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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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剣術大会(上)

「なんでルミアがここにいるんだ?」


「そりゃ大会に参加するからだよ」


「…ルミアが?アズール、今からでもお前が代わりに参加した方がいいんじゃないか?」


「何言ってんの、俺11歳だから無理に決まってんじゃん」


「でもこのままじゃルミアが…」


「別に可哀想だとは思わないよ。それに10歳以下の部門だから優勝は無理でも良いとこまで行くんじゃない?知らないけど」


剣術大会に馬車で向かう道中、何やら兄二人が言いたい放題ルミアを貶す。ルミアの隣に座っている母が気まずいのか窓の外を見たまま何も言わない。


いつもは屋敷から地下通路を通って軍部の訓練所へ向かっていたが、今日は母も一緒なので馬車で移動。父は先に向かっていた。


「母様、私が優勝したら母様の温室を自分の部屋として住んでも良い?」


ルミアが優勝なんてできるはずないと思っている家族は、ルミアを見て時間が止まったように動かなくなった。


「そ、そうねぇ、優勝…?」


「そうだよ、優勝したら温室に住むの!」


母は娘の言葉を信じない。


「もちろん優勝できたらなんだってあげるわ。3位以内でも良いわよ?」


母は貼り付けたような笑顔をルミアに向けた。


「母上、無理なものは無理と言ってください。ルミアの実力じゃ3位以内にも入れやしない」


「ジオルド、やる気を削ぐようなことを言わないの!」


「ルミアの為に嘘は良くないです。それに訓練の時のルミアは、教官に呆れられていたんですから」


空気が悪い。そんな時はアズールの出番。


「まぁ、当たって砕けろ、てな。頑張れよ、ルミア」


「うん。優勝するね」

(オルグ様、私頑張る…)


「ははは」


「ふふふ」


ルミアはニコッと淑女の微笑みをして見せた。


(大賢者オルグ・メイデン様の自称弟子、彼の偉大さを見せてやる…)




軍部に着くまで、ジオルドをじっと視たが魅了にかかっていなかった。もっと良く見ないと見えないのかもしれないと思い、睨みつけるように兄を見ていた妹。兄は視線に気づき、怪訝な顔をした。


「なんだ?睨むなよ」


「睨んでないよ…久々にジオルド兄様を近くで見たから、こんな顔だったかなって見てただけ…」


「……」


「早く着かないかなぁ〜」

(こんなに嫌われてたかな…兄様怖っ)



軍部に着いて母と別れてから、参加者の集まる総合部門の会場に兄ジオルドと共に向かった。


頑丈な魔法防御がかかった石で作られた、一番広い訓練場には、総合部門だけで95名。開会式のため一度会場に集まる。

10歳以下、11歳から18歳、19歳以上に分けられた訓練生たちが散らばって集まっていた。訓練生は身分に関係なく平民も含まれる。武を求めるものは厳しい審査はあるものの、訓練生となって認められれば騎士という仕事につけるからだ。


そんな大勢の中で一際目立つ存在があった。この国の第一王太子、レオナルドだ。

ルミアが最後にあったのは彼が10歳の時。今は兄と同じ13歳。3年でここまで成長するのかと思うほど、背は伸びて逞しく、姉スフィラが懸想するのも頷けるほどに立派な美少年になっていた。


もちろん見目麗しくジオルドもアズールもアディも成長していたが、王子は別格に美しいとルミアは思った。周囲の訓練生に囲まれて身動きが取れずにいた。ジオルドが割って入り、訓練生に威嚇して散らした。


(なるほど、これが母様の恋愛小説に出てくるアイドルね)


「ルミア!?君も参加するの?」


「お久しぶりです、レオナルド殿下」


「今日はレオ兄様って呼んで良いんだよ?むしろ呼んでくれない?」


レオナルドはルミアに近づき、兄ジオルドに聞かれないように小声で耳打ちした。距離が近い王子の態度に困惑するルミア。


「殿下、聞こえてますよ?」


ジオルドはルミアとレオナルドの間に壁のように割り込んだ。けれどレオナルドはその壁を難なく避けてルミアと会話する。


「ルミア、僕はすっごく会いたかったんだよ?お見舞いも行きたかったのに…なのにルドは屋敷に遊びに行くのもダメって言うんだよ?」


「…ソウダッタンデスネ」

(なに、この状況…こんな人だったっけ…なんかフレンドリー過ぎない?大会始まる前に疲れそう…)


「殿下、ルミアは病弱なんですよ。今日だってなんで参加してるのか俺は理解できないんですから」


(え?病弱?)


「知ってるよ。だからお見舞いに行こうとしたのにさ。僕だけ仲間外れ…」


「殿下…ふざけないでください。忙しくてそれどころじゃなかったでしょ。それに俺たち兄弟も見舞いには行ってませんよ」


「じゃぁ公式にルミアと面会しないと会えないってこと?」


「殿下…今はやめてください」


ジオルドは情けないほどに困った顔をしていた。ルミアは初めて動揺する兄を見て、思わず笑ってしまった。


「ふふ」

(困ってる…さすが王子様だ)


「笑ってる場合か、ルミア」


「あ、うん、そうだね。兄さま」

(おっと、そうだった。殿下を視るんだった)


ジオルドのブリザード並みの視線で本来の目的を思い出したルミアは、レオナルドをよく視た。


『レオナルド・フラニール・グラン・ド・パール13歳(男) 魔力SS

             グランパール王国第一王子 

            オルグ・メイデンの9番目の弟子      』



ルミアは固まった。大賢者の名前が現れ、その文字が間違いないのか何度も確認する。そしてその文字越しにレオナルドの蒼紫の瞳が重なる。


数十秒間、レオナルドとルミアは互いに見つめ合い、瞬きすらしない。


妹と王子との間の距離は近過ぎず、遠過ぎず何も問題ない。先ほどの会話も過剰に仲が良いわけでもないし、婚約者だと言う噂すら出ないのが現状。だが、ジオルドの目には自分の立ち入れない二人だけの強い繋がりがあるように見えた。


「僕の何を見てるの?」


「殿下…は…」

(オルグ様の弟子!?そんな…どういうこと…)


ルミアは驚きすぎて口を動かすこともできなくなった。そんな固まったルミアにレオナルドは近づき、肩に手を置いた。そして囁いた。


「今度、遊びに行くね」


「…はい…ぜひ」

(絶対聞きたい。オルグ様のこと)


ルミアは無自覚に、恍惚と微笑んでオルグの弟子のレオナルドに深々と礼をした。


周りの訓練生たちがざわついて、講師の席から見ていたルミアの両親は青ざめていた。両親はルミアにレオナルド王子との仲を深めてほしくなかったから。


ジオルドはハッとしてルミアの手を引っ張り、強く抱き寄せた。


ただ、実際は引く力が強過ぎて、勢いよくジオルドの胸にルミアの顔がぶつかっただけ。


「イタッ!!」


「殿下、妹を勘違いさせないでください」


「何をどう勘違いさせたのかわからないな。それにルド、大切な妹を見ろ」


「ん?」


ルミアの鼻から血が出ていた。


「うあッ!すまん、大丈夫か?」


慌てふためく兄。呆れるようにレオナルドはハンカチを差し出す。ルミアが受け取るよりも先にジオルドが受け取ってルミアの鼻をもげそうな力でつまむ。


「ぐぐぅ…痛いです兄さま!!」

(痛いってば!!もげる…)


「あぁ、ルド!痛がってる!」


「血を止めるにはこれくらいが良いんですよ。ほら、ルミア、もう少しの辛抱だ、我慢しろ」


「むぅー…」

(痛い…)


そのまま開会式が始まり、組分けのくじ引きでルミアが呼ばれるまで鼻は解放されなかった。ジオルドの強烈な処置のおかげか鼻血は止まった。けれど、ルミアの鼻はしばらく真っ赤だった。


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