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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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兄アズールの姑息な提案

「俺は姉さんを庇うつもりはないけど、あの人がそんなまどろっこしい事なんてしないと思うんだよ。俺は見てないからわからないけど、水晶の花束に毒なんて面倒だろ?」


「…アズール兄さんはスフィラ姉様を信じてるの?」


アズールは紅茶のカップを揺らしながらルミアを上目遣いで見た。


「俺はさ、アディの一族が黙ってないと思うんだよ」


「…冤罪なら、でしょ?」


「ルミアはどう思う?」


「わからないよ。実際に見たわけじゃないんだし。それになんで私にそんな事聞くの?」


「先輩がルミアだったらわかるかもって言ってた…」


「…」

(なぜ?)


「お前、本読みまくって偉いんだろ?だから王様に認められて追放されないんだって聞いた」


「いや、たまたまだよ」

(両親はそんなふうに言ったんだ…)


「それにこのままだと姉さん追放かもよ?いいのか?」


「なんで私にそんな事言うの?知らないよ…」

(何を期待してるのか知らないけど…その先輩何者なの?)


アズールは腕を組んでムスッとして、感情のままにルミアを睨んだ。


「お前って昔から冷たいよな。母様や姉さんみたいにあんま感情出さないしさ」


「……アズール兄さんはどうしたいの?」

(こんなに会話することなんてなかったのに…何を今更…)


「だから、バルトロ男爵の時みたいにさ、なんかあるんじゃないか?」


「はい?」

(なんで?)


「その訓練所の先輩がさ、魅了魔法じゃないかって思ったんだってよ。だけど魅了魔法ってのはかなり複雑な術で、一人を魅了するのに莫大な魔力が必要なんだってよ」


「…その訓練所の先輩って何者なの?」

(確かに魅了魔法は簡単じゃない。過去に使った例だと凶暴な犯人から人質を無事解放させるためにオルグ様が考案した魔法。犯人に気づかれないように眠らせた間に魔法をかけてた…)



「…仲のいい先輩だよ」


「はぁ…」

(って考えたところでわかるわけない。もし魅了にかかってたとしても誰にもわかんないし……あっ)


「やっぱ無理か。姉さんがいなくなると母様と父様、落ち込むだろうな〜」


「ねぇ、レオナルド殿下に会うにはどうしたらいい?」


「殿下に?なんで?」


「会って直接聞いてみたい」


「えぇ〜…うーん…あ、剣術大会!観客は入れないとなると…ルミア、お前も参加すれば会えるぞ!」


「……」

(兄よ、他にないのか)


ルミアの顔はひどく歪んだ。


「5日後だ。ルド兄と殿下は魔術と剣術の総合部門だから、お前は10歳以下の総合部門に参加だな」


「ちょっと待ってよ!勝手に参加させないでよぉ」


「殿下に会いたいなんてお前が言ったらまずいんだろ。父様はただでさえお前を婚約させたくないって王様に言ったらしいじゃん。母様から聞いたぞ?」


「王様!?婚約って王族と!?」

(ヘイレスト家じゃなかったっけ!?)


ルミアはため息を吐いて肩を落とした。アズールはなぜか楽しそうに紅茶を飲み干すと、ニヤニヤとしながら言った。


「訓練所の先輩に言っといてやるからな!ルミア、5日後の朝7時に訓練所だ!俺は不参加だが手伝いで参加する。いいな?」


「え、ちょ…」

(だったら私も手伝いで…)


アズールは言いたいことだけ言って部屋を出て行った。取り残されたルミアは、座っていたソファに埋もれて項垂れた。


(ジオルド兄様でも先に視ようかな…)


(剣術大会とか…しんどい…)


***



温室の小さなキッチンに椅子を持ち込み、テーブルにメモ用紙を散乱させて思案するルミア。


「お嬢様、どうしてここで勉強なんてするんです?ここはキッチンですよ?」


「ここが落ち着くの。ユナは休んでていいよ」


ルミアは元気なく答えた。


「もう…お嬢様ったら…甘いものでもご用意しましょうか?」


「いらない」


「そうですか…私が邪魔なんですね…わかりました…ユナは気配を消してますね」


「…」

(うーん…最近のユナ、様子がおかしい…まぁ、そうだよね)


5日後の剣術大会に向けてルミアは特訓をしていた。紙に書き出しているのは自分用の魔法の組み合わせ。


大会に出て散々な結果になるのは避けたかった。けれど、それは両親のためでも自分のためにでもない。


(私は自称オルグ様の弟子!)


(試してみたい魔法もあるし、この機会にやってみたい)


(禁書にあった魔法をちょっといじって…)


(砂を摩擦で…)


(これとこれを…)


ルミアは思いつく限りの魔法を組み合わせ、新たな術を創っていた。


流石にキッチンで実践するのは危険なので、温室を出て庭の広いところで実験を始めた。


新しい魔法を使って創意工夫していると、ユナが叫ぶ。


「お、お嬢様!?」


振り返るとユナが地面にぺたんと座って口に手を当てて驚愕していた。


「どうしたの?ユナ」


「ど、どうしたもこうしたもありませんよ!!何ですかその魔法は!?」


「魔術大会に出ることになったからさ。訓練だよ」


「そんなの人に使ったら死んでしまいます!!」


ビジジッ


ルミアは空中に大きな水の球を出していた。その中に蒼い電流と鋭く尖った氷の矢が渦を巻いている。


「いやいや、流石にこれは使い勝手が悪いよ。ただの実験だがら」


ルミアは顔を傾けて微笑んだ。しかし、ユナは視線をルミアの足に向けた途端、怯え始め、手まで震えていた。


「ルミアさま…お身体が…浮いてます…」


「浮いてるんじゃないよ。反発してるんだよ」


ルミアは大賢者オルグのしようとしていた魔法を完成させて歓喜に満ちていた。恍惚と笑うその姿は、ユナにとってトラウマを植え付けるほど不気味だった。


「ねぇユナ、今日見たこと、剣術大会が終わるまでジャベリン家には黙っててくれる?」


ルミアはユナの近くへ降り立ち侍女の目をまっすぐ見つめる。そしてよく視た。一度目に観察した時には現れなかったユナの情報。


女神の神眼と自覚した後、意識して目に魔力を込めると今まで見えなかった情報が現れるようになった。そして再び彼女を観察したとき、ルミアは納得して黙っていた。





『ユナ・ウェイン28歳(女) 魔力C ルミア・アヴァロフの侍女 

             ジャベリン家直轄諜報機関黒鴉(こくう)所属 公爵家諜報員 』



「お嬢様は…見抜いてらっしゃったのですね…」


ユナは怯えながらも無理に笑う。悲しんでいるような喜んでいるような不思議な顔をした。監視対象に正体が暴かれれば、諜報員として失格となり、解雇が言い渡されるのだった。


「私は誰にも言わないし、ユナにはずっと私の侍女でいてほしい。だから二人だけの秘密にしよ?」


「アディウス様にはすぐバレますよ」


「確かに、しつこいもんね」


ユナはふぅっと息を吐いて寂しそうに話した。


「えぇ、そうですね…それまでもうしばらくはお嬢様の侍女でいさせてください。できることなら辞めたくありません」


「私がユナを守るよ!だから立って!お茶にしようよ、ね!」


ルミアは微笑んでユナに手を差し伸べた。ユナはその手をとったが、立てなかった。


「腰が抜けたんです…お嬢様があんな恐ろしい魔法を使うからユナは怖かったんですからね!」


「ぷはっ!!」


「笑い事ではありませんよ!?もう!」


ルミアは可笑しくなってお腹を抱えて大笑い。何年振りにこんなに笑っただろうか、と思いユナを見ると、彼女も笑っていた。



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