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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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温室とあいつ

行きと同じで母と兄二人とルミアで馬車に乗った。ルミアは隣に座る母に、気持ちを切り替えるようと話しかけた。


「ねぇお母様!温室に住むって話し、いいよね?」


「…はぁ。そうね、まさか本当に優勝するなんて驚いたけど…あんなに強いだなんてね…」


「そうだぞルミア!ルド兄だってあんな技できないよ」


アズールが母に便乗して優勝できなかったジオルドの傷に塩を塗る。


「私だって無理よ。あんな雷撃見たことないわ。それに分身!なんなの?あれは」


「ふふふ。大賢者オルグ様のお導きがあったからこそ新たな魔法が生まれたのです。それより温室!!」


「俺も本読めば強くなれるのかな…」


ジオルドは決勝まで勝ち残ったが、決勝戦のレオナルドに勝てなかった。守護する対象の王子にコテンパンに負けたそうだ。馬車に乗る前、アズールがルミアにこっそり教えてくれた。


「ジオルドは十分強いわよ。レオナルド殿下が特別お強かっただけで、落ち込むことないわ」


母が必死にジオルドを励ますが、彼は窓の外を見たまま黄昏ていた。


「ねぇ!お母様!!お・ん・し・つ!」


「わかったわよ。温室は勝手になさい。でもルミア、ちゃんと食堂で食事しなさいね!今度は温室に籠るつもりでしょうがそうは行きませんから。強いとわかったからにはビシバシ強化特訓しますからそのつもりでいなさい。いいわね?」


「えぇぇ…訓練はしばらくお休みじゃぁ…」


「再開です。それにジオルドとアズールも一緒に特訓なさい。そうすれば歴代最高の魔導騎士になれますわ!」


「スフィラ姉さんは?」


アズールはエアブレイカー。母の機嫌が一気に悪くなり、何も喋らなくなった。







「スフィラは現在、学園での問題行動が発覚したため、学園が始まるまで自宅謹慎中。本人は冤罪を主張していたが部屋に篭りきり。食堂にも顔を出さず自室で食事を摂っている。外部との手紙のやり取りはなく、おとなしくしているようだ」


軍部から屋敷に帰り、夕食を済ませたルミア。今日から温室で暮らすんだと胸を踊らせて温室のベッドでゴロゴロしているといつの間にか『あいつ』が来て聞いてもいない情報を話し始めた。


「なんでいるの?てかどうやって入ったの?」


「俺、顔パスなんだよ」


「…温室の鍵は?」


「合鍵作っといた」


「…怖い」


アディはハンモックでくつろぎ始め、自分の言いたいことを貫く。


「学園にもうちの使いがいるんだけどさ、みんなスフィラがやったと報告してる。不自然なほどに同じ報告内容だった。見るか?報告書」


「ねぇ、普通に話してるけどここ私の部屋になったんだから出てってよ。何時だと思ってるの?」


「23時17分。お前と二人で会話するんなら夜抜け出すしかないだろ。馬鹿か?」


「ばっ…!?」

(口調がひどくなってる!?)


「ほれ、報告書読んでみ?」


アディはペラペラと紙の束をハンモックから片腕だけ動かしルミアに催促した。


「…なんか性格変わりすぎじゃない?」


ルミアは渋々ベッドから起き上がり、アディの手の方へ背伸びをして報告書をもぎ取った。


『    報告書

   場所:王都魔導学園内 2学年 教室

   対象:スフィラ・アヴァロフ

   内容:普段からアリア・バウウェルに対して攻撃的な口調が目立つ。

      同じクラスメイトである彼女の美貌に嫉妬を抱いている模様。

      カンニングをしたとの告発に感情を昂らせアリア・バウウェルに

      対しての暴言を吐いた。皆が目撃し、皆がスフィラ・アヴァロフの

      振る舞いに迷惑している。アリア・バウウェルとレオナルド殿下の

      仲が良いことに嫉妬して、蛮行を繰り返すスフィラ・アヴァロフに

      断罪をするよう皆が生徒会に求めている。

                                     』



『    報告書

   場所:王都魔導学園内 講堂 学期末ダンスパーティーにて

   対象:スフィラ・アヴァロフ

   内容:パーティー中、ジーナ・マクレガンに毒の魔道具を受け取らせた。

      その行為を私も含め皆が目撃。

      アリア・バウウェルが毒の魔道具を見抜き、破壊していた。

      同じクラスメイトである彼女の美貌に嫉妬を抱いている模様。

      また、アリア・バウウェルに対して普段から暴言を吐いて、怨恨の

      末、スフィラ・アヴァロフは彼女を誰もいない教室に呼び出し、

      着ていたドレスを魔法攻撃で破き、燃やした。

      直後のアリア・バウウェルはひどく怯え、レオナルド殿下に

      助けを求めたのは、スフィラ・アヴァロフが三公爵だからと

      用意に考えられる。

      アリア・バウウェルとレオナルド殿下の仲が良いことに嫉妬して、

      蛮行を繰り返すスフィラ・アヴァロフに断罪をするよう皆が

      生徒会に求めている。

                                 

                                      』


ルミアは最初の2枚の報告書をしっかり読んだが、それ以外はペラペラと簡単に目を通した。


「はぁ…なにこの報告書。まるでみんな一緒に書いたみたいに揃ってる」


「だろ?でも本人たちは別々に書いてたし、そもそも学年が違うやつもいる。まるで『魅了』されたみたいじゃないか?」


ルミアはベッドに戻り、仰向けに寝転び、天幕の隙間から見える星を見ながら思考をめぐらせた。


(また遠隔魔法?いや、それはない。魅了を発動したとしても対象者が多すぎるし、魔力が尽きる。私みたいに無限の魔力なんて加護があれば話は別だけど…)


「おい、寝たのか?」


「…」

(催眠魔法だとここまで他者の感情を動かせない。元々の潜在意識に働きかけるのが催眠だし、普段の姉様とはかけ離れた行動。姉様が魅了状態だとあの報告書には納得がいくけど…)


「おーい…ルミア?マジで寝た?」


アディはハンモックから降り、返事のないルミアの側へ。


「…」

(それならどうしてジオルド兄さんと王子に魅了がかかってなかったの?私が見えなかっただけ?アディは?)


「目、空いてる……あーこれあれだな。ユナの言ってたやつだ」


「………現場検証」

(待って…ここで考えても分からないよ。家じゃ変なこと起きてないし、ジオルド兄様だって普段通りだった。学園で起こったことだもの。それにオルグ様は言ってた。『現場検証』)


ルミアの視界が真っ黒に染まった。現実に戻ってきたルミアは、横に寝転んだアディに片手で目を隠されていた。


「何?」


「お、戻ってきた。現場検証って何?」


「…いつここまできたの!?」


「お前の頭がどっかにいった時」


アディの顔が近くなり、大会の倉庫での『余計なこと』を思い出し、ルミアは赤面して急いで顔を隠すように体を反対に向けた。


「え?……どうした?」


「なんでもない…」

(落ち着かなきゃ!!深呼吸!忘れろ!)


ルミアの珍しい反応に楽しくなったアディは、恥ずかしがるルミアにもっと近寄り抱きしめた。


「やめてよ!ぶっ飛ばすよ!?」


「落ち着けよ。お前がもっと小さい頃は俺が抱っこしてたんだ。覚えてるだろ?」


「今はそんなに小さくない!」


「落ち着けって…そんなに嫌?」


アディは力を緩め、反対を向いて縮こまったルミアの顔を覗き込みながら聞いた。


「…今はちょっと…恥ずかしい…」


顔を真っ赤にして可愛く恥ずかしがる幼いルミアを見て、アディはルミアの横にぽすん、と横たわった。そして片腕で赤くなった自分の顔を隠しながらすぐに話を変えた。


「で?現場検証ってなんだ?学園に行きたいのか?」


「…うん。オルグ様は不可解な事象を解決する時は『現場検証』が大事だって、ある村の事件を解決してた時のインタビューに答えてた」


「それ、なんの本なんだよ」


「ライル・ヒューリーの偉大なる魔法使い100選」

(その村では女性だけがある日突然消えて、3日後に突然帰ってきたって話。誰にも解けなかった謎をオルグ様が解明したんだよね)


「…そうか」


やっと気分が落ち着いてきたルミアは、普通に会話できていることに安心した。ルミアは仰向けに姿勢を戻し、また空の星に目をやった。


「学園って行けるかな?できれば姉様の冤罪を晴らしたい」


「冤罪ってなんでわかるんだ?」


アディも落ち着いたようで、頭だけ傾けてルミアを見た。


「姉様が他の人の容姿に嫉妬するなんてありえない。姉様の中で美人は姉様自身なんだから。鏡の前で何時間でもドレス姿の自分にうっとりする人だよ?」


「知ってる。自分が母親に似たことを誰よりも誇りに思ってる」


「ふふふ」「ははっ」


2人は鏡の前でニヤつくスフィラを想像した。そしてルミアとアディは久しぶりに自然に笑い合った。


「それじゃ学園が始まる日にでも見学できるように手配しとく」


「そんなことできるの?」


再びアディは意地悪にニヤッと笑う。


「誰だと思ってんの?俺に任しとけって」


「その顔むかつく」


「はっ」


二人は少しの沈黙があれば、眠るに十分なほど精神的にも肉体的にも疲れていた。


目を閉じた時刻は、日付を超えようとしていた。


アディは13歳でルミアは9歳。二人とも恋だ愛だと言うにはまだまだ幼かった。アディがルミアに対して抱いているのは単純な独占欲であり、誓いのキスには深い意味などなかった。昔ルミアと一緒に読んだ絵本の真似をしたに過ぎなかった。アディは人の感情は機敏に感じ取れるが、自分自身の心の状態には人一倍鈍感だったようだ。


類は友を呼ぶ。彼も欲望に忠実な性格なだけ。


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