剣術大会(中)
総合部門の試合形式は勝ち抜き戦。くじ引きの順番でトーナメント戦となる。ルミアの出番は3試合目。茶髪の長髪を頭のてっぺんで丸めた金色の瞳の女の子との試合。
試合は流れるように始まった。1試合目も2試合目も、ルミアは用意された控えの席から見ていた。すぐに3試合目が始まり、ルミアの名が呼ばれる。
木製の武器ならどんな形でも良いルールだったので、ルミアは長い木の棒を用意していた。
相手の女の子はルミアと同じくらいの歳で、木製の双剣。けれど、彼女の体はルミアより大きく成長していた。小さなルミアは一般的な9歳とは違い、小柄だった。
誰もがルミアが負けると思っていた。なぜなら相手はハルビニオン伯爵の娘、サラ・ハルビニオン。アヴァロフの補佐として支えてきた高名で由緒正しい貴族の娘だったからだ。
ついに試合が始まった。
教官もジオルドもアズールも両親も他の訓練生も皆が思った。相手が悪かった、と。
ルミアの母は俯いて無様な負け試合になるだろうと娘を見ようともしなかった。
ビジジジッ
ルミアの持っている棒の先には魔法で作り出した丸い球が付いていた。蒼く光を放ち、触れれば電流が流れるとわかるほどの音と発光。一般的な雷魔法は持続しないし、黄色い。大きい攻撃として、一瞬だけ現れるような、大魔法でしか存在しない。
サラは剣を構え、風の刃をルミアに向けて3発撃ち込み、大きくルミアの正面を避けるように回り込んで近づく。ルミアはそれを左右に軽く避ける。
(速い、でも遅い)
(『グラブ』、ちょっと軽め、すぐ解除)
サラは二振りの刃をルミアに向かって切り込んだ。それをルミアはぴょんと軽やかに宙を跳んで一回転でかわした。宙で翻りながら棒の先でサラの頭にかすめる。
バチッ!!
「ゃッ!!『ウィンドスレイ』!!」
サラは咄嗟に電撃を腕で庇い、風と氷を合わせた魔法技を放つ。片方の剣で風の刃を出し、もう片方で氷の冷気を放つ。
当たれば凍り砕かれる魔法。一瞬でサラの放つ魔法の分析をしながらルミアは大きな水の球をだしてサラに放つ。
サラの放った『ウィンドスレイ』はルミアに当たることなく溶けて、水球がサラにかかった。
「んあ!熱ッ!!」
ルミアが放ったのは、熱湯の『ウォータースプラッシュ』で湯気が一瞬にして会場に広がった。そしてルミアの棒の先にある高電圧の『ライトニング』の蒼い光が一段と明るくなる。
バチッジジジジッ…ドォン!!
湯気が消え、皆が見たのは地面に倒れたサラと、棒を持って立っているルミア。その姿は誰も予想できなかった。
「終わりだよね?」
拍手も歓声もない中、ルミアは審判の教官に目をやると、不思議そうな顔で勝者ルミア・アヴァロフ、と言って手を上げた。勝利の歓声は無く、会場は静寂に包まれていた。訓練生も教官も、きっとまぐれだろう、と見たままを信じなかった。それにルミアが皆に見せた『ライトニング』は、なんの属性の魔法なのかも彼らには理解できなかった。
ルミアは突き刺さるような視線を集め、次の試合まで用意された席で待った。すぐに次の番の訓練生の名が呼ばれ、何事もなく大会は進められた。
10歳以下の出場者は28名。ルミアは次の試合まで大人しく観戦して待った。
しばらく周りからの視線を感じていたルミア。そんな時、突然、治癒が終わったサラ・ハルビニオンが隣に座って声をかけてきた。
「あの、サラ・ハルビニオンと申します。先ほどの試合、見事でした」
「…ルミア・アヴァロフです。ありがとうございます。あなたも…速かったです」
(なんて言えばいいの…)
サラは無邪気な笑顔で金の瞳をキラキラさせてルミアを見つめる。その笑顔はどこか不自然だった。
「ルミア様は本当はお強い方だったんですね!!だって最近は訓練にも参加しないって聞きましたし、家にこもってばかりって噂でしたから!私、感動致しました!!」
「…そう…ですか」
(なんでこうガツガツ来る人多いんだろ…)
ルミアは今まで同性の友人がいなかった。母と茶会に参加しても、本のことばかり気になって、他の令嬢と会話という会話をしたことがない。やれお花が咲き誇っただの水鳥が綺麗だの、ドレスやアクセサリーの話題など興味が無いものには触手は動かない。
周囲から見れば、そんなルミアはサラに対して素っ気ない態度だった。ルミアはもちろん、そんなつもりはまったくない。
「あ、すみません。馴れ馴れしかったですね。ごめんなさい。いつもこうなんです。兄にもよく注意されるのに私ってば感情のままに動いてしまって。ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。すぐ消えます」
「え!?い、いえ、なんとも思ってません。消えないでください」
(めっちゃ喋ってくる…消えるってなに!?)
サラは笑っていたかと思えばひどく落ち込んだりと忙しい。今はルミアの言葉で喜びに満ちた顔に戻った。けれど、その顔は引き攣っている。
「よかったぁ〜怒られると思ってました。そうだ、ルミア様って9歳ですよね!私と同い年なんです!!来年からは私も同じ学園に通うんです。私、友人ができるかなって心配なんです!もしよかったら私と仲良くしてくださいませんか?」
どこで息継ぎをしているのかわからないほどの早口に、圧倒されたルミアは怯えた。
「…は、はぁ」
「もしかして…お嫌ですか?そうですよね…弱い私なんか…剣術の修行ばかりで…友人がいないんです…女じゃ兄たちに力で劣るばかりで…今回の試合で優勝できなかったので…もう剣を握る事はなくなったんですけどね…」
「…もう…戦わないのですか?」
(重い…重すぎる…こっちは王子を視るためだし、優勝に賭けてるのは温室だし…)
「はい…一回戦でルミア様に負けましたから…ルミア様に…」
「?…そ、そうですね…」
(なんで2回言った?)
「だからルミア様、私と友達になるんですよぉ!だって、あんなのひどいです!優勝は無理でも2位は確実だったんですよ!!トーナメントの一回戦にする試合じゃないです!!運が悪すぎます!!ルミア様が強いなんて誰も知りませんよぉ!!」
サラは顔を真っ赤にして泣き始めた。ルミアはサラがなぜ泣いているのかわからず、困惑した。
「おい、サラ!!無礼だぞ!!ルミア様、すみません。こいつ試合に負けて悔しくて…サラ!!帰るぞ!」
サラの手を引っ張って肩に抱き上げた護衛騎士の男性。嫌がり泣き叫ぶサラをひょいと持ち上げ、参加者に用意された席から離れていった。彼は剣術大会の運営をしてる側の腕章を腕につけていた。
「にいさんにはわかんないんだよぉー!!私はもう嫁に行くしかないお荷物なんだぁ〜あ゛あ゛〜…」
その言葉を最後に、本当に荷物のように抱えられて退場した。負けた腹いせに声をかけたつもりだったが、サラの予想以上に、公爵令嬢の反応が薄く相手にされてないとわかって、ルミアに八つ当たりしたのだった。三公爵の娘に対しての態度と言葉ではないと、周囲はヒヤヒヤしてサラの親族を呼んだのだった。
ルミアはなんと言われようが風が吹いたくらいにしか感じない。それどころかルミアは嫌味を言われたことすら分かっていなかった。
(ちょっと魔力強かったかな…次はもっと加減しよ)
やっと次の試合に呼ばれたのは1時間程あとのこと。対戦相手は8歳の男の子。紺色の髪に赤茶色の瞳。辺境伯家の息子、ティムシー・マッカレン。普通の木刀の片手剣。
試合が始まり、ティムはルミアとの距離を一瞬で詰めて飛び込み、腹目掛けて一撃放った。ルミアは素早く棒を前に立てて、ティムの一撃を棒で防いだ。そして掴んでいた棒を軸にして振子のように体を逆さに跳んで翻った。体の重さを利用して、勢いのまま棒をティムの肩目掛けて叩きつける。
ティムは叩きつけられた棒を見事に避け、宙に浮いて無防備なルミア目掛けて氷魔法で氷の矢を無数に放った。叩きつけた棒の反対には炎の玉が6個。
「『ティアレイン』!!」
氷の矢をなんとか避けたルミア。頬をかすめ傷ついたが、同時に6個の炎の玉をくるくると回転させ、赤かった炎が蒼くなり、ルミアは体勢を整え、棒を横に半回転して反対側の蒼い炎の玉をティムに放った。6個だった炎の玉は一つになり、目で追えない速さでティムに当たって爆ぜる。
木刀で防ぐも威力に押され、ティムの体は後ろへと押し出された。
(耐えれるんだ…なら次は…)
ティムはまたルミア目掛けて突進してきた。剣を振り下ろすたびに氷の矢を放つ。ルミアは後ろに下がりながら棒を魔法で回転させて風と炎をティムに放ち続け、氷の矢は溶かした。
ルミアは片手で棒を掴むと、ティムの剣を棒で受け止めて軽く払った。
ズドーン!!
「え…」
魔法の加減を間違えたせいで、ティムは剣を握ったまま試験会場の壁に叩きつけられ、めり込んだ。
ルミアが放った魔法は、重力と炎と風。炎と風で竜巻を起こして氷の矢を防ぎ、重力で相手を軽くしつつ反対の効果を棒に込めて払った。結果、ティムは軽く吹き飛んだ。
ティムは意識を失い、ルミアの勝利となった。治癒師がティムに駆け寄るのを見て、ルミアは流石に心配したが、後で教官がティムの無事を教えてくれたので、ホッとして次の試合を待つことにした。
残った7人の選手のうち、最年少ということもあってルミアは次の試合は不戦通過となった。残りの3人が勝ち上がった後に加えられる。次の試合では何を使おうか、と考えながらルミアは時間を待った。
(やりすぎたな…余裕がなくなって加減が…)
(次はユナが一番驚いてた土と氷がいいかも)




