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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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剣術大会(下)

次の試合まで、意外と待ち時間は長くなかった。ルミアは呼ばれて位置につく。この試合に勝てば3位以内。けれどルミアが狙うは温室と優勝のみ。すでにレオナルドとジオルドを女神の神眼で見たので、当初の目的は達成していたが、温室で暮らせると思うとやる気が出た。


次の相手は大剣の使い手。10歳だとは思えない身体だった。身長はルミアの倍近く、子供の中でも大きい方。筋肉質な体は引き締まっていて年齢詐称を疑ってしまうほど。黒い短髪に深緑の瞳で目つきは鋭い。


ジェイル・ボートレーン。元貴族で平民のギルド冒険者。魔物相手に実践を重ねた実力は、その辺の貴族の騎士より強い。10歳以下に出場してはいけないのでは、と彼を目の前にしてルミアは思った。


試合開始。


動こうとしないジェイル。ルミアは土魔法で自分そっくりな分身を4体作り、表面を氷で覆って強固に固めた。


「すごい…そんな魔法初めて見たよ」


「…」

(私も試合中初めて話しかけられたよ)


ルミアは分身を操りジェイルに近づいて一斉に棒で叩きつける。ジェイルは片手で大きな大剣を素早く振ってルミアとルミアの分身の攻撃を打ち返し続けた。


一見ただ打ち合いをしているだけに見えるが、彼の大剣は次第に凍り始める。


「こりゃすごい魔力だ…でも、遅い!!」


ジェイルは大剣を大きく回してルミアの攻撃を一斉に払った。そして炎の魔法を地面に放ち、ルミアと自身の周りを燃やした。


(熱い…)


ルミアは炎を消そうと風魔法で作った球を地面に叩きつけた。その隙にジェイルがルミアに大きく大剣を振り下ろす。


バリンッ


ルミアだと思っていた物が割れて粉々の土くれに変わった。


ルミアの分身だと思っていた1体から不意打ちの攻撃を受けるジェイル。背中に叩きつけた棒は重く、ジェイルの巨体は地面に叩きつけられた。


「嘘だろ…」


信じられない衝撃にジェイルは動きが鈍くなった。立ち上がってルミアの本体を探すが、自信がない。残ったルミアの分身は、氷で覆われた人形にしか見えなかったから。


3対のルミアが一斉に飛びかかり、下から上に棒を振り上げた。大剣で防ごうにも力で敵わなかったジェイル。彼の大剣は手から離れ、宙を舞い、離れた位置に突き刺さった。木製でも重さがあると刺さるんだな、とルミアは思った。


「あー降参!無理無理、勝てっこないよ」


「えぇ…」

(もう終わり?今度は剣だけに魔法かけたんけど…)


『勝者ルミア・アヴァロフ』


分身を解いた本体のルミアが氷と土に覆われていたことを知ると、会場はざわざわとしてどよめいていた。ルミアが勝っても歓声も拍手もない会場。勝ってしまって良かったのだろうか、とルミアが不安に思うほど少し居心地が悪くなった。


(みんな驚いてるのかな?オルグ様の分身魔法は氷だけだったけど、土で改良したんだよね。わからないように分身っぽく動いてたんだけど…)



決勝戦では長髪の男の子と戦った。彼はクリストファー・バイセル。男爵家の息子で焦茶色の長髪を後ろで結んだ長身で細身の男の子。巧みな剣術と氷の龍を出してルミアに挑むも、あっけなく棒で吹き飛ばされて終わった。


自分の剣術を避けるルミアを、憎しみを込めた瞳で睨んでいた。それは当たらないことに苛立ち、感情のまま睨んでいたから。素早く均等に剣術を繰り出していたのに、次第にただ振り回し始めた。氷の魔法も避けられ、気付くと地面に倒れていた。


相手の攻撃を的確に避けれるのは、目に宿る加護のおかげだということにルミアはまだ気づいていなかった。それに加え魔力は無限。


ルミアは重力魔法を操って自身の体を軽くしているから速く動けるし、対応できるのだと思い込んでいた。すべては大賢者のおかげだと心酔しきっていた。



そしてルミアは優勝したのだった。


優勝のトロフィーを渡され、拍手を送られたが歓声はなかった。それもそのはずで訓練生たちは訓練通りの戦いに少し手を加えた程度の戦法。見たことのない魔法を使うルミアは、言わば異端児だった。


試合場の真ん中に、ルミアの父ボルトが出てきた。その顔は眉間に皺を寄せ、優勝した娘に見せる表情ではなかった。


「まさか娘がこんな戦いで優勝するとは思わなかった。だが強さには変わりない。納得できん者も多くいるだろう。そこで特別試合を行うことにする」


皆に特別試合を宣言すると、トロフィーをルミアから取り上げる。


「ルミア、お前の力を皆に認めさせるにはこれしかない。もう一戦だけ頑張りなさい」


「え…嘘でしょ…優勝したのに…」

(まだ戦うの!?最後の試合だってちょっと長引かせたのに…)


「対戦相手はメリンダ・ボウマン。剣術魔術共に優秀な過去最年少優勝記録を持つ、12歳の彼女に勝つことができなければ、今回の試合無かったこととして別日に再開催とする」


『うおーーー!!!』


爆発的に歓声が沸き起こった。そしてメリンダが会場に入ってきたことで、更に会場は盛り上がり、メリンダを応援する訓練生たちの声が目立つ。それまで訓練生も教官も、大人しかったのが嘘のよう。


(そんなに私って嫌われるような戦い方だったの?ルール通りだったのに?…それに10歳以下じゃないじゃん!)


すぐに教官たちや父ボルトも離れ、メリンダとルミアの試合が始まった。訓練生の中にはルミアに負けた訓練生の兄弟姉妹がいた。彼らは一丸となってメリンダを応援した。まるで敵をとってくれ、と言わんばかりの声援に、ルミアは苛立ちを覚えた。


「こんなのまるで弱い者いじめみたいで可哀想。でもろくに訓練をしてないあなたに負けた子たちはもっと可哀想だと思いませんか?ルミア様」


彼女は挑発のつもりでルミアに自信に満ちた顔をして見せた。真紅の髪を後ろでキツく結んだせいか、深い紺色の瞳が吊り上がっていた。


「…はぁ。一体何のための訓練よ。アヴァロフ家のご先祖は戦い方よりも、真の強さを求めてこの国を守ることに重きを置いていたのに…戦術はもっと進化すべきよ…馬鹿の一つ覚えみたいに剣を振るうだけなんて…」


ルミアはブツブツと小声で胸のうちをつぶやいた。


「ごめんなさい、ルミア様。お声が小鳥の囀りのようで聞こえませんでしたわ!!」


メリンダは先端が細長い木製のレイピアで高速に突いてきた。攻撃は目で追えない速さで、ルミアは後ろに後退りながらなんとか避ける。


(決勝の相手よりずっと速い…でも魔法使わずに見えてる?…あぁ…これも加護?)


カンッ!!


棒の先でメリンダの剣を強く払った。メリンダは隙を作るまいとして瞬時に竜巻を起こした。ルミアは現れた竜巻に高圧電流を流し、さらに自分の魔力を加えてメリンダの魔法を乗っ取った。


「制御が効かない!?」


ルミアはゆっくりとその大嵐をメリンダへと押しやる。


「こんなの卑怯よ!総合じゃなくて魔術の大会に出るべきだわ!!」


「はぁ」


ルミアは魔法を解いた。何をしてもなじられ、認められないと分かったルミアは、もはやどうでも良くなっていた。


「もうどうでもいいや」


「なに?怖気付いたのですか?」


「絶対勝たないといけない気がするだけ」


ルミアは棒自体に魔力を纏わせ、身体と棒にはそれぞれ重力魔法、地面には氷魔法を使った。


メリンダはまた突きの攻撃に、風と炎を剣に纏わせ速度が加速していた。ルミアはその一手一手を丁寧に棒でいなした。先ほどよりメリンダの剣が見えたのは、彼女の手首を追ったから。


攻防はしばらく続き、メリンダは魔力が尽きかけ、息が上がり後ろに下がった。


ツルン


メリンダの足元は知らぬ間に凍っており、彼女は無様に仰向けで転んだ。ルミアはメリンダの顔に棒を突きつける。


「敗因は戦術じゃない。油断だよ」


「なッ!」


「あなたの剣術も魔術も私に通用しなかった」


「まだ終わってないわ!!」


メリンダは気づかないうちに両手両足を氷で拘束されていた。立ちあがろうにも動けなかった。


『勝者ルミア・アヴァロフ!!』


静まり返った会場に数名の拍手の音が響いた。


それは兄ジオルドとアズール、そしてレオナルドとアディウスだった。彼らの拍手が広がり、皆渋々ではあるが手を叩いた。



そして、ルミアは父からトロフィーを受け取った。


「棒術はどこで習ったんだ?メリンダの剣を捌いていただろう?」


「本能で避けただけです」


「その答えには無理があると思うが…まあいい、驚いた」


「…これも大賢者オルグ様のお導きです」

(今はどんな相手だろうと勝てる気がする。魔力の底がないし、体は全然疲れてない)


「そ、そうか。オルグ様か…ははは…」


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