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連環の樹 —憂い令嬢、周りから囲まれてた—  作者: ダッキー


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次期、王の資質

外交官からの条約項目に、頭を抱えていた国王フラニール。側近からレオナルドの帰城が伝えられ、フラニールはため息をついた。時計に目をやり、22時とわかると、側近に声をかける。


「レオナルドをここへ」


「御意」


それだけ伝えると、宮仕は察してお茶の用意を始めた。宮仕は昔から仕える者で、妻との間を取り持ってくれた老いた女性。


「外交の使節団からの茶菓子があったな。以前も食べたことがあった…あの…」


「チョコレートでございますか?」


「あぁ、苦い方を頼む。甘いのはジョアンナたちにでも渡してやってくれ」


「かしこまりました」


そう言って宮仕は部屋を出る。今も昔も態度は変わらず、恭しく頭を下げ、退出した。フラニールは顎鬚を撫で、席を立ってソファへと移った。長く息子とは話していないので、少々緊張していた。


宮仕の仕事も終わり、茶菓子が並べられ、息子をしばらく待った。最初は外交のことで話をしようか、などと考えていると、レオナルドが入室した。


「ただいま戻りました。お疲れ様です、陛下。何か御用でしょうか?」


「あぁ、少し外交について聞こうと思ってな」


レオナルドは無表情で、愛想も何もない。昔から変わらず、王宮では無闇に微笑まなくなった。


「陛下、私は先ほどルミアの元から帰りまして、明日は学園です。手短に願えないでしょうか」


「わかっている。ただ、外交に来た帝国の皇女の話だ。お前を偉く気に入っているとのこと。お前も態度でわかるだろう」


息子の表情は変わらず、席に座ろうともしない。なので、父は机をトントン、と軽く叩いて座るよう促す。ゆっくりと息子は座り、お茶を一口。


「私には婚約者がおります。彼女以外に結婚は考えておりません」


「もちろん、わかっている。わたしとて、ルミアを王妃にと考えている。私が聞きたいことなど、お前ならわかっているだろう?」


フラニールは苦いチョコレートを口に入れ、お茶を飲んだ。息子は茶菓子に目もくれず、父から視線を逸らさない。


「今年の年末、学園の夜会に出たいとおっしゃるので、断りました。ですが、どうしても、と意見を変えないので、彼女の歓迎のための夜会を別日に設けるようにしました。もちろん、ルミアも婚約者として参加させます」


「会わせたくないと言っておいてか?帝国の使節団も参加する勢いだったが、お前はそれでいいのか?いくら相手が帝国の使者としても、少しわがままがすぎると思うが」


「それは父上としての意見ですか?王としての意見でしょうか?前者ならお気持ちは嬉しいですが、私は王子であり、国の象徴です。皇女のわがままと見えるのはわかりますが、彼女は決して愚かではないです。ここで拒否すれば、こちらが全ての条件を飲むまで王宮を離れないでしょう」


フラニールは眉根を上げ、レオナルドにわざとらしく驚いて見せる。そしてゆっくり口元を緩ませ、微笑んだ。


「お前はそこまでわかっていて婚約者を表に出す、ということだな。それがどういう当てつけになるか。いや、わざと見せつけるつもりだな?」


息子は目を閉じ、感情を抑えるかのように息を吐いた。父はその仕草に眉間を寄せる。


「陛下。私は婚約者を見世物などにしたくないんです。あの大規模な大会も、私は不愉快でした。結果的にルミアは5000人規模の国民に、涙を見られたのですから。彼女の強さは確かですが、まだ13歳になったばかりなんですよ?」


「王妃になるんだ。見られることに多少、慣れてもらう。今後、お前と共に外交も進めてもらいたいと考えているんだ。だが、夜会のパーティーにすら出したくないと聞いた時は驚いた。見世物などと王族を揶揄するなど、間違った考えだと思わないか?」


「結果的に参加させるのですから、何も問題ないでしょう。話はそれだけでしょうか?」


レオナルドはお茶を飲み干し、また父を見つめた。フラニールは息子の蒼紫の瞳に、影が見えた。そして娘のジョアンナの言葉を思い出す。——『兄様が恐ろしい』と。


「レオナルド。私は王としてお前を誇りに思う。私が考えるより先に行動し、女神の加護を持つ娘を婚約者に整えた。そしてパーティーに関しても、最初は考えると言っていたが、参加させることを選んだ」


「そうです。優先順位と取捨選択をしたまでです。陛下がしてきたことと同じことです。私は陛下の意に沿った。何か問題がおありですか?」


レオナルドは堂々として、一切の迷いなど見せなかった。フラニールはその息子の態度に違和感を覚える。こんなに聞き分けがいい王子でいいのか、と。選択に不満を抱いてもおかしくない年齢なのに、出来すぎた解答ではないか、と。


「問題などない。ただ、私たちに嫌と言えないのが辛くないかと思っただけだ。…私は王になるまでも、なってからも、嫌ほど自分を抑えてここまできた。だが、お前は違う。代替え案を用意するかとも思ったが、自分の気持ちを抑えて正しい選択を選んだ。誇らしいほどにな」


息子の顔が一瞬、曇った。きっと予想していた王としての言葉ではなく、父としての心配だったからだろう、とフラニールは考えた。けれど、息子の表情は微笑みに変わった。それは貼り付けたような、妻が喜ぶ作り笑顔。


「ご心配、ありがとうございます。もったいないお言葉です。陛下、私は何も問題ありません。もう遅いですから、休ませてください」


「……そうか。明日も学園だったな」


「陛下も、早くお休みください。それと、ジョアンナが妙なことを言っておりました。ルミアを女神の生まれ変わりなどと言って、敬称をつけて呼んでました。父上もご多忙だとは思いますが、余計な争いにならないように、一言お願いします」


フラニールはゆっくり、顎髭に手を伸ばした。そして考え込み、視線をチョコレートへと向ける。退室しようとしている息子に手を挙げ、レオナルドの目を訝しむように見る。


「…生まれ変わりなのか?」


「違うに決まっています。陛下、彼女は見えないものが見えるだけです。多くの本の知識を学んで聡明なだけで、女神が人間に生まれ変わるでしょうか?女神が人間に降格したように聞こえますが?」


フラニールは息子の言葉に考えを改めた。女神は神だ。人間になりうるはずがない、と。なぜ娘の意見に流されそうになったのか、と自分で自分を笑うように、フラニールは小さく笑う。


「はは、お前の言うとおりだな。少し教育が必要なようだ。すまない、忘れてくれ」


レオナルドは父に一礼して、退室した。フラニールは力が抜けたように、背をもたれる。


(なるほど。ジョアンナが恐れるほどの覇気。私にはなかったものだ)


(思わず、体が強張ってたな。父にそっくりな王の威厳を、あの年で持っているとは…)


(何も問題はない…問題があるのは、私の方かもしれん)


宮仕が入室し、机を片付け始める。早く体を気遣って、寝ろ、と言いたげにチラリと視線を配る。フラニールも残ったお茶を飲み干し、席を立った。


王宮では現在、帝国の皇女が滞在している。誰もが羨むほどの美しさに、宮仕が一目見ようと持ち場を離れ、処罰されたほど。外交の席では顔をベールで隠し、レオナルドには顔を見せているとの噂が流れていた。


年末の夜会には、婚約者を見せる。その噂は臣下たちのネタとなっていた。レオナルドがどちらに微笑むのか、と。フラニールはルミアを心配して馬車を外で待つほどの息子の姿を思いだし、皇女に可能性はない、と心で断言した。


(何も、問題はない)

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