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7.『中抜きの残滓(デリート・ジャンク)』

俺は渡された辞令書を、指先が白くなるほど強く握りしめた。

その紙面からは、新政権の執念ともいえる「超高解像度」な質感が伝わってくる。微細な繊維の一本一本までが、まるで生き物のように俺の掌に馴染んでいく。


「……皮肉だな。親父が『中抜き』してボロボロにしたこの国を、今度は俺が『描き込み』で救えってのか」


官房長官は、表情ひとつ変えずに俺を見つめ返した。彼女の瞳に宿るハイライトは、冷徹なまでに澄んでいる。

「救うのではありません。**『上書き』**するのです。あなたの父が残した、あのノイズまみれのラフ画を。一フレームの妥協も許さない、完璧な完成原稿ファイナルカットで」


彼女が合図を送ると、黒塗りの公用車のドアが音もなく開いた。車内には、最新鋭の「液タブ型・国家運営コンソール」が鎮座し、淡い青色の光を放っている。


「……分かったよ。やってやる」


俺は車に乗り込み、コンソールに触れた。

その瞬間、俺の視界は現実リアルを超越し、日本全土を俯瞰する「レイヤー構造」へと接続された。

眼下に広がるのは、京あに(仮)政権によって彩色された美しい街並み。だが、その地下深く、血管のように張り巡らされた「旧・地下議事堂」のセクションだけが、赤黒いエラーログを吐き出しながら激しく点滅していた。


そこだ。親父が、この国の『色彩予算タックス』を隠匿し、世界を再び灰色の静止画へ引きずり込もうとしている根源。


「……全レイヤー、ロック解除。作画解像度、極限リミットまで上昇」


俺の指がコンソールの上を滑る。

俺たちが描くのは、もはや単なる政策じゃない。

この国に生きる、名もなきエキストラたちの「涙の透明度」や、誰も見ていない路地裏の「影の深さ」だ。


「親父……あんたの時代は、もう『全カット欠番』だ」


加速する公用車は、夜の首都高を光の尾を引いて駆け抜ける。

フロントガラスの向こう側、東京の夜景が、かつてないほど繊細な撮影処理コンポジットによって、宝石をぶちまけたような輝きを放ち始めた。


この物語のクライマックス。

俺は自分の血という名の「インク」を使い切り、この国に永遠に消えない、最高の一線を引いてみせる。

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