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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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温室、歪み

ルミアは温室に入り浸り始めた冬の終わり頃。


目を細めて集中して観察する時、無意識に魔力を使っていることがわかった。


それに気づいたのは偶然、鏡に映った自分を観察した時だった。


魔力で目が僅かに白く光っていた。


それと同時に自分を視た。





『ルミア・アヴァロフ 9歳(女)魔力∞ 精霊王の加護と女神の加護を持つ人間の娘 

                    精霊の息吹で無限の魔力を使用できる 

                    女神の神眼でみる物全てを鑑定することができる 


Ex:やっと自分を見てくれましたね。あなたに会える時を待ち望んでいます。まずは迷宮にいるシーカーを見つけてください』


(精霊王!?女神!?手紙!?)


「え…」

(どういうこと!?)


温室の家具が置かれた一角に、大きな姿見が置かれていた。その前で立ち止まり、眉間に皺を寄せて自分の姿を凝視しているルミア。


ルミアの異変に気づいてユナが声をかける。


「どうかされましたか?」


「あー…」

(まずは迷宮って、次があるの?…もう一回見たら変わる?)


「お嬢様?鏡がどうかされたんですか?」


「うーん…」

(変わらない…精霊王と女神様の加護なんてものをなんで私に?この文字は誰から?)


「…ルミア様は今日も美しいですよ?」


「なんで…」

(なんで私なんかに?王族でもないのに…あの魔法陣のせい?)


「お嬢様?もしかしてまたユナの声が聞こえないほどに集中されてるのですね?」


「…」

(それじゃぁ魔法陣の落書きは精霊王か女神様が??消えたんじゃくて消された…?)




「ギャッ!!」


ルミアはいきなりユナにギュッと強く抱きしめられ思わず声が出た。


「お嬢様、無視されるとユナは寂しいですからね」


「え!?ご、ごめんなさい。考え事してたの…気がつかなかった…」


ユナはしばらく離してくれなかった。少し混乱気味になっていたルミアは、ユナを抱きしめ返した。


集中すると周りの声が聞こえなくなるのは、それほど夢中になっていたからで、もちろんユナにイジワルがしたいわけではない。


抱きしめ返したのは、女神と精霊王のせいで、未知に対する不安を感じていたから。


(絶対知られたら普通に過ごせない…説明するのも難しいし…)


ルミアは、はぁ、と声に出してため息を吐く。そして、ユナに体の重みを全て預けた。


「お、お嬢様!?」


「ちょっと疲れたからハンモックに乗せて〜」


「体調が悪いんですか?お部屋に戻りましょうか!?」


「元気だから…ちょっと眠いだけ…」


ユナはひょいっとルミアを抱き上げ、天井からぶら下がったハンモックにルミアを乗せた。


「何かあったらなんでも言ってくださいよ?眠ったらちゃんと起きてくださいね!?」


「うん。もう大丈夫だから」

(かなり心配させちゃったんだな…)


ユナの過剰な心配をする姿をみて、数日前のことを思い出した。初めて見た両親とユナの泣き顔が忘れられなかった。あの父が泣くなんてと思った。ルミアはあの衝撃を一生忘れられなかった。


ルミアは心配かけたくないと思いながらも、自分の欲望に忠実に行動する。自分でも悪いところだとわかっていた。けれど、彼女は9歳の少女。わかっていても、本当にはわかってない。


誰かに相談すれば、必ずジャベリン家の力で王に報告され、知られる。

両親に言えば喜ぶかも知れないが、きっと王宮に行く羽目になり、自由はなくなる。

ルミアの今の興味は『迷宮』に行くこと。行けなくなるのは避けたい。


だからルミアはオルグ様の残した言葉を思い返す。


『何事もやってみることだ』



ルミアはハンモックに体を揺らされながら、心を落ち着かせた。


(精霊王の息吹…女神様の神眼…迷宮…シーカー…さっぱり)






春が近づいて雨が降っていた。日付は3月になったばかりの昼下がり。


「今度は温室にこもってるの?」


植物を観察していたルミアの後ろから、突然声がした。驚いて振り返った彼女の後ろには、少し見ない間に変わった知人。


そこには約3年ぶりに見るジオルドの友人、アディウス・ジャベリンがいた。以前より身長が伸び、肌は小麦色に焼けていた。伸びた暗い鉛色の銀髪を後ろで結びんでいた。


そしてアディの怒った顔を見て、何度か声をかけられていたとわかった。


「アディ!?びっくりした!!」


「声かけても無視なんて、すごい集中力だな。で、何見てたんだ?」


「…クラハズミの葉っぱだよ」

(魔力を流すと葉の裏から甘い蜜が出るのを見てた…とは言えない…)


「ふーん…今度は植物か。クラハズミって、確か実から甘い蜜が取れるんだったっけ?」


「そうなの?実から?」

(実はまだなってないからわからないな)


「あぁ、確か紅茶に入れて飲んでたな。砂糖の代わりに入れて飲むんだ」


「葉っぱは?」


「葉っぱ?さぁ…赤い実しか知らない」


「そうなんだ……で…アディはなんでここにいるの?」


「え?……ルミアが元気にしてるか見に来た」


アディは腕を組み、半目でじっとルミアを見た。身長が高くなっていたせいで、少し威圧感が出ている。


「…元気だよ」

(アディ身長伸びたな…兄様と同じ14歳になるんだっけ?)


「よかったよ。それで、何してたんだ?」


「…葉っぱを見てただけだよ」

(なんか口調が強い…いつもと違う…)


「ふーん…ルミア、俺になんか隠してない?」


アディは久しぶりに会ったというのに、半目のままじとーっとルミアを睨む。


「…隠してないよ」

(やめてよ…)


「倒れたって聞いて心配で急いで帰ってきたのに…」


「倒れたのは3ヶ月も前だよ。どこ行ってたの?」


「外国だよ。シアドルト共和国」


「シアドルトって砂漠の!?」


「そ、だから時間がかかったんだ」


シアドルト共和国とは、ここ、グランパール魔法王国から南西の位置にある国。アラネスト大陸の砂漠地帯にあるオアシスに、商人が集まった多種族国家だ。


砂漠になる前は草原が広がっていた土地だった。獣人族とドワーフ族が派手な戦争を200年も続けたせいで、大地が砂漠化し、誰も住めないほどに荒れた土地となっていた。


しかし、約600年ほど前に大賢者オルグ・メイデンが戦争を終わらせて和睦し、オアシスを創ってシアドルト共和国が建国され、今では珍しい多種族国家として栄えている。


ルミアはオルグ関連の伝記本を読んでいたので、良く覚えていた。


「すごい!!どうだった!?季節関係なく暑い国なんでしょ??食事は?ドワーフ族と獣人族は見た?」


「落ち着けって。暑さは魔石でどうにかなったけど、日差しが強くてこの通り肌が焼けたよ。ドワーフと獣人族は仲良くしてたし、食事はうまかった」


「すごいなぁ〜…どうやっていったの??」


「船だよ。ルミアにお土産持ってきたんだけど…」


「ほんと!?嬉しい!!見せて見せて!!」


「隠し事する奴には渡せないなぁ〜」


「…してないよ。隠し事なんて…」

(話逸れてなかったー…)


「バレないとでも思ってるの?俺は知ってるよ?」


「…なんのこと?」

(怖い怖い怖い…)


アディは急に声音を低くして、真顔でルミアを脅すように真っ直ぐ見つめる。


「禁書庫で何か見つけたんじゃないか?倒れた前日から書庫に行かず、自室で一人こそこそと何かしてたんだろ?そして何より1ヶ月も眠り続けた後の行動が明らかにおかしい」


ルミアはアディがなぜ最近の行動を知っているのか、疑問に思わなかった。なぜなら彼はジャベリン家の息子だからだ。


ジャベリン家は商行で稼いだ金で情報を集め、集めた情報でさらに金を稼いできた一族だ。三公爵の地位が確立されてから現在に至るまで、どこにでもジャベリン家の諜報機関の人間が入り込んでいる。


それはアヴァロフにもヘイレストにも王宮にもいる。もちろん、誰がジャベリン家の諜報員か、わからない。つまり、情報は彼らに筒抜けということだ。



『ジャベリン家に嘘はつけない』


地を這う蛇のような目と、蜘蛛の巣のように張り巡らされた耳がどこにでもあるからだ、と有名な話だった。


だからこそ、ルミアはアディの言葉に驚かなかった。そして対処法をすでに考えていた。


「…別に…書庫に行かなかったのは全部読んだからだよ」

(これは本当)


「じゃぁ部屋で一人で何やってたんだ?」


「オルグ様について書かれてた本を覚えてて、部屋で思い返してた」

(嘘はついてない…)


「ふーん。なんで倒れたんだ?」


「わからない」

(これも本当…)


「で、何を隠してる?」


「…隠してないよ」

(納得してない!?)


ルミアは無意識に唇に力を入れていた。動揺すると唇に力を入れて、ムッとすることを知っていたアディは半分呆れながら話した。


「ルミアは嘘つくとわかりやすいんだ。やっぱり何か隠してるだろ」


「…」

(知らないよそんなの…黙秘!!)


「誰にも言わないから教えて?」


「…」

(絶対言うんだよ。この人)


「隠し事してるのは良くないことだよ?俺に今言ってくれるなら父上にも報告しないから」


「…」

(しつこい!!)


「なぁルミア、俺はそんなに信用できないのか?俺はルミアを家族だっておもってるんだ。なぁ…秘密は守るから」


ルミアはアディのジトっとしたしつこい視線に我慢できなかった。


「今は言えない」


「どうして?」


「言いたくない」


「じゃぁお土産いらないんだ?」


「…いらない」


ルミアはそっぽを向いてアディから走って逃げた。取り残されたアディはかなり深いため息をついて、頭を掻きむしった。



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