕生日が終わった。これは一つの区切りだ。これからはアヴァロフ家に相応しい者として兄弟たちのように戦術を磨いていかなくてはならないよ」


「そうよ、いつまでも本ばかり読んでいてはダメということよ、ルミア」


父は普段より低い声で威厳たっぷりに、母は悲しげに話す。



ルミアはなぜ母が悲しそうな顔をしているのか知っていた。なぜなら図書室にあった本の中にアヴァロフ家の家系図があり、それを読破していたから。


先祖のおおまかな記録の全てが記載された数十冊の家系図には、輝かしい功績や死亡理由、除籍理由や追放理由が書かれた先祖がいた。




「剣術や魔術で12歳までにお父様お母様に認められなければ追放または除籍処分、修道院に送られるんだよね」


「「…」」


両親の表情は曇り、言葉を失った。母はまだ6歳のルミアには酷なこととわかっていたが、公爵家としては当たり前のことだったので、悲しい顔をして娘の未来を憂いていた。だが、ルミアは無表情のまま続けた。


「これから魔術と剣術の訓練はちゃんとやります。だから…禁書庫の本だけは読ませてください!」


「…一日1時間だ」


「3時間!」


「1時間」


「2時間!」


「1時間だけだ!!」


父は決して意見を曲げなかったので、ルミアは膨れっ面で不機嫌に返事したのだった。


「…はい」

(さすが父様。わからずや!)


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