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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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22/94

シアドルト共和国

「ルミアお嬢様?朝食を持ってまいりましょうか。少しでも食べましょう?お腹空いてるのではないですか?」


「…欲しくない」


ユナはルミアを優しく抱きしめたまま、ベッドに座って背中をさする。


「そうですか…料理長のマッシュさんが剣術大会に優勝したお嬢様に食べてほしいと、新作のパンを作ったと言ってましたが…それどころじゃないですもんね〜」


「…いつもと変わらないパンだったよ?」


「お嬢様、一口しか召し上がられてないからわからなかったんだと思いますよ?」


確かに丸っこいパンの端っこをちぎって口に入れただけだったルミア。それを思い出して考えた。


「中に何か入ってたの?」


「さぁ、それは食べて見ないとわかりませんねぇ…持ってきましょうか?」


さすがルミア専属侍女なだけある。ルミアの興味の引き方を熟知していたのだった。


「いい、アディたち、まだそこにいるんだもん。いなくなるまでここに居よう?」


「そうですか?…でもマッシュさん張り切ってましたよ。焼きたてを食べてもらいたいって…ここに持ってくるのだって保温用の魔石を使ってそれはもう最新の注意を払ってですね…」


「わかったよ。食べる!!」


ユナはふふ、と笑ってルミアをそっと離し、アディたちのいるところから食べかけのパンを持って戻ってきた。新しく紅茶を注いでテーブルに運ぶと、ルミアがパンを食べるのを嬉しそうに見守った。


「これ…茶色いの入ってる!食べたことない…」

(塩味?でもちょっと違う…)


『A:カレーパン 複数の薬味が合わさって絶妙なバランスをとり、少し

         ピリッとするのがクセになるカレーをふんわりと仕上

         げたパンの中に入れることで片手で簡単に食べること

         ができる優れた携帯食   

         調理:マッシュ・ノウベル


              ex:私も食べてみたいです          』



「…」

(カレーって…アディがお土産にくれたやつ…食べてみたいってどうやって…)


ルミアはカレーパンを食べて気分も落ちついた。美味しくて一つしかないパンをちびちびと噛み締めながらゆっくりと味わった。


パンが無くなってしまい、ふと天幕の外が静かなのに気づき、ユナに声をかけようとした。けれど、いつの間にかユナがいなくなっていた。


そっと天幕の隙間から外の様子を伺おうと覗き込むと、アディと兄二人がカレーパンを食べていた。ユナは彼らにお茶を注ぎ、給仕をしていた。


ルミアは自分の侍女を取られた上に楽しそうに食事する彼らを見て、胸が痛くなった。アディにひどいことを言われた時と違い、立っていられないほどの胸の痛みを感じて、ベッドに横になった。


「…いたい」

(なんか…つらい…なんでこんなに胸が痛いんだろう…)


ルミアはベッドで一人横たわって自分の胸の痛みの正体と向き合っていた。


(痛すぎ…なんなのこれ?)


なかなか出てこないルミアを心配したアディが天幕の中に入ってきた。ルミアは正体不明の胸の痛みのせいで、自分の世界に入っていつものように周りが見えなくなっていた。


「ルミア?」


「…」

(前にもあった。姉様の大事にしてた蝶々のアクセサリーが落ちてたのを拾って、見てたら母様に怒られたんだっけ…姉様は私が盗んだんだって…)


「ひどいこと言ってごめん」


「…」

(こんなに痛かったっけ?…母様に信じてもらえなかったから胸がギュッて…違う…)


アディはルミアの意識がまたどこか別の場所に集中していることに気づいた。近づいて、戻ってくるのを待とうと、ベッド脇にしゃがんでルミアを見ていた。


「…もっと前」

(もっと前だ…兄様たちが楽しそうに遊んでるときに仲間に入れてもらえなかったんだ…母様も父様も笑って…みんな笑ってた…なんで笑ってるのかわからなかった…)


ルミアの記憶の中にある光景に見たことのない人影が一瞬現れた。


菫色の髪を持つ女性と少女がこちらを憎しみを込めた蒼紫の瞳で睨みつけていた。


(菫色?誰?…心臓が…痛い…)


アディはルミアの顔を覗き込み、彼女の瞳を見つめる。目が合っているようでルミアの目にアディは映っていなかった。


真っ黒な瞳を静かに見守るアディは、ルミアの瞳の中に、金色の輪が光ってるのが見えた。鼻がくっつくほど近づかないと見えないかすかに煌めく金色の輪。


「ルミア?…ごめんな。嫌いにならないでくれよ」


穏やかに謝るアディの声がルミアに届いた。少女は彼を認識すると、消えそうな声を出した。


「胸が痛いの…」


「俺がルミアを傷つけたからだよ…ごめん」


「傷なんてついてないよ…それに…」

(いつもの寂しいとか悲しいとか、そんなんじゃない…)


ルミアは自分の胸をさすった。今の痛みは明らかに違和感があった。本当に傷を負わされたような、胸に何かが刺さったような衝撃とジンジンとする痛み。自分に何も刺さっていないことを確認すると少し痛みは引いていった。



ルミアはなぜこんなにも胸が苦しく痛むのか本当にわからなかった。思い返せば家族に何を言われようがなんとも思わなかった。でもそれは自分を守るため、胸に鈍い痛みを感じる度に何も思わないようにしていただけ。これ以上痛くならないように、そう言うものだと割り切っていた。だからこそ、この痛みが全く違うことがわかった。



「きっと心が痛いんだ。俺もルミアを傷つけて痛くなった」


「…アディも痛いの?どうしたら治る?」

(まだちょっと痛いな…)


「…仲直りしたら治るんじゃないかな。もうルミアにあんなこと言わないし、優しくするからさ…嫌いにならないで」


ルミアは少し考えても、まだよくわかっていなかった。


「仲直りってどうやって?」

(痛みが引くならなんでもいい)


アディは具体的に聞かれてもどうすればいいのか答えに困った。苦しそうにするルミアの顔を見て、頭を絞って導き出した答えは——


「シアドルト共和国…のドワーフ族と獣人族の話し、知ってるか?」


「オルグ様のおかげで和睦を結んだ…?」


「そうだ。和睦ってのは戦争しないってことだろ?本では詳しく書かれてないけど、現地じゃ有名な話が聞けたんだ」


「オルグ様は何をしたの?」


「すごい面白い話だったよ。ルミアもびっくりな話でな…」


アディは絵本を読むかのように、語り始めた。



200年もの間、啀み合い憎しみ合い、殺し合い続けた2つの種族を目の当たりにしたオルグ・メイデン。彼はドワーフ族の集落に行って幼い子供たちを騙して3日後の夜に死ぬ毒を飲ませた。そして大人たちに言った。


『獣人族の子供たちに別の毒を飲ませた。自分たちの子孫を助けたければ獣人族にこの解毒薬を渡せ。お前たちの子供の解毒薬はあっちが持っている』


獣人族にも同じことをして、立ち去った。獣人族とドワーフ族の大人たちはオルグ・メイデンの言葉を信じることができなかった。受け取った解毒薬を我が子に与えてみたり、敵が持つ解毒薬を盗みに行こうとお互いの集落に奇襲をかけたりと2日間必死にもがいたが解決しなかった。けれど、苦しみつづける子供たち。それを見ていたある女性が立ち上がった。


なんのために亡き夫の子を産んだのか、殺すためではない、と獣人族の女性が立ち上がった。


母の命を奪った獣人は許せないが幼い弟を助けるため、ドワーフ族の女性が立ち上がった。


二人は3日目の早朝、誰にも気づかれないように、お互い渡された解毒薬を持ってお互いの集落へと向かった。


集落と集落のちょうど砂漠の真ん中で二人は出会った。二人とも戦う意思はなく、武器も所持していなかった。言葉は交わさず、お互いの解毒薬を交換して帰っていった。


2種族の子供達の命は助かり、獣人族とドワーフ族の長たちは、お互いの解毒薬が破棄されていないことに驚いた。


4日後、またオルグ・メイデンが現れた。それぞれの長たちを砂漠の真ん中に集め、こう言った。


『お前たちの戦いはお互いの子供に毒を与え続けているようなもんだ。成長しても戦って命を失うのなら、今死んでも変わりない。どうして無意味に助けたのか理解できない。なんなら今すぐ殺してやろうか?』


そう言って高らかに悪魔のように笑ったそうだ。


それから遺恨は双方に残るものの、お互い様だったことに気づいた獣人族とドワーフ族の長たち。


オルグ・メイデンはあの女性たちが出会った場所にオアシスを創り、未来ある和睦を望むものはここに住めばいい、と言って去っていった。




「すごい!!そんなことがあったの!?面白い!オルグ様じゃないみたい」


ルミアはいつの間にか胸の痛みなど忘れ、目をキラキラとさせて興奮気味にうっとりと笑っていた。アディはいつかルミアに聴かせてやろうと現地で聞いた話を記録して覚えていたのだ。


「だろ?ドワーフ族の長と獣人族の長はお互いの種族の特技を生かして、今では世界最高の上質な武器が作れるようになったんだ」


「ファルセンでしょ!?オリハルコンで作られた世界最高の魔剣!」


「そうそう、見てきたよ。展示されてた」


「いいなぁ〜…」


ルミアが普段通りに戻ったことで、アディはホッと安堵した。ルミアは大好きな大賢者の話に感激して起き上がり、アディの話に新しい大賢者象を想像していた。


「ルミア、まだ胸痛い?」


「痛くない」

(あ、忘れてた)


「よかった。じゃぁ仲直りのハグしとくか」


「…なんで」


ぎゅっと抱きしめてアディは耳元でルミアの喜ぶ言葉を慎重に選んだ。


「いつかシアドルト共和国に連れてってやるよ」


「ほんと!?」


「もちろん、約束する」


「アディ大好き!!」


人の気持ちなんて複雑に考えても悩むだけ損だとアディは思った。


「うん、もう嫌いなんて言うなよ」

(なんとかなったな…覚えといてよかった)



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