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青空と海と大地 ーそらとうみとだいちー  作者: 栗須帳(くりす・とばり)
第4章 新たなる挑戦

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029 出会い

 


 その日、青空(そら)は繁華街にいた。


 大地が高校を卒業してから、何となく家に居辛くなっていた。

 どこで働いても長続きしない。華奢(きゃしゃ)な体と眼帯のおかげで、周囲とうまく馴染めなかった。それでも頑張れていたのは、大地がいたからだった。


 父親に殴られ、母親に罵倒され。姉である自分だけが頼りで、いつも後をついてきた大地。そんな大地のことが愛おしかった。もし自分が見捨てれば、大地は生きていけないだろう、ずっとそう思っていた。

 そう思っていたのに。成長した大地はいつの間にか、自分より社会に順応出来るようになっていた。

 頭もよく、家でいつも資格の勉強をしている。そんな弟に対し、青空(そら)は強烈な劣等感を持つようになっていった。


青空姉(そらねえ)、今までありがとな。これからは俺が青空姉(そらねえ)を守るから」


 そう言った大地を直視出来なかった。

 悪気がないのは分かってる。心からそう思っていることも理解していた。

 しかしその時の青空(そら)は、お前の役目は終わったんだよ、そう言われたような気がしていた。

 事実、あっさりと自分の稼ぎを越えられてしまい、青空(そら)の自尊心は音を立てて崩れていった。

 私にはもう価値がないのだろうか。そんな自虐的な思考に(さいな)まれ、いつしか青空(そら)は働く意欲をなくしていった。


 そんな青空(そら)に対し、大地は愚痴のひとつもこぼさなかった。それがまた、青空(そら)を苦しめた。

 一緒にいると息苦しくなり、大地が帰宅する頃を見計らって、こうして夜の街を徘徊する。そんな日々が続いていた。

 その日も適当な場所に座り煙草に火をつけると、家から持ってきた缶ビールを開けて飲みだした。





「お嬢ちゃんお嬢ちゃん、こんな時間に何してるの?」


 またか……そう思い顔を上げると、男が二人、自分を見降ろしていた。

 茶髪と黒髪。見た感じ、大学生と言ったところか。


「何か用?」


 容姿に不似合いな大人びた物言いに、男たちが一瞬固まった。そして顔を見合わせて笑った。


「あはははははっ、お嬢ちゃん、面白いね。そんなに構えなくて大丈夫だよ。僕たち別に、どうこうしようって思ってる訳じゃないから」


「どうこうしないんなら何よ。向こう行きなよ」


「おいこいつ、眼帯なんかしてるぞ」


「そういうお年頃なんだろ。キャラ作りだよ、キャラ作り」


「あんたら、歳いくつよ」


「お兄ちゃんたちは19歳だよ」


「やっぱガキか……」


 大地よりひとつ年上なのに、目の前の二人がどうしようもなく子供に見えて、青空(そら)が苦笑した。その笑みに、茶髪が不快な表情を浮かべた。


「おいお前、今なんつった」


「おいおい、子供相手にマジになるなって。ええっとね、駄目だよお嬢ちゃん、大人にそんな態度とったりしたら。お兄ちゃんだから許してあげるけど、他の人ならただじゃ済まないよ」


「いいから向こう行けって。ガキに用はないんだよ!」


 どこまでも自分を見下げる態度に苛立ち、青空(そら)が煙草を投げつけた。


「このガキっ!」


 茶髪がそう声を荒げ、青空(そら)の腕をつかむ。


「なんだよお前! 気安く触るんじゃねえよ! 離せ、離せよ!」


「うるせえんだよ、甘い顔してたらつけあがりやがって。舐めんじゃねえぞ!」


 怒鳴りながら青空(そら)を無理矢理立たせる。咄嗟に青空(そら)が、手に持つビールを茶髪にぶちまけた。


「……てめえ」


 茶髪が顎をつかみ、怒りの形相で青空(そら)を見据える。

 その表情に。


 青空(そら)の中で眠っていた、忌まわしき過去が蘇ってきた。


「いやああああっ! 離せ、離せええええっ!」


「騒ぐんじゃねえよクソガキ! お前のビールでズボンが汚れちまったんだ、詫びいれろ詫び!」


「いやあああああっ! 大地、大地いいいいっ!」




「ちょっと失礼。女性相手に男二人、何をされてるんですか」




 背後から聞こえた、穏やかな声。

 振り向くと、そこには眼鏡をかけた色白の青年が立っていた。


「なんだお前、こいつの知り合いかよ」


「いえ、そういうことじゃなくてですね。こんな場所で女性を恫喝してる人がいるんです。見過ごせないと思いまして」


「関係ないなら向こう行ってろ!」


「そういう訳にはいきませんよ。女性が嫌がってないならともかく、どう見てもあなたのしてることは犯罪の一歩手前です。その辺りでやめておくのが賢明ですよ」


「こいつにビールをかけられたんだ! おかげでズボンがずぶ濡れなんだよ!」


「洗えば……いいと思いますけど」


「……お前、喧嘩売ってんのか」


「そんなつもりはありません。汚れたのなら洗えばいい、そう言ってるだけですけど」


 青空(そら)の手を離し、茶髪が色白の男に向かっていく。そして胸倉をつかみ、睨みつけた。


「次は僕ですか? でもまあ、女性相手よりは健康的ですね」


「うるせえっ!」


 言葉と同時に頬を殴る。色白の男は吹っ飛ばされ、壁に激突した。


「きゃあああああっ!」


 青空(そら)が叫ぶ。


「陰キャ風情が首突っ込んでんじゃねえぞ!」


 茶髪が肩を震わせて怒鳴る。

 その声に、青空(そら)の叫び声に。通行人たちが何事かと足を止めた。


「……おいおい、やりすぎだって。もういいじゃないか、飲み直そうぜ」


 周囲の視線に気付いた黒髪が、そう言って茶髪をなだめる。


「ちっ……クソが」


 そう毒づき、男が色白に向けて唾を吐いた。


「おい君たち、そこで何してるんだ」


「やべっ、警察だ。逃げるぞ」


 そう言って男たちが足早に去っていく。





 姿を見せた警官が見たもの。

 それはうずくまった色白の男と、傍で泣きじゃくる少女だった。


 それが青空(そら)と、浩正(ひろまさ)の出会いだった。




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