姉・スフィラ
ルミアはアディから逃げて隠れるように温室のキッチンにいた。もしアディが来てもユナが入り口の前で止めてくれるようにお願いした。
そして手に持った3種類の薬草をよく視ていた。『傷薬』の調合を自力で作ろうとしていたのだ。
魔力水を作るのに何度か苦戦した。石に魔力を込めれることから、水に魔力を留めるには氷にして魔力を込めてみることにした。コップに入れた氷に魔力を込め、熱で溶かす。視ると、魔力水が完成していた。
『S:魔力水 魔力を含む水』
(できちゃった…)
その魔力水に風魔法で細かく切った薬草を入れる。本で読んだ知識を活かして調合の魔法陣を展開して調合した。
『S S:エリクシル 高濃度の魔力によって変化したポーション 傷や状態異常を治す
ex:万能薬だから国宝級です。 使う時は気をつけてください
ちなみに Sは一番すごいって意味ですからね 』
「えー…」
(変化?…またexってところ…女神様?精霊王様?どっかから見てる?)
ルミアは怖くなって作ったエリクシルを飲み干した。
ゴクゴクッ
(証拠隠滅!!)
「…変化なし」
(元々元気だし…)
ルミアは薬を新たに調合できたとしても、隠す場所がない。ユナに見つけられても不都合なので、切り上げで自室に戻ることにした。
自室に戻ると、テーブルにリボンのついた瓶が置かれていた。後ろから入ってきたユナがルミアに話す。
「アディウス様がルミア様にお土産だそうですよ」
『カレー粉 複数の薬味が使われているカレーの素 ノルム草 リリスの花 テンテの種 コリの葉 チリ草 リジョスの根……』
すぐに瓶を手に取り、良く視たルミア。薬味の名前がズラーっと表示された。
「これは…何?」
(カレー?たくさんの薬草?花や根まで粉末にして入ってる…薬?)
「アディウス様、悲しそうに帰られましたよ?部屋に置いとくように言われまして置かせていただきました。それと料理長に渡して調理してもらうといい、とレシピも一緒に渡されました」
「アディ、キッチンまで来たの?」
「お嬢様。差し出がましいとは思いますが、仲直りしてくださいね?」
「…ユナ、聞いてたの?」
「離れた場所にいましたから会話は聞いてませんが、アディウス様のお顔を見れば何かあったと誰でもわかります。お土産もルミア様に直接渡せばいいのに私に渡してきたんですから…」
ユナは部屋の明かりをつけながらルミアの洗濯し終わった普段着を箪笥にしまう。
「喧嘩したわけじゃないよ…アディがしつこかったから…」
「そうだったんですね。ではまた次に会った時はお土産のお返しをしましょう。アディウス様のお好きな物でも…」
言いかけて口ごもったユナ。外出禁止のルミアは買い物に出かけられない。家に商人を呼ぶとなるとアディを通すことになる。
「買えない…それにアディの好きな物知らない」
「…そう…です…か…」
ユナはうーん、と考えてパッと閃いた顔をした。
「作るんですよ!パンを作った時みたいに、何か手作りのものを!!刺繍なんてどうですか?」
「えー…刺繍とか無理…」
(ポーション作りなら…いや、そんな物渡したらまた質問攻めに…)
ルミアはソファにごろりと横になった。すぐさまユナからお叱りを受ける。
「はしたないですよ!ちゃんと座ってください」
「ふぁい」
お土産のカレー粉瓶を見ていると、18時の鐘が鳴った。夕食の時間になったので食堂へと向かった。
今夜の夕食は珍しく家族全員揃っていた。冬季休暇で、皆が揃うのは久しぶりだった。両親は嬉しそうに家族の会話を始めようとして、父は食べる手を止めて軽く咳払いした。
「ジオルド、学園が始まる前に剣術大会に出るんだろう?」
「はい、父上。レオナルド殿下も一緒に出場しますよ」
ジオルドは無表情に報告する。父との仲は悪いわけでもないがなぜか空気が悪い。
「おお、そうか…」
「次の大会は総合部門なのでしょう?すごいじゃない!殿下もジオルドもすごいわ」
母はにこやかに微笑んでジオルドを褒めるが、褒められた息子は頷くだけで食事を続ける。
「そういえばスフィラは魔法で首席を取ってたわね!!すごいことだわ!」
「おぉ!そうだったな!今度欲しいものがあったら遠慮なく言いなさい」
今度はスフィラに両親の矛先が向かった。
「え?いいの?じゃぁ以前お母様と見に行った王都の仕立て屋さんで欲しいものがあるの!」
「姉さんまたドレス燃やしたの?」
アズールが会話に薪をくべる。
「違うわ。新しいデザインで欲しかったの。お茶会で話題になってたのよ」
母はふふ、と笑っていると、ジオルドが食べるのをやめてスフィラを睨む。
「スフィラ、レオナルド殿下の友人に嫌がらせしたそうだな。もう少し自重すべきだ」
「はぁ?お兄様が何を言ってるのかわからないわ。殿下にちゃんとした挨拶もできない子のことをおっしゃっているのでしたら、私は嫌がらせなんてしてません」
「お前は殿下の婚約者気取りか?殿下はお優しいし何も言わないから俺が代わりに言ってるんだ。アリア嬢はお前にドレスを破かれ燃やされたと聞いたぞ!」
「やっぱドレス燃やしたんだ?」
アズール本人に悪意ない。けれど、ジオルドとスフィラの口論は継続された。
「違うって言ってるでしょ!!兄さんはどうしてあの子の肩を持つの!?私は何もしてないわ!!あの子の自作自演よ!!」
スフィラはものすごい剣幕で机を叩いて立ち上がった。感情が抑えられないのか魔力が溢れ出て近くの食器が割れる。
「二人とも落ち着きなさい!!」
父の言葉はジオルドとスフィラに届かない。
「自作自演だと!?じゃぁ目撃者が嘘を言ってるとでも言うのか!?28人が証言したんだぞ!!」
「そんなの知らないわよ!!私に魔法で勝てないから卑怯な手を使ってクラス全員囲ったのかもしれないでしょ!!」
「そんなことができればとっくに国家は転覆してるさ!お前の言うことが正しいと言うなら証明してみろ!!学園が始まれば生徒会が動くからな!!これ以上三公爵に恥を…」
「だ・ま・り・な・さい!!!!!」
母エミリスが大声と共に食卓の上に紅い炎の龍を放った。その場にいた全員が驚いて固まった。
「ジオルド、もっとスフィラの言い分を聞いてあげなさい。スフィラも感情的になるのは辞めなさいと言ってるでしょ。後で話すとして、今は食事を続けなさい」
「…」
皆静かに食事をした。アヴァロフ家の母は最強だと再認識した使用人たちだった。
談話室で食後にお茶を飲むのが我が家の日課。今日はアズールとルミアだけ。ルミアはジオルドとスフィラの話していた事柄について何も知らない。知らないと言うより、知りたくない。
「ルミア、姉さんの事、知らないだろうから教えてやるよ」
「知りたくないよ」
「訓練所の先輩から聞いたんだけどさ…」
アズールは嫌がるルミアにスフィラの身に起こっている事を詳細に話した。
スフィラは現在12歳。兄と同じ魔導学園に通い今年の春に2学年になる。人一倍魔力が高く、魔力操作に長けていて成績は常に主席。他の科目も上位5位以内を収め、美しさも持つ彼女のことを周囲はレオナルド殿下の婚約者に一番ふさわしいのでは、と噂されていた。
そんな中、去年、スフィラはアリア・バウウェル子爵令嬢の行動をはしたないと注意したことあった。レオナルドに必要以上に近づき、体に触れたり腕を掴んだりと、礼儀のなっていない態度をする令嬢だったからだ。
ちょうどルミアが倒れた12月頃、冬季休暇前、学年末の試験があった。スフィラはもちろん素晴らしい成績を収めた。けれど、同じクラスのアリア・バウウェル子爵令嬢が突然、スフィラが試験中にカンニングしていたと皆の前で発言した。
スフィラは言いがかりだと言って取り合わなかったが、他にも見たと証言する生徒が次々と現れた。
その場は教師がスフィラに再試験をさせると言って収まったが、クラス全員がスフィラを疑い、噂は瞬く間に学園中に広がった。
試験が終わり、冬季休暇前日に開催される学園のダンスパーティーの時のこと。
来年卒業するジーナ・マクレガン伯爵令嬢と仲が良かったスフィラは、魔法で作った水晶の花束をプレゼントした。
嬉しそうに笑って受け取っていたところ、アリア・バウウェル子爵令嬢がその花束を横取り、地面に叩きつけ大きな声で叫んだ。
「ジーナ様!!大丈夫ですか!?花に毒が仕込まれてます!!」
身に覚えのない毒が割れた水晶の花束の中から検出された。
すぐにスフィラは否定したが、アリア嬢の言葉を周囲にいた皆が信じた。
「この毒は後から霧状に出るように仕込んだのでしょう」
アリア嬢の取り巻きが付け加え、スフィラを断罪しようとした。
幸いジーナ・マクレガン伯爵令嬢は無傷だったので、三公爵であるスフィラとは事を荒げたくないと言って事件は終わった。
けれどスフィラの知らないところでアリア嬢のドレスが破かれ燃やされたそうだ。アリアはひどい格好でパーティー会場のレオナルドに泣きつき、側にいたジオルドが知ることとなった。




